もったいなくはないんでしょう?

こうやさい

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もったいなくはないんでしょう?

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 ――そうしてあたしは捨てることにした。


 それはいうなれば初恋の形見だった。
 ただ見ているだけの先輩だった。
 言葉を交わしたこともほとんどなく、時が経ち本当に好きだったのかと尋ねられれば、きっとただの憧れだったと笑えるときも来るのだろう。
 けれど今、そんな借り物の思考はあたしの中には入ってこない。
 ただ先輩に恋人がいたのが悲しくて胸が痛くて泣いていた。
 だからそれを見たくなくて衝動的にゴミ箱に捨てた。

 風の強い日だった。
 タオルを飛ばしてしまい木に引っかけた。
 あたしでは手が届かなくて困っていたそれを先輩は軽々と取ってくれた。
 あまりにもベタといえばベタ。
 だからこそ素直に恋に落ちることが出来たのだと思う。

 想い出に変わったならばきっとまた大事に思えるだろうそれも、今は痛みを増すだけのものでしかない。
 タオルなのに流れている涙を減らすよりも増やしてしまう。
 だから捨てたことは少なくとも後悔していなかった。


 その、捨てたはずのタオルを家族が目の前で使っているのを見るまでは。


 ……ゴミ箱の中の物を拾うというのもどうかと思うが、生ゴミを捨てるような場所ではないので水分はほぼなく、ある意味地面に落ちた程度のタオルと大差はないとは思う。洗えば使うことに抵抗はないだろう。
 そしていい加減部屋のゴミ箱の片付けを家族に任せっきりというのも問題だったのだろう。
 更にいうならあのタオルは学校に持って行くのだからと家にある粗品タオルや普段使いのものよりも少し高い物をねだった。
 先輩が触った後はさすがに一度は洗ってもらいこそしたが、その後は大事に使わず置いておいたのでまだまだ綺麗だ。
 物だけを見ればもったいないと思うのも分かる。

 だからってあたしが捨てた物を拾って使うことはないでしょう!?

 確かに捨てはしたものの、それは所有権を放棄してその後誰が使ってもいいという意味じゃなく、所有権に則ってどこかあたしの目に触れないところに追いやったという感覚の方が近い。
 そこまで考えなくとも単純にプライバシーを侵害していると思う。
 それを察してくれるどころかはっきり言ってもわかってくれなかった。

 お気に入りになったらしく度々使っているところを見かける。
 何度言っても聞く耳を持たない。


 そのタオルを見て切なさを覚えていたのは実のところごくごく最初だけだったと思う。
 後はただ家族に対する憎しみだけが少しずつ積もっていった。

 確かに物を大事にした方がいいのは正しい。
 あたしが手放したものであることも間違いない。
 それでもあたしが嫌がっていると知っているのにこちらに返す訳でも捨てるわけでもなく、無神経に目の前で使い続けているのも確か。


 この人はあたしよりタオルが、自分がやりたいことの方が大事なのだ。


 何でも自分の思い通りにいかないというのはお互い様だし、状況が違えば流せたことなのかもしれない。
 だけど既に失恋で打ちのめされていたあたしには、そう思う余裕はなかった。
 あるいは今までどこかに蓄積されていた不満が上乗せされたのかもしれない。

 この人とはこれ以上一緒にいられないと思った。

 もう少し大人ならあたしが家を出るという選択肢もあったかもしれない。
 けれど年齢的にも能力的にも一人暮らしは不可能だし、周りが納得して手助けしてくれることもないだろう。しょせんはタオル一枚の話だ。
 そんな事をなぜか冷静に考える。
 ならば周りすら関係ないところに行くしかない。


 ここから落ちた肉体はきっと拉げてしまうだろう。
 けれどあの人が拾うことはないのだろう。
 タオルはもったいなくとも。
 あたしは要らないんでしょう?
 これほどまでにないがしろにしたのだから。
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