我が罪への供物

こうやさい

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望郷

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 冬だというのに海辺の貸別荘に借主が現れた。
 滞在されるのはお嬢さま一人。
 聞かずとも何か事情があるのだろうと分かるし、分からずとも管理人一家に踏み込む権利はない。
 普段冬に利用する人はいず、仕事といえば最低限の管理と大雪の心配ぐらいだったので、毎年兼業をしていたために正直なところ手が足りない。
 そこで娘である私もかり出された。冬休みが潰れたといいたいところだが、その辺のバイトよりよほど実入りはよかったりするので何ら不満はない。

 お嬢さまは私より年下だが年齢は近かった。
 だから気があった……とはとても言えない。
 正直お嬢さまが何を考えているのか理解出来ない。
 特に昼食後から夕食前までの行動が。
 朝は普通に起きて朝食を摂り、昼食までは読書をしたりレースを編んだり室内で暖かく過ごしている。
 夕食後は入浴し、適度にくつろいだ後眠りにつく。
 それだけならあまり管理人となれ合わない人というだけだろう。
 ただ、毎日昼下がりに海を見に行って夕食まで帰ってこないのが謎で仕方ない。
 一度案内に同行したことがあるが、真っ黒なコートを着て、真冬だというのに真っ白な日傘を差して堤防の傍から延々と海を眺めていた。
 海がそこまで珍しいのですか? と尋ねてみたが、お嬢さまの屋敷の近くにも海があるという。
 なのに毎日日傘を差して海を見に行く。

 ある日、お嬢さまが夕食の時間になっても帰ってこないことがあった。
 母は夕食が冷めないように気をつけなければならず、父は兼業の仕事の方で手が離せない。
 もう外は暗かったが、そこは地元の気安さでちょっとその辺を回ってくると言い残し、探しに行く。
 お嬢さまはいつもの海、けれど海岸の波打ち際でまだ日傘を差したまま海を見ていた。
 こちらに気づいたのか振り返り、機嫌がいいのか微笑ったのが暗かったのにはっきりと見えた。
 近くまで寄っていき、夕食の時間である事を告げ連れて行こうとすると引き留められる。
 そうして何故かお嬢さまの家に伝わる伝承の話をされた。
 血族を一人海神様の嫁に出すこと。
 残された娘はそれを血族の女性のみに伝えていくこと。
 あれだけ海を見ていた人の言うことだから、嫁に出すが単純にそんな名字の人と許嫁にされるとかそんな意味ではないと分かる。
 恐らく海に飛び込むつもりなのだろう。
 けれど私にその話をした理由が分からない。何かを訴えたいなら遺書でもしたためればいいし、死にたくないのなら逃げればいい。
 そんな理由なら止めて欲しいではないだろう。そもそも血族以外に言っていいんだろうか?
 そういうと彼女は微笑って、私の祖母がここに駆け落ちしてきたという、地元の年寄りなら誰でも知っているような話をした。
 閉鎖的な場所だった。祖父の母親の実家が在った場所だとかで完全に無関係ではないのだが、それでもよそ者を簡単に歓迎してくれるようなところではなかった。
 今一家が貸別荘の管理人をしているのはその結果だ。よそ者の対応はよそ者に任せてしまえとそうなった。
 私はさほどではないけれど既に亡くなった祖母はもちろん、祖父も父もはっきり言わないがいろいろあったらしい。
 その祖母が大叔母だとお嬢さまは言う。結局海から離れられなかったのね、と。
 つまり私はお嬢さまのはとこということだろうか?
 そして血族だと?
 つまり伝えればいいのかと尋ねると、伝えられるほど知らないでしょうと返させる。確かに今聞いた分がすべてだ。
 あなたは、とお嬢さまの手から日傘が落ちる。
 嫁ぐ方、と空いた手が首に伸びてくる。
 どこにそんな力があったのだろう? 絞まっていく首に必死に抵抗する。
 あなたはね、流された日傘だけを見て波打ち際まで進み足を取られたの。
 不意に手が首から離され、体が引き倒される。
 いつもなら手を付いて支えられただろう体は抵抗していたせいで却って無防備に水面に倒れ込む。
 そのタイミングで肺は反射的に空気を吸おうとする。
 けれど周りにあるのは水だけだ。
 溺れると分かった。
 あなたがいてよかったわ、と呟く言葉が聞こえた気がする。
 その意味を考える時間は残されていなかった。
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