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前編
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それは異界の神々の気まぐれな遊戯だった。
彼らが管理する以外の世界群にいる姿や生態がさほど変わらない異世界人を集団召喚という方法で転移させ、彼らによって誰の世界が一番変化するかを競う。
制約として召喚するのは全員十五歳前後の子供で専門的な技能を持っていないこと。
チートとして与えるのは基本的な言語翻訳や異次元ボックスを除き召喚元の器具も含めた技能、あるいは召喚先での既存の最強能力をなんでも一つ過程も理屈もすっとばして使えるようになること。
後々賽の目で当たった神が彼らに対し試練を課していく。
そうやって異世界人が足掻く姿を見るのが目的の遊戯というほうが正しいかもしれない。
そうして一柱の神に選ばれたのはとある中学校のあと少しで三年生に進級する生徒一クラスだった。
一クラスといっても今までのクラスではなく、三年時に振り分けられる新しいクラスの方だ。
皆が進学先に普通科を選び、将来に漠然とした希望はあれど、専門的な事は興味も知識も薄いような人たちが集められたクラスだった。それなりに趣味はあるがそこまで熱心かと言われるとそうとはいえないので、そちらの方も当てに出来ない。つまりリアルチートはない。
それでも、だからこそ異世界に転移などされれば混乱しそうな程度には幸でも不幸でも当たり前の未来があると想定していたはずなのに、彼らがこの事態にはしゃぎこそすれ不安がることはなかった。
何らかの意識操作がされていたのかもしれないし、現実感がまだないのかもしれないし、迫り来る受験への逃避なのかもしれない。
そうして連れてこられた場所で、これから向かう世界の説明と表向きの理由を知らされた彼らは、その後一人一人個別に欲しい力を尋ねられる。
ある者は元の世界の科学者としての器具を。
ある者は異世界の聖女としての能力を。
腕力や知力、今持っている物の底上げを望んだ者もいた。
そうやってそれぞれが思い思いの力を欲し、多少の認識の差異はあれど望み通りの力を得る。
好奇心が勝ったのか異世界寄りの力を選んだ方が多かっただろうか?
移転先の世界が、特に興味のない人でも基本的な設定は分かるほど有名な近世ヨーロッパ風ファンタジー作品の世界に似ていたせいで、完全に未知とは思わなかったせいもあっただろう。
「歯科医、あるいはそれに準ずるこちらでの能力を下さい」
最後に残されたどこか影の薄い少年はそう言った。
「は?」
思わず召喚した神が聞き返す。
……医者になりたいというものは他にもいた。
けれど外科や内科で、しかも誰かを治療したいとか、治療が出来れば便利とかではなく、医者は金持ちだという思い込みを引きずったあげくの選択だった。
技能はあれどメンタルまでもは付属しないので、実際に役に立つかは怪しい。
「自分の歯も治療したいので出来れば能力の方がいいです」
知識としてはある歯科の様子を記憶から引っ張り出す。
……確かに自分では難しそうだ。
「……能力はない」
「でしょうね」
自分の治療は出来ないと言われたのに、少年は事もなげに言い放つ。
「ファンタジー作品で虫歯をどうかしたなんて話、僕は見たことありません」
現実問題としてはなくはない。
けれど頬の腫れや食べ方、痛みで顔を歪めた事などで絶対に悟られないとは言わないが、わざわざ口を開けて見せなければ分からないものが物語を劇的に盛り上げる可能性は少ない。物語としてわざわざ描写されることも少ないだろう。
それでもあるいは少年も読んでいたかもしれないが、地味なシーンと流して忘れているのかもしれない。
そもそもそこまでファンタジーについて少年は詳しいわけでもなかった。
けれどもその乏しい知識の中で、異世界での困り事の可能性として思いついてしまった。
彼らが管理する以外の世界群にいる姿や生態がさほど変わらない異世界人を集団召喚という方法で転移させ、彼らによって誰の世界が一番変化するかを競う。
制約として召喚するのは全員十五歳前後の子供で専門的な技能を持っていないこと。
チートとして与えるのは基本的な言語翻訳や異次元ボックスを除き召喚元の器具も含めた技能、あるいは召喚先での既存の最強能力をなんでも一つ過程も理屈もすっとばして使えるようになること。
後々賽の目で当たった神が彼らに対し試練を課していく。
そうやって異世界人が足掻く姿を見るのが目的の遊戯というほうが正しいかもしれない。
そうして一柱の神に選ばれたのはとある中学校のあと少しで三年生に進級する生徒一クラスだった。
一クラスといっても今までのクラスではなく、三年時に振り分けられる新しいクラスの方だ。
皆が進学先に普通科を選び、将来に漠然とした希望はあれど、専門的な事は興味も知識も薄いような人たちが集められたクラスだった。それなりに趣味はあるがそこまで熱心かと言われるとそうとはいえないので、そちらの方も当てに出来ない。つまりリアルチートはない。
それでも、だからこそ異世界に転移などされれば混乱しそうな程度には幸でも不幸でも当たり前の未来があると想定していたはずなのに、彼らがこの事態にはしゃぎこそすれ不安がることはなかった。
何らかの意識操作がされていたのかもしれないし、現実感がまだないのかもしれないし、迫り来る受験への逃避なのかもしれない。
そうして連れてこられた場所で、これから向かう世界の説明と表向きの理由を知らされた彼らは、その後一人一人個別に欲しい力を尋ねられる。
ある者は元の世界の科学者としての器具を。
ある者は異世界の聖女としての能力を。
腕力や知力、今持っている物の底上げを望んだ者もいた。
そうやってそれぞれが思い思いの力を欲し、多少の認識の差異はあれど望み通りの力を得る。
好奇心が勝ったのか異世界寄りの力を選んだ方が多かっただろうか?
移転先の世界が、特に興味のない人でも基本的な設定は分かるほど有名な近世ヨーロッパ風ファンタジー作品の世界に似ていたせいで、完全に未知とは思わなかったせいもあっただろう。
「歯科医、あるいはそれに準ずるこちらでの能力を下さい」
最後に残されたどこか影の薄い少年はそう言った。
「は?」
思わず召喚した神が聞き返す。
……医者になりたいというものは他にもいた。
けれど外科や内科で、しかも誰かを治療したいとか、治療が出来れば便利とかではなく、医者は金持ちだという思い込みを引きずったあげくの選択だった。
技能はあれどメンタルまでもは付属しないので、実際に役に立つかは怪しい。
「自分の歯も治療したいので出来れば能力の方がいいです」
知識としてはある歯科の様子を記憶から引っ張り出す。
……確かに自分では難しそうだ。
「……能力はない」
「でしょうね」
自分の治療は出来ないと言われたのに、少年は事もなげに言い放つ。
「ファンタジー作品で虫歯をどうかしたなんて話、僕は見たことありません」
現実問題としてはなくはない。
けれど頬の腫れや食べ方、痛みで顔を歪めた事などで絶対に悟られないとは言わないが、わざわざ口を開けて見せなければ分からないものが物語を劇的に盛り上げる可能性は少ない。物語としてわざわざ描写されることも少ないだろう。
それでもあるいは少年も読んでいたかもしれないが、地味なシーンと流して忘れているのかもしれない。
そもそもそこまでファンタジーについて少年は詳しいわけでもなかった。
けれどもその乏しい知識の中で、異世界での困り事の可能性として思いついてしまった。
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