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がばりと起き上がろうとし、実際はその前に力尽きる。
ベッドの上の天井はいつの間にか見慣れたものだった。
どれくらい眠っていたのだろう?
もう、処刑はされてしまったのだろうか?
あれは夢だけど夢じゃない。
あたしは今いる世界以外で生まれ、平凡でないことに憧れるような平凡な少女だった。
このまま時を過ごせばいずれ自分が平凡にある事に打ちのめされ、それでも立ち直って大人になってそれなりに平凡に生きていくはずだった。
この世界に、魔王を倒す力を与える聖女として、召喚されなければ。
そんな目に遭えば調子に乗るか、平凡の良さに気づくか、その二つの両方を経るかあたりだろう。
あたしはあっさりと調子に乗った。異世界、聖女、美形の王子様、まだ発現はしていないが特殊らしい能力。
そしてまだまだ遊び感覚で元の世界を恋しがるほどの時間は経っていない。
調子に乗ることこそがむしろ平凡な反応かもしれない。
けれどそれは王子様に婚約者を紹介されて顔を見るまでだった。
あたしが王子様と結ばれるはずなのになどという妄想の果てに嫉妬に狂ったわけではない。
むしろ妄想だったらどれだけ良かっただろう、少なくとも自分を疑わなくていい。
そんなはずがないのに、欠片もそう思えない情報が頭に流れ込んできて、整理しきれなくなった。
そのショックで気を失う。
そして夢うつつの間にも情報は流れ込む。そうして徐々に整合がとれはじめる。
つまり彼女はあたしの前世なのだろう。
殿下の婚約者でありながら、聖女を気絶させたせいで魔の者という疑いをかけられ、処刑が決まったと。
家族は先に死んだと聞いたところまで記憶は残っている。恐らくそこで正気をなくしたのだろう。
愛していた殿下に信じてもらえず婚約破棄の上投獄、拷問に近い尋問され、家族の存在が最後のよすがだったはず。
感情は思い出せないけれど、そんな記憶はある。
そうして魂は世界を越え、そこで転生し、こちらに召還された。
「どうし……」
それは彼女としての記憶の最後の言葉と同じセリフ。
自業自得だったなんてなんてオチ。
被害者として怒ればいいのか、故意ではないとはいえ加害者として反省すればいいのか、なにが正解なのか分からない。
せめて、聖女としての使命を果たそう。それすら出来なければ無駄死にでしかない。
「聖女様?」
目を覚ました事に気づいたらしく侍女がこちらをのぞき込んでくる。
「お目覚めになったんですね」
「あれ、から、何日……」
「大丈夫ですか? お水飲まれます?」
肯くと、もう一人の侍女が水差しとコップを持ってきて、起こした上半身の背中に持ってきてくれたクッションを入れられる。
慌てて飲んで咳き込んで吐き出しそうになりそうなところを何とか耐える。それから努めてゆっくり水を飲んだ。水にレモンに似た柑橘の果汁が絞り込まれているのが分かったが、その果実の名はまだ思い出せない。
「あたしが倒れてから何日くらい経ちました?」
普通ならせいぜい時間単位か具体性のない聞き方をするところなんだろうけど、何日も目を覚まさなかった事を知っている。
聖女さえ目を覚ませば誤解が解けると信じ日付を数えるのは確か十日目でやめてしまったからそれ以上だろう。
「一月以上眠っておられました」
「そう……」
やっぱり間に合わなかったのだろうか?
「あの令嬢は?」
「ご安心下さい、既に排除されております」
遠回しで排除という表現をされるなら、死んでいるのだろう。
覚えていないだけで修道院で天寿を全うしたなんてオチはないと。
そちらの方が幸せかどうかは今のあたしには分からないけど。
ベッドの上の天井はいつの間にか見慣れたものだった。
どれくらい眠っていたのだろう?
もう、処刑はされてしまったのだろうか?
あれは夢だけど夢じゃない。
あたしは今いる世界以外で生まれ、平凡でないことに憧れるような平凡な少女だった。
このまま時を過ごせばいずれ自分が平凡にある事に打ちのめされ、それでも立ち直って大人になってそれなりに平凡に生きていくはずだった。
この世界に、魔王を倒す力を与える聖女として、召喚されなければ。
そんな目に遭えば調子に乗るか、平凡の良さに気づくか、その二つの両方を経るかあたりだろう。
あたしはあっさりと調子に乗った。異世界、聖女、美形の王子様、まだ発現はしていないが特殊らしい能力。
そしてまだまだ遊び感覚で元の世界を恋しがるほどの時間は経っていない。
調子に乗ることこそがむしろ平凡な反応かもしれない。
けれどそれは王子様に婚約者を紹介されて顔を見るまでだった。
あたしが王子様と結ばれるはずなのになどという妄想の果てに嫉妬に狂ったわけではない。
むしろ妄想だったらどれだけ良かっただろう、少なくとも自分を疑わなくていい。
そんなはずがないのに、欠片もそう思えない情報が頭に流れ込んできて、整理しきれなくなった。
そのショックで気を失う。
そして夢うつつの間にも情報は流れ込む。そうして徐々に整合がとれはじめる。
つまり彼女はあたしの前世なのだろう。
殿下の婚約者でありながら、聖女を気絶させたせいで魔の者という疑いをかけられ、処刑が決まったと。
家族は先に死んだと聞いたところまで記憶は残っている。恐らくそこで正気をなくしたのだろう。
愛していた殿下に信じてもらえず婚約破棄の上投獄、拷問に近い尋問され、家族の存在が最後のよすがだったはず。
感情は思い出せないけれど、そんな記憶はある。
そうして魂は世界を越え、そこで転生し、こちらに召還された。
「どうし……」
それは彼女としての記憶の最後の言葉と同じセリフ。
自業自得だったなんてなんてオチ。
被害者として怒ればいいのか、故意ではないとはいえ加害者として反省すればいいのか、なにが正解なのか分からない。
せめて、聖女としての使命を果たそう。それすら出来なければ無駄死にでしかない。
「聖女様?」
目を覚ました事に気づいたらしく侍女がこちらをのぞき込んでくる。
「お目覚めになったんですね」
「あれ、から、何日……」
「大丈夫ですか? お水飲まれます?」
肯くと、もう一人の侍女が水差しとコップを持ってきて、起こした上半身の背中に持ってきてくれたクッションを入れられる。
慌てて飲んで咳き込んで吐き出しそうになりそうなところを何とか耐える。それから努めてゆっくり水を飲んだ。水にレモンに似た柑橘の果汁が絞り込まれているのが分かったが、その果実の名はまだ思い出せない。
「あたしが倒れてから何日くらい経ちました?」
普通ならせいぜい時間単位か具体性のない聞き方をするところなんだろうけど、何日も目を覚まさなかった事を知っている。
聖女さえ目を覚ませば誤解が解けると信じ日付を数えるのは確か十日目でやめてしまったからそれ以上だろう。
「一月以上眠っておられました」
「そう……」
やっぱり間に合わなかったのだろうか?
「あの令嬢は?」
「ご安心下さい、既に排除されております」
遠回しで排除という表現をされるなら、死んでいるのだろう。
覚えていないだけで修道院で天寿を全うしたなんてオチはないと。
そちらの方が幸せかどうかは今のあたしには分からないけど。
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