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04 カフェオレ
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◇◆◇
朝から遅刻必至なドタバタ劇だった仕事終わりに、例の夜カフェに訪れた私は、今朝もお会いしたばかりのイケメン店員に遠慮がちにカフェオレを注文した。
「あれっ……今日は、いつものケーキセットじゃないんだね。仕事終わりなのに、お腹は空かないの?」
彼はすぐ隣に居た店員に手を振って私が知り合いであることを示すと、笑いながら親しげに言った。
私はここの名物メニューのキャラメルシフォンケーキが大好きなので、いつもはドリンクと一緒のケーキセットを頼む。
だけど、今回は別に軽いお客様気分ではなく、昨夜から朝にかけて大変迷惑を掛けた彼に悪い気持ちでいると、少しでも伝えたくて。
「はい……あのっ……これ、お礼です。少ないんですけど」
私は鞄から取り出した二枚の紙幣が入っている茶封筒を、彼へ差し出した。
店で眠りこけ彼の寝場所を奪うという、とんでもない迷惑をかけた上に、寝坊をしたため大事なプレゼンに遅刻寸前だったから、お礼もろくに言えなかった。
ここは金額で、誠意を見せるしかない。
「あー、要らない要らない。今朝も言ったけど俺はこのビルオーナーで、酔って眠ってしまった女の子を助けたからと、善意の行動に報酬が欲しいなんて望んでいない」
彼は頼んでいないケーキとカフェオレをオーダーすると、いつもは私が座らないカウンターへと誘導しながら、差し出された封筒を柔らかい言い方ながらも頑なに受け取らなかった。
「本当に、ごめんなさい……出来れば、何かお礼がしたんですけど……」
「良いよ。本当に……じゃあ、君の名前教えてよ。今は個人情報だって、価値ある情報だって知ってる? 公式な開示はかなり制限されているし、表立っては簡単には手に入らないから。名前を教えて。それで、この件はチャラにしよう」
彼はそう言って、冗談めかして言ったので、有難い申し出に私は微笑み頷いた。
「私なんかの名前で良ければ、大丈夫です。私は鳴瀬まゆです。この辺りに住んでいる普通の会社員で、今朝は大事なプレゼンがある会議の日だったのに、遅刻しそうで本当に焦りました」
「なるほど……俺は諏訪冬馬。冬の馬でとうま。よろしく。まゆちゃん」
「よろしくお願いします……」
今までずっと謎だらけだったイケメンカフェ店員の名前は、名前までやたらと格好良かった。揃いすぎて、よく出来た詐欺ではないかと疑ってしまうレベル。
「冬馬さん……なんだか、良い匂いしますね」
彼からは美味しそうで、強く惹き付けられるような匂いがする。
今朝、彼がいつも寝ているらしい棺桶で起きた時にもそう思ったけど、すべてを手にしたイケメンは、放つ匂いまでも良いのかもしれない。
「そう? 仕事柄、香水も何も強い匂いのするものは、付けていないはずだけどね」
「すごく、良い匂いします……」
うっとりしてそう言えば、冬馬さんは話題を変えるように話し出した。
「あのさ。まゆちゃん。なんで、俺の棺桶で寝たの? ってか、蓋を閉めるのも手慣れた動きだったし、絶対これはお仲間だと思ったんだけど」
冬馬さんは周囲を気にしながら、ひそひそ声で私に耳元で質問をした。
ええ。私たち二人、部屋に棺桶があって、いつもはその中で眠ってるんです。なんだか、奇遇ですよね……なんて、絶対……誰にも、聞かれたくない!
朝から遅刻必至なドタバタ劇だった仕事終わりに、例の夜カフェに訪れた私は、今朝もお会いしたばかりのイケメン店員に遠慮がちにカフェオレを注文した。
「あれっ……今日は、いつものケーキセットじゃないんだね。仕事終わりなのに、お腹は空かないの?」
彼はすぐ隣に居た店員に手を振って私が知り合いであることを示すと、笑いながら親しげに言った。
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だけど、今回は別に軽いお客様気分ではなく、昨夜から朝にかけて大変迷惑を掛けた彼に悪い気持ちでいると、少しでも伝えたくて。
「はい……あのっ……これ、お礼です。少ないんですけど」
私は鞄から取り出した二枚の紙幣が入っている茶封筒を、彼へ差し出した。
店で眠りこけ彼の寝場所を奪うという、とんでもない迷惑をかけた上に、寝坊をしたため大事なプレゼンに遅刻寸前だったから、お礼もろくに言えなかった。
ここは金額で、誠意を見せるしかない。
「あー、要らない要らない。今朝も言ったけど俺はこのビルオーナーで、酔って眠ってしまった女の子を助けたからと、善意の行動に報酬が欲しいなんて望んでいない」
彼は頼んでいないケーキとカフェオレをオーダーすると、いつもは私が座らないカウンターへと誘導しながら、差し出された封筒を柔らかい言い方ながらも頑なに受け取らなかった。
「本当に、ごめんなさい……出来れば、何かお礼がしたんですけど……」
「良いよ。本当に……じゃあ、君の名前教えてよ。今は個人情報だって、価値ある情報だって知ってる? 公式な開示はかなり制限されているし、表立っては簡単には手に入らないから。名前を教えて。それで、この件はチャラにしよう」
彼はそう言って、冗談めかして言ったので、有難い申し出に私は微笑み頷いた。
「私なんかの名前で良ければ、大丈夫です。私は鳴瀬まゆです。この辺りに住んでいる普通の会社員で、今朝は大事なプレゼンがある会議の日だったのに、遅刻しそうで本当に焦りました」
「なるほど……俺は諏訪冬馬。冬の馬でとうま。よろしく。まゆちゃん」
「よろしくお願いします……」
今までずっと謎だらけだったイケメンカフェ店員の名前は、名前までやたらと格好良かった。揃いすぎて、よく出来た詐欺ではないかと疑ってしまうレベル。
「冬馬さん……なんだか、良い匂いしますね」
彼からは美味しそうで、強く惹き付けられるような匂いがする。
今朝、彼がいつも寝ているらしい棺桶で起きた時にもそう思ったけど、すべてを手にしたイケメンは、放つ匂いまでも良いのかもしれない。
「そう? 仕事柄、香水も何も強い匂いのするものは、付けていないはずだけどね」
「すごく、良い匂いします……」
うっとりしてそう言えば、冬馬さんは話題を変えるように話し出した。
「あのさ。まゆちゃん。なんで、俺の棺桶で寝たの? ってか、蓋を閉めるのも手慣れた動きだったし、絶対これはお仲間だと思ったんだけど」
冬馬さんは周囲を気にしながら、ひそひそ声で私に耳元で質問をした。
ええ。私たち二人、部屋に棺桶があって、いつもはその中で眠ってるんです。なんだか、奇遇ですよね……なんて、絶対……誰にも、聞かれたくない!
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