悪役令嬢が攻略対象の幸せを願っては駄目ですか?

こうやさい

文字の大きさ
56 / 59
あったかもしれないしなかったかもしれない話

深い意味がなくっても

しおりを挟む
「お帰りなさいませ、お義兄さま」
 ホールへと続く階段を降りる途中で、お義兄さまがお帰りになられていることに気づきました。
「ただいまリーゼ」
 お義兄さまの笑顔は相変わらず素敵で胸がどきどきするのに、どこか安心できて、だからこそ寂しくなります。わたくしのためだけにあるわけではないのですから。
「きょうもどこかに寄っていらしたの?」
「そうだよ」
 殿方だからなのか、成長したからか、……子爵になるための社会勉強なのか、お義兄さまは寄り道を許されるようになりました。
 もっとも、こっそり護衛を付けていることはわたくしも、恐らくお義兄さまも知ってらっしゃるでしょうけれど。

「おみやげ」
 下に降りるとそういってお義兄さまは手のひらに載るような大きさの硝子瓶を渡して下さいました。
 可愛らしいぽってりとした形で、不均衡な厚みがあり、少し濁った色をしたそれの中に何やらカラフルなものが入っています。
 ……コルクの蓋を開けて確認してみても、こんぺいとうにしか見えませんでした。
 これはずいぶん日本的なものな気がしますが、けれど江戸時代開始前後に外国から入ってきたとかなにかに書いてあったような?
 そう考えると中性ヨーロッパ風でもありなのかしら?
 見た目が可愛らしいので乙女ゲームとしてはありだと思います。
「ありがとうお義兄さま」
 去来する懐かしさはとりあえず瓶と共に蓋をして、お義兄さまにお礼を言います。
 お義兄さまは微笑って、わたくしの頭を軽くポンポンと叩くと、その手を離し奥へと向かっていきました。
 ……子供扱いされているだけとわかっているのに、どうしてこんなにどきどきするんでしょうね……兄と思えてないからですけど。

 乙女ゲームの時もルーク様に色々といただきましたわ。
 イベントというよりファンサービスのようなもので、発生条件も幾つかあり、運がよければ贈り物をもらえることもあるという感じで、それによって好感度の増減はないとネットで読んだ記憶があります。さらに言うなら残りません、アイテム欄なんてないし、スチルは残されないし、背景はそんな細かい仕事しないし、後々話題にしたりもしないので、記憶の中以外ないのと同じです。イベントとして贈り物をもらうものはまた別ですか。
 くださる物もキャラによりけりという感じで、そもそもあまりくれないキャラもあれば、段階を踏んでくれるものが変わるキャラ、最初から高価なアクセサリーなどの、現実的に考えるなら親しくない相手に渡すな、重いわ、趣味の押しつけか? みたいなキャラも居ました。……殿下ですけどね。国の予算とか使い込んでないか心配です。確かにゲームやってる最中はちょっと嬉しかったんですけど、現実にほいほい買えるものでも使えるものでもないんですもの、夢はみたいです。
 ルーク様は、最初から最後まで消えものでした。焼き菓子とか、花とか、小さな香水とか。……香水はちょっと頑張ってる気がしますけど、代わりにめったにないです。
 結局のところ、ぎりぎりまでヒロインを家庭の事情に巻き込んでいいか、悩んでいたんでしょう。コアな人はリーゼロッテあくやくれいじょうが出て来てからがルーク様ルートは本番だと言ってましたし。そこまでが微妙に他のキャラよりは大人しいのは確かなんですよね、ルーク様の決心が固まるのを待つ部分があるというか。
 だから残らないその場限りとはいえ、贈られるのは恋人や好きな人に対するものではなく、お世話になったお礼とか友達へのおすそわけとか……身内へのおみやげとか、その辺りでもありそうな、現実にもらったとしたら殿下とは違う意味で真意が分からないようなささやかな品物が多かったです。
 ……そこまで想っている人を巻き込む決意をしたからこそ、駆け落ちもするし、かばいもしたのでしょう。

 それらの贈り物は、今はゲーム内きおきのなかだけにしかないですが、ものがものだけにいつかリーゼロッテわたくしにおみやげとしてくれるのではないかと恐れています。
 それが前世でヴァレンタインに友人たちがばらまいた義理ですらないチョコ以上に深い意味はないとわかっていても。
 前世のゲームのプレイキャラヒロイン今のリーゼロッテわたくしも中の人はある意味同じなのだけど。
 それでも違う相手に同じものを渡さないでほしいと思うのです。
 おみやげなんてむしろ皆の分を一緒に買ったりするものだけど。
 そもそもそこまで深く考えて贈るものでもないのでしょうけれど。
 わたくしがもらったものは、誰かにもあげたもの中のひとつではなく、わたくしだけのものにしたいのです。

 そう思っているのに。
 いつかヒロインしかもらえない物がほしくなったりするのでしょうか?
 取り上げてでもとでも思うようになるのでしょうか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

『候補』だって言ったじゃないですか!

鳥類
恋愛
いつのまにやら『転生』して美幼女になっていましたよ!魔法がある世界とかサイコーか! 頑張って王宮魔導師になるぞ!と意気込んでいたら…いつのまにやら第一王子殿下の『婚約者候補』にされていた…!! 初投稿です。 異世界転生モノをやってみたかった…。 誤字脱字・タグ違いなどございましたらご一報いただければ幸いです。 内容については生温くサラッと読んでいただけたらと…思います。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

処理中です...