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51 帰宅②
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「良かったね。ショーン・ディレイニーが、その世にも珍しい存在で生きている証拠だ。歴史に名を残すかもしれない……とんでもなく、馬鹿な男として」
皮肉げに言ったアメデオは、遠い目になって言った。
「アメデオ。それは、言い過ぎよ」
いくらショーンが正真正銘に馬鹿だったとしても、あまり口に出して良いことではなかった。
「ごめん……けど、あいつは姉さんが自分のことを好きなんだと慢心し、泣きそうな顔を見るのが好きだったんだよ。僕にはそれがわかっていたから、本当に嫌いだったんだ。どうにかならないかとずっと思っては居たんだけど、馬鹿が婚約破棄を言い出して……本当に良かったと思って居たのに」
「けど……どうして、私とジョサイアの婚姻書類が受理されたの? だって、書類上、私と婚約していることになっていたのは、ショーンなんでしょう?」
「だって、姉さんはジョサイア義兄さんと、婚約はしていないだろう?」
アメデオにそう言われて、私ははっと気がついた。
適齢期の貴族は大抵婚約してから、一年間公示期間を経てからの結婚式へ。式の準備なども大変だし、通常の場合は、その程度の期間は結婚せずに婚約者として過ごす。
「そうだわ。私たち、すぐに結婚式をしたから……」
私とジョサイアの結婚は、そういう意味で異例づくめだった。だって、花嫁が逃げた後の穴埋めなのよ!
「そう……通常ならば、婚約してから公示期間を経てからの結婚になるけど、姉さんとジョサイア義兄さんの結婚は特別だった……色々な意味で」
アメデオの言う通り、私たちの結婚が決まったのは、結婚式前の二週間前。
それに、知っているはずのディレイニー侯爵家なんて呼ぶはずがないから、結婚式が終わってから知ったことになるわ。
「……そうよね。他の人と婚約しているしていないなんて、確認しないわ。普通なら。だって、婚約してから結婚するのが普通だもの」
「そうだろう? 僕たちと同様に、貴族院の事務員たちだって、そう思っていた可能性が高いよ。まさか、婚約を破棄する手続きをディレイニー侯爵家が怠っているなんて、誰が思ったりするんだ?」
アメデオは苛々した様子でそう言ったけど、それを聞いた私も思わず頭を抱えたい気分になった。
「……お父様は、なんて言っていたの?」
そういえば、何故私の元へアメデオがやって来たのかを聞いていない。この話であれば、当主のお父様がジョサイアと話をつけに来るべきだと思うのに。
「……ショーンは姉さんが結婚したことを知って、国境から慌てて戻って来たんだ。姉さんが居るはずのモーベット侯爵邸では、当たり前だけど、姉さんに会いに来たと言っても門前払いになったから、あいつはドラジェ伯爵家に来たんだ。母さんがショーンから話を聞いて、意識を失って倒れたから、父さんは一緒に医師の診察を待っている……僕はとにかく、連絡を急ぐために、ここへ」
ドラジェ伯爵家当主お父様の名代ならば、後継者のアメデオが最適という訳だったのね。それならば、納得がいくわ。
「ショーンは騎士として戦果でも上げて名誉を挽回してから、婚約破棄をしたはずの私とやり直そうと? 嘘でしょう。あんなことをされて……好意の欠片も枯れ果てたわ。そんな風になるはずがないのに」
私はあの屈辱の光景を、まざまざと思い出した。
大勢の前でしてもないことで罵られ、知らないと言っても否定され、だから私は、覚悟を決めたのだ。
すべて捨てようと……この手に、ホールケーキを持って。
皮肉げに言ったアメデオは、遠い目になって言った。
「アメデオ。それは、言い過ぎよ」
いくらショーンが正真正銘に馬鹿だったとしても、あまり口に出して良いことではなかった。
「ごめん……けど、あいつは姉さんが自分のことを好きなんだと慢心し、泣きそうな顔を見るのが好きだったんだよ。僕にはそれがわかっていたから、本当に嫌いだったんだ。どうにかならないかとずっと思っては居たんだけど、馬鹿が婚約破棄を言い出して……本当に良かったと思って居たのに」
「けど……どうして、私とジョサイアの婚姻書類が受理されたの? だって、書類上、私と婚約していることになっていたのは、ショーンなんでしょう?」
「だって、姉さんはジョサイア義兄さんと、婚約はしていないだろう?」
アメデオにそう言われて、私ははっと気がついた。
適齢期の貴族は大抵婚約してから、一年間公示期間を経てからの結婚式へ。式の準備なども大変だし、通常の場合は、その程度の期間は結婚せずに婚約者として過ごす。
「そうだわ。私たち、すぐに結婚式をしたから……」
私とジョサイアの結婚は、そういう意味で異例づくめだった。だって、花嫁が逃げた後の穴埋めなのよ!
「そう……通常ならば、婚約してから公示期間を経てからの結婚になるけど、姉さんとジョサイア義兄さんの結婚は特別だった……色々な意味で」
アメデオの言う通り、私たちの結婚が決まったのは、結婚式前の二週間前。
それに、知っているはずのディレイニー侯爵家なんて呼ぶはずがないから、結婚式が終わってから知ったことになるわ。
「……そうよね。他の人と婚約しているしていないなんて、確認しないわ。普通なら。だって、婚約してから結婚するのが普通だもの」
「そうだろう? 僕たちと同様に、貴族院の事務員たちだって、そう思っていた可能性が高いよ。まさか、婚約を破棄する手続きをディレイニー侯爵家が怠っているなんて、誰が思ったりするんだ?」
アメデオは苛々した様子でそう言ったけど、それを聞いた私も思わず頭を抱えたい気分になった。
「……お父様は、なんて言っていたの?」
そういえば、何故私の元へアメデオがやって来たのかを聞いていない。この話であれば、当主のお父様がジョサイアと話をつけに来るべきだと思うのに。
「……ショーンは姉さんが結婚したことを知って、国境から慌てて戻って来たんだ。姉さんが居るはずのモーベット侯爵邸では、当たり前だけど、姉さんに会いに来たと言っても門前払いになったから、あいつはドラジェ伯爵家に来たんだ。母さんがショーンから話を聞いて、意識を失って倒れたから、父さんは一緒に医師の診察を待っている……僕はとにかく、連絡を急ぐために、ここへ」
ドラジェ伯爵家当主お父様の名代ならば、後継者のアメデオが最適という訳だったのね。それならば、納得がいくわ。
「ショーンは騎士として戦果でも上げて名誉を挽回してから、婚約破棄をしたはずの私とやり直そうと? 嘘でしょう。あんなことをされて……好意の欠片も枯れ果てたわ。そんな風になるはずがないのに」
私はあの屈辱の光景を、まざまざと思い出した。
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