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あったかもしれないしなかったかもしれない話
深い意味がなくっても
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「お帰りなさいませ、お義兄さま」
ホールへと続く階段を降りる途中で、お義兄さまがお帰りになられていることに気づきました。
「ただいまリーゼ」
お義兄さまの笑顔は相変わらず素敵で胸がどきどきするのに、どこか安心できて、だからこそ寂しくなります。わたくしのためだけにあるわけではないのですから。
「きょうもどこかに寄っていらしたの?」
「そうだよ」
殿方だからなのか、成長したからか、……子爵になるための社会勉強なのか、お義兄さまは寄り道を許されるようになりました。
もっとも、こっそり護衛を付けていることはわたくしも、恐らくお義兄さまも知ってらっしゃるでしょうけれど。
「おみやげ」
下に降りるとそういってお義兄さまは手のひらに載るような大きさの硝子瓶を渡して下さいました。
可愛らしいぽってりとした形で、不均衡な厚みがあり、少し濁った色をしたそれの中に何やらカラフルなものが入っています。
……コルクの蓋を開けて確認してみても、こんぺいとうにしか見えませんでした。
これはずいぶん日本的なものな気がしますが、けれど江戸時代開始前後に外国から入ってきたとかなにかに書いてあったような?
そう考えると中性ヨーロッパ風でもありなのかしら?
見た目が可愛らしいので乙女ゲームとしてはありだと思います。
「ありがとうお義兄さま」
去来する懐かしさはとりあえず瓶と共に蓋をして、お義兄さまにお礼を言います。
お義兄さまは微笑って、わたくしの頭を軽くポンポンと叩くと、その手を離し奥へと向かっていきました。
……子供扱いされているだけとわかっているのに、どうしてこんなにどきどきするんでしょうね……兄と思えてないからですけど。
乙女ゲームの時もルーク様に色々といただきましたわ。
イベントというよりファンサービスのようなもので、発生条件も幾つかあり、運がよければ贈り物をもらえることもあるという感じで、それによって好感度の増減はないとネットで読んだ記憶があります。さらに言うなら残りません、アイテム欄なんてないし、スチルは残されないし、背景はそんな細かい仕事しないし、後々話題にしたりもしないので、記憶の中以外ないのと同じです。イベントとして贈り物をもらうものはまた別ですか。
くださる物もキャラによりけりという感じで、そもそもあまりくれないキャラもあれば、段階を踏んでくれるものが変わるキャラ、最初から高価なアクセサリーなどの、現実的に考えるなら親しくない相手に渡すな、重いわ、趣味の押しつけか? みたいなキャラも居ました。……殿下ですけどね。国の予算とか使い込んでないか心配です。確かにゲームやってる最中はちょっと嬉しかったんですけど、現実にほいほい買えるものでも使えるものでもないんですもの、夢はみたいです。
ルーク様は、最初から最後まで消えものでした。焼き菓子とか、花とか、小さな香水とか。……香水はちょっと頑張ってる気がしますけど、代わりにめったにないです。
結局のところ、ぎりぎりまでヒロインを家庭の事情に巻き込んでいいか、悩んでいたんでしょう。コアな人はリーゼロッテが出て来てからがルーク様ルートは本番だと言ってましたし。そこまでが微妙に他のキャラよりは大人しいのは確かなんですよね、ルーク様の決心が固まるのを待つ部分があるというか。
だから残らないその場限りとはいえ、贈られるのは恋人や好きな人に対するものではなく、お世話になったお礼とか友達へのおすそわけとか……身内へのおみやげとか、その辺りでもありそうな、現実にもらったとしたら殿下とは違う意味で真意が分からないようなささやかな品物が多かったです。
……そこまで想っている人を巻き込む決意をしたからこそ、駆け落ちもするし、かばいもしたのでしょう。
それらの贈り物は、今はゲーム内だけにしかないですが、ものがものだけにいつかリーゼロッテにおみやげとしてくれるのではないかと恐れています。
それが前世でヴァレンタインに友人たちがばらまいた義理ですらないチョコ以上に深い意味はないとわかっていても。
前世のゲームのプレイキャラも今のリーゼロッテも中の人はある意味同じなのだけど。
それでも違う相手に同じものを渡さないでほしいと思うのです。
おみやげなんてむしろ皆の分を一緒に買ったりするものだけど。
そもそもそこまで深く考えて贈るものでもないのでしょうけれど。
わたくしがもらったものは、誰かにもあげたもの中のひとつではなく、わたくしだけのものにしたいのです。
そう思っているのに。
いつかヒロインしかもらえない物がほしくなったりするのでしょうか?
取り上げてでもとでも思うようになるのでしょうか?
ホールへと続く階段を降りる途中で、お義兄さまがお帰りになられていることに気づきました。
「ただいまリーゼ」
お義兄さまの笑顔は相変わらず素敵で胸がどきどきするのに、どこか安心できて、だからこそ寂しくなります。わたくしのためだけにあるわけではないのですから。
「きょうもどこかに寄っていらしたの?」
「そうだよ」
殿方だからなのか、成長したからか、……子爵になるための社会勉強なのか、お義兄さまは寄り道を許されるようになりました。
もっとも、こっそり護衛を付けていることはわたくしも、恐らくお義兄さまも知ってらっしゃるでしょうけれど。
「おみやげ」
下に降りるとそういってお義兄さまは手のひらに載るような大きさの硝子瓶を渡して下さいました。
可愛らしいぽってりとした形で、不均衡な厚みがあり、少し濁った色をしたそれの中に何やらカラフルなものが入っています。
……コルクの蓋を開けて確認してみても、こんぺいとうにしか見えませんでした。
これはずいぶん日本的なものな気がしますが、けれど江戸時代開始前後に外国から入ってきたとかなにかに書いてあったような?
そう考えると中性ヨーロッパ風でもありなのかしら?
見た目が可愛らしいので乙女ゲームとしてはありだと思います。
「ありがとうお義兄さま」
去来する懐かしさはとりあえず瓶と共に蓋をして、お義兄さまにお礼を言います。
お義兄さまは微笑って、わたくしの頭を軽くポンポンと叩くと、その手を離し奥へと向かっていきました。
……子供扱いされているだけとわかっているのに、どうしてこんなにどきどきするんでしょうね……兄と思えてないからですけど。
乙女ゲームの時もルーク様に色々といただきましたわ。
イベントというよりファンサービスのようなもので、発生条件も幾つかあり、運がよければ贈り物をもらえることもあるという感じで、それによって好感度の増減はないとネットで読んだ記憶があります。さらに言うなら残りません、アイテム欄なんてないし、スチルは残されないし、背景はそんな細かい仕事しないし、後々話題にしたりもしないので、記憶の中以外ないのと同じです。イベントとして贈り物をもらうものはまた別ですか。
くださる物もキャラによりけりという感じで、そもそもあまりくれないキャラもあれば、段階を踏んでくれるものが変わるキャラ、最初から高価なアクセサリーなどの、現実的に考えるなら親しくない相手に渡すな、重いわ、趣味の押しつけか? みたいなキャラも居ました。……殿下ですけどね。国の予算とか使い込んでないか心配です。確かにゲームやってる最中はちょっと嬉しかったんですけど、現実にほいほい買えるものでも使えるものでもないんですもの、夢はみたいです。
ルーク様は、最初から最後まで消えものでした。焼き菓子とか、花とか、小さな香水とか。……香水はちょっと頑張ってる気がしますけど、代わりにめったにないです。
結局のところ、ぎりぎりまでヒロインを家庭の事情に巻き込んでいいか、悩んでいたんでしょう。コアな人はリーゼロッテが出て来てからがルーク様ルートは本番だと言ってましたし。そこまでが微妙に他のキャラよりは大人しいのは確かなんですよね、ルーク様の決心が固まるのを待つ部分があるというか。
だから残らないその場限りとはいえ、贈られるのは恋人や好きな人に対するものではなく、お世話になったお礼とか友達へのおすそわけとか……身内へのおみやげとか、その辺りでもありそうな、現実にもらったとしたら殿下とは違う意味で真意が分からないようなささやかな品物が多かったです。
……そこまで想っている人を巻き込む決意をしたからこそ、駆け落ちもするし、かばいもしたのでしょう。
それらの贈り物は、今はゲーム内だけにしかないですが、ものがものだけにいつかリーゼロッテにおみやげとしてくれるのではないかと恐れています。
それが前世でヴァレンタインに友人たちがばらまいた義理ですらないチョコ以上に深い意味はないとわかっていても。
前世のゲームのプレイキャラも今のリーゼロッテも中の人はある意味同じなのだけど。
それでも違う相手に同じものを渡さないでほしいと思うのです。
おみやげなんてむしろ皆の分を一緒に買ったりするものだけど。
そもそもそこまで深く考えて贈るものでもないのでしょうけれど。
わたくしがもらったものは、誰かにもあげたもの中のひとつではなく、わたくしだけのものにしたいのです。
そう思っているのに。
いつかヒロインしかもらえない物がほしくなったりするのでしょうか?
取り上げてでもとでも思うようになるのでしょうか?
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