9 / 9
儂は結局死んでしまう
しおりを挟む
人類はクローン技術と記憶のバックアップによりずいぶんと長生きになった。
技術の進歩によりクローンを作るのも、記憶をバックアップするのも、それをクローンの脳に刷り込むのも、短期間でできるようになった。
けれどそれでも現状での限界はある。記憶を刷り込むクローンをバックアップした年齢にそれなりに近づけなければ人格の定着率が下がるのだ。
つまり事故や病気で死んだ者を蘇らせることは出来るが、老化はいかんともしがたいと。もっともクローンを培養する環境は実生活より有害なものが少ないので、老衰で死んだ者のクローンでもバックアップを戻した場合健康な部分が多い分それなりに余命は増えるが。
ならばと方向をVR方面に変えた。バックアップした記憶にVR内で意思を持たせることが出来ないかと。
VRは明晰夢に例えられた時期が有ったが、つまり思考する肉体ニアリーイコール脳が要るということだ。
その脳を繋いでなくてもVR内で生き続ける事は出来ないかと。
当初の計画ではVR内で意思を持ったバックアップ自らが外部からは出来ない年齢との齟齬を調整し、それによってバックアップ時よりも若い年代のクローンに移植できるようになるはずだった。最終的には現在細胞が残っていないと作れないクローンを遺伝子情報をデータ化しそれに添って万能細胞に働きかけ作れるようにする予定らしい。
けれどいざVR内で意思をもてるようになればそれは無理な計画だと分かった。
今までクローンで蘇ったのは死者だった。そしてバックアップは意思を持たなかった。だから気づかなかった。
このバックアップは移すではなく写すだということの正確な意味を。
儂の元の記憶の持ち主はまだ生きているがもうじき死ぬ。それに備えてバックアップが作られた。
バックアップをクローンに戻せば元通りと思うのは周りのものだけで、当人の主観では結局のところ死を避けられない。クローンの自我とは完全に分かれるし、元の意思も残っている。なのに下手をすればクローンが出来たことで見捨てられかねない。そうなったらどれだけ苦しいか。
そして身体に戻されてしまえば自分も同じ目に遭うと理解したバックアップが身体に戻りたがるだろうか?
無理矢理でも戻されているうちはいいが、そのうちにVR内だけで表面上は生活が完了することに皆が気づいてしまうだろう。
ならば誰が戻ろうとするだろうか?
そうして無人になった世界で、本体の、データの、ありとあらゆるメンテナンスは誰がする?
異変に気付く頃にはきっと戻りたくとも戻れなくなっているだろう。
そして世界は壊れてしまうだろう。
緩やかに世界が滅ぶのと、何か他の手段が見つかるのと。
どちらが早いのか、肉体に戻された儂はきっと見届けられない。
儂が出てきたカプセルの隣には既に昏睡状態に陥った元の記憶の持ち主が入れられたカプセルがある。自分と同じ顔に向かって言うのも奇妙だがずいぶんとやつれている。
同年代まで成長させたクローンの肉体はきっと自分で認識しているよりもおだやかなのだろう。
それもやがては絶望に染まるだろうとまだ人ごとのように思う。
隣のカプセルに近寄る。
そして――。
伸びていたコードに手をかけた。
技術の進歩によりクローンを作るのも、記憶をバックアップするのも、それをクローンの脳に刷り込むのも、短期間でできるようになった。
けれどそれでも現状での限界はある。記憶を刷り込むクローンをバックアップした年齢にそれなりに近づけなければ人格の定着率が下がるのだ。
つまり事故や病気で死んだ者を蘇らせることは出来るが、老化はいかんともしがたいと。もっともクローンを培養する環境は実生活より有害なものが少ないので、老衰で死んだ者のクローンでもバックアップを戻した場合健康な部分が多い分それなりに余命は増えるが。
ならばと方向をVR方面に変えた。バックアップした記憶にVR内で意思を持たせることが出来ないかと。
VRは明晰夢に例えられた時期が有ったが、つまり思考する肉体ニアリーイコール脳が要るということだ。
その脳を繋いでなくてもVR内で生き続ける事は出来ないかと。
当初の計画ではVR内で意思を持ったバックアップ自らが外部からは出来ない年齢との齟齬を調整し、それによってバックアップ時よりも若い年代のクローンに移植できるようになるはずだった。最終的には現在細胞が残っていないと作れないクローンを遺伝子情報をデータ化しそれに添って万能細胞に働きかけ作れるようにする予定らしい。
けれどいざVR内で意思をもてるようになればそれは無理な計画だと分かった。
今までクローンで蘇ったのは死者だった。そしてバックアップは意思を持たなかった。だから気づかなかった。
このバックアップは移すではなく写すだということの正確な意味を。
儂の元の記憶の持ち主はまだ生きているがもうじき死ぬ。それに備えてバックアップが作られた。
バックアップをクローンに戻せば元通りと思うのは周りのものだけで、当人の主観では結局のところ死を避けられない。クローンの自我とは完全に分かれるし、元の意思も残っている。なのに下手をすればクローンが出来たことで見捨てられかねない。そうなったらどれだけ苦しいか。
そして身体に戻されてしまえば自分も同じ目に遭うと理解したバックアップが身体に戻りたがるだろうか?
無理矢理でも戻されているうちはいいが、そのうちにVR内だけで表面上は生活が完了することに皆が気づいてしまうだろう。
ならば誰が戻ろうとするだろうか?
そうして無人になった世界で、本体の、データの、ありとあらゆるメンテナンスは誰がする?
異変に気付く頃にはきっと戻りたくとも戻れなくなっているだろう。
そして世界は壊れてしまうだろう。
緩やかに世界が滅ぶのと、何か他の手段が見つかるのと。
どちらが早いのか、肉体に戻された儂はきっと見届けられない。
儂が出てきたカプセルの隣には既に昏睡状態に陥った元の記憶の持ち主が入れられたカプセルがある。自分と同じ顔に向かって言うのも奇妙だがずいぶんとやつれている。
同年代まで成長させたクローンの肉体はきっと自分で認識しているよりもおだやかなのだろう。
それもやがては絶望に染まるだろうとまだ人ごとのように思う。
隣のカプセルに近寄る。
そして――。
伸びていたコードに手をかけた。
10
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる