ガラスの向こうのはずだった

こうやさい

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儂は結局死んでしまう

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 人類はクローン技術と記憶のバックアップによりずいぶんと長生きになった。
 技術の進歩によりクローンを作るのも、記憶をバックアップするのも、それをクローンの脳に刷り込むのも、短期間でできるようになった。
 けれどそれでも現状での限界はある。記憶を刷り込むクローンをバックアップした年齢にそれなりに近づけなければ人格の定着率が下がるのだ。
 つまり事故や病気で死んだ者を蘇らせることは出来るが、老化はいかんともしがたいと。もっともクローンを培養する環境は実生活より有害なものが少ないので、老衰で死んだ者のクローンでもバックアップを戻した場合健康な部分が多い分それなりに余命は増えるが。

 ならばと方向をVR方面に変えた。バックアップした記憶にVR内で意思を持たせることが出来ないかと。
 VRは明晰夢に例えられた時期が有ったが、つまり思考する肉体ニアリーイコール脳が要るということだ。
 その脳を繋いでなくてもVR内で生き続ける事は出来ないかと。

 当初の計画ではVR内で意思を持ったバックアップ自らが外部からは出来ない年齢との齟齬を調整し、それによってバックアップ時よりも若い年代のクローンに移植できるようになるはずだった。最終的には現在細胞が残っていないと作れないクローンを遺伝子情報をデータ化しそれに添って万能細胞に働きかけ作れるようにする予定らしい。
 けれどいざVR内で意思をもてるようになればそれは無理な計画だと分かった。
 今までクローンで蘇ったのは死者だった。そしてバックアップは意思を持たなかった。だから気づかなかった。

 このバックアップはではなくだということの正確な意味を。

 儂の元の記憶の持ち主はまだ生きているがもうじき死ぬ。それに備えてバックアップが作られた。
 バックアップをクローンに戻せば元通りと思うのは周りのものだけで、当人の主観では結局のところ死を避けられない。クローンの自我とは完全に分かれるし、元の意思も残っている。なのに下手をすればクローンが出来たことで見捨てられかねない。そうなったらどれだけ苦しいか。
 そして身体に戻されてしまえば自分も同じ目に遭うと理解したバックアップが身体に戻りたがるだろうか?
 無理矢理でも戻されているうちはいいが、そのうちにVR内だけで表面上は生活が完了することに皆が気づいてしまうだろう。
 ならば誰が戻ろうとするだろうか?
 そうして無人になった世界で、本体の、データの、ありとあらゆるメンテナンスは誰がする?
 異変に気付く頃にはきっと戻りたくとも戻れなくなっているだろう。
 そして世界は壊れてしまうだろう。

 緩やかに世界が滅ぶのと、何か他の手段が見つかるのと。
 どちらが早いのか、肉体に戻された儂はきっと見届けられない。
 儂が出てきたカプセルの隣には既に昏睡状態に陥った元の記憶の持ち主が入れられたカプセルがある。自分と同じ顔に向かって言うのも奇妙だがずいぶんとやつれている。
 同年代まで成長させたクローンいまの肉体はきっと自分で認識しているよりもおだやかなのだろう。
 それもやがては絶望に染まるだろうとまだ人ごとのように思う。
 隣のカプセルに近寄る。
 そして――。

 伸びていたコードに手をかけた。
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