召喚聖女の結論

こうやさい

文字の大きさ
上 下
3 / 4

-3-

しおりを挟む
 この世界では月が満ちているときがもっとも魔力が弱まると言われる。
 月が満ちたときに今の身体あたしは召喚された。
 そして魔の者の処刑も月が満ちた夜に行われる。その日に殺せば魔王陣営に知られる事を遅らせることが出来ると。
 もっとも実際には人間である彼女はその前の裁判で亡くなっているだろう。
 裁判とはいうけれどいわゆる魔女裁判みたいなもので水に長時間沈めて生きてたら有罪で処刑、死んだら無罪だけど、魔の者でない死人にそれ以上何かが出来るわけではないみたいなシロモノだから。実際は何で判断されたからしらないけれど生き残れるものはなかったはず。

 家族は本当に死んだのか、それとも精神を折るために嘘をつかれたのか、ほんの少し確認したくなったけれど、生きていたところで合わせる顔もないのだから無意味だろう。

「彼女は何か言ってましたか?」
 それでも、恨み言がもしあったなら聞いておかなければならないだろう。
 転生があるとは知らなかったし、知っていたとしても彼女にとっての死には変わりない。
 覚えていない間になにを考えていたのだろう?

「お耳を汚すほどのことでは……」
 侍女が言いよどむ。言いよどむということは少なくとも言葉ではあったのだろう。うなったり呻いているだけならなにを言っているか分からなかったで済ませればいい。
「いいから知っているなら聞かせてちょうだい。手がかりになるかもしれないの」
 丸め込むために適当なことを言う。

「……はい。『間違わないで』と処刑の時に言い残しました」
「そう……」

 ……って処刑? 処刑まで生きたの!?
 魔の者ではない事は他ならぬあたしが知っている。
 なのに魔女裁判で死ななかった?
 無罪の人ばっかり殺してたら魔の者の存在自体疑われるから、実際は聞いているより手加減していたとか?

 そこで、あたしが一月以上眠っていた事を思い出す。
 現代日本では機械と流し込まれる栄養で一月くらい意識不明でもどうにかなるから今まで深く考えなかったけど。
 それでも筋肉は落ちるし、体重も減るはず。
 なのにあたしは特に変わったように思えない。
 最初だけは力が入らなかったがすぐに戻ったし、水でむせたのだって喉が渇いていたので慌てたからに過ぎない。

 たった今、この世界でも分からないことはまだまだ多いと思ったところだから、そんな風に出来る魔法か何かが知らなかっただけであるのかもしれない。
 けれどそれが前世から引き継いだ加護か何かのせいだとしたら。

 本当の聖女は前世のあたしかのじょで、尋問や裁判のせいで能力が目覚めた?
 聖女が現れないからと召喚を試みたのだから、自覚の問題ではなく国も気づいていなかったのだろう。
 ならその彼女を追い込んだ今のあたしあたしは……。

 能力を引き継いでいるのならおなじ事も出来るかもしれない。
 けれど、間接的にでも聖女を害してしまったということは、この能力が変質している可能性もある。
 それが他の世界で生まれたせいか、魔の者の干渉を受けたせいか、それ以外の理由なのか、あるいはただの妄想なのか。
 これからずっとそう疑い続けなければならないのだろうか。

 彼女はなにを間違うなと言い残したのだろう?
 これ以上冤罪を増やすなだと、最初は思ったけれども。
 彼女はなにをどこまで見抜いていたのか。
 それが思い出せない。
 あたしはなにをするために今ここにいるのだろう?
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

不実なあなたに感謝を

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:85,463pt お気に入り:3,736

EDGE LIFE

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,001pt お気に入り:20

記憶がないっ!

青春 / 連載中 24h.ポイント:2,470pt お気に入り:2

ぐだぐだ。(他称)

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:1

僕の番が怖すぎる。〜旦那様は神様です!〜

msg
BL / 連載中 24h.ポイント:795pt お気に入り:385

花冷えの風

BL / 連載中 24h.ポイント:305pt お気に入り:11

この学園ではちょうどいいざまぁのやり方は教えてもらえませんか?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:29

処理中です...