悪役令嬢が攻略対象の幸せを願っては駄目ですか?

こうやさい

文字の大きさ
55 / 59
あったかもしれないしなかったかもしれない話

星占いは信じない

しおりを挟む
 あれははくちょう座、それはこと座、こっちは……形は覚えているけれど、何座かは忘れてしまいましたわ。もともとあまり興味もありませんでしたし。七夕に関係があったのだったかしら?
 この世界には七夕もなければギリシャもないので当然ギリシャ神話はありません。なので同じ星座はないはずですけれど、見上げる空の星の並びは曖昧な記憶で見ると数こそ多いものの同じに思えます。そこまで設定しなかったのか、適当に処理したのか、あえて日本と同じ星並びにしたのかどれでしょう?
 恐らくあえてなのでしょうね。設定資料集に太陽暦換算できる誕生日が設定されていましたし、ヒロインに誕生日を入力することが出来ましたもの。
 それで何が出来るかというと神話がないからそのものではないものの要するに星占いです。ヒロインの誕生日によって相性のいいキャラと悪いキャラがいましたの。ほんの少しの差ですけど。
 もちろんずるい大人だったわたくしは自分の誕生日ではなくネットで見た相性のいい誕生日を入れましたわ、との。実は攻略対象と相性のいい誕生日を入れるより効率がいいらしいんですの、誰を攻略しても変えなくてもいいですし。
 けどルーク様を攻略するときは、効率よりも彼との相性のいい日を選びましたけど。
 ……実際の誕生日に祝って欲しいと思うくらいのノリはありましたけど、ゲームはリアルタイムで進むものではないですし、親しくなる前に誕生日が終わってしまってはお祝いも何もないですもの。

「リーゼ?」
 ゲームの事を思い出していたせいか、その声をほんの少し懐かしいと思いました。実際は半日も間をおいてませんけれど。
「お義兄さま」
 そちらを向くと、バルコニーの手すり二つ分越しにお義兄さまがこちらに近づいてくる姿が見えます。
 慌ててわたくしもそちらに向かいます。
 こういうとお義兄さまの部屋がお隣のようですし、事実そうなのですけれど、棟が別だったりするので、話は辛うじて出来てもベタな幼なじみ物のマンガみたいに伝って移動出来るような距離ではありません。……もしかしたらお義兄さまは出来るかもしれませんけど、わたくしには無理です。
 お義兄さまが引き取られる際に、ちょうど手狭になっていたしと増築し、そちらをお義兄さま用にしたとか。要するに二世帯住宅のようなものですわね。階下で繋がってますし、内装に差があるわけでも狭いわけでもないですし、食事とかは一緒に取ってますので、お義兄さまをないがしろにしているわけではなく将来を見越しての事かと。
 順当に行けば成人後すぐにお義兄さまは子爵位を引き継ぎますけど、いくらお義兄さまでもすぐに一人で出来るわけでもないでしょうから即座にこのうちから独立する訳ではないはず。その時、対外的に別の家だとする必要があるときの為にこんなことにしているのでしょう。親戚でも線引きは必要ですもの。
 お父様達はわたくしに甘いですけれど、結局お義兄さまにも甘いのです。そうして甘えてもしまう訳でしょうけれど。

「眠れないのかい?」
「少し、夜風に当たりたくなりましたの」
 はくちょう座が空にある以上、今は夏です。じとっとした湿気はありませんが、四季はあるので少し暑かったのは事実です。ちなみに虫を媒介にした伝染病などはイベントでもありません。乙女ゲーム素晴らしいです。どうせなら蚊自体いなければいいのにと思わなくもないですけど、ベッドの天蓋のある理由がどうとか昔聞いた事があるような?
「あと、星を見たくなって」
 星占いを思い出す出来事があったから。……まぁ、毎年あるんですけど。

 今日はお義兄さまの誕生日でした。
 乙女ゲームということで華やかなパーティーでもと思ってましたけれど、リーゼロッテの記憶にもその後にも誕生日にそんなことをした記憶はありません。わたくしがデビュタント前だからではなく、一般的に家族や恋人などと内輪で祝うものなのだとか。もっとも内輪の規模が前世と違いますし、必要ならば別の日に改めて席をもうけるそうですが。
 貴族がここまでアットホームなのは乙女ゲームだからなのかしら? その分悲惨な攻略対象もいましたけど。あれは主観的にはわりと幸せなその後のルートもありましたわね。
 お義兄さまがまた一つ年を取るということは、ゲームの始まりと終わりに少しずつ近づいているということ。
 わたくしの存在はお義兄さまの幸せにすこしは役に立っているのでしょうか?
 それともやはり邪魔しかしていないのでしょうか?

 星占いならリーゼロッテとの相性はいいんですのよ。入力した日付は忘れておりませんわ。
 もっともサポートキャラとの間でもよかったのですから恋愛に関する相性ではなかったのでしょう。
 けれど義兄妹として相性がいいのなら、どうしてこんなに切ないのでしょう?
 二本の手すりの間がディスプレイを挟むよりもよほど遠く思えます。

「気が済みましたから、わたくしは休みますね。お休みなさい、お義兄さま」
 なんとなく居たたまれなくなり礼を取り背を向けます。
 きっと眠いので余計にネガティブになっているのでしょう。

 ギリシャ神話はないけれど、例えるならばわたくしはカサンドラかしら? 神話以外のところで一部有名になってましたけど。
 もっともわたくしはここが乙女ゲームの世界だとか、前世の記憶があるとかいいませんから、信じてもらえないわけではないのですけど。
 正確には未来が分かるわけでもないんですけど。
 子爵家ルートの時のお義兄さまは既にこの場所を出ていたなと思い出す。いま考えると生家の方に移られましたのね。
 その時わたくしは何を思ってどうしているのでしょう?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

私を見下していた婚約者が破滅する未来が見えましたので、静かに離縁いたします

ほーみ
恋愛
 その日、私は十六歳の誕生日を迎えた。  そして目を覚ました瞬間――未来の記憶を手に入れていた。  冷たい床に倒れ込んでいる私の姿。  誰にも手を差し伸べられることなく、泥水をすするように生きる未来。  それだけなら、まだ耐えられたかもしれない。  だが、彼の言葉は、決定的だった。 「――君のような役立たずが、僕の婚約者だったことが恥ずかしい」

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

処理中です...