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52 帰宅③

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「そのまさかだよ。男は一度自分のことを好きな女性は、ずっと自分のことを好きだと思っているからね」

「好きだったことは、否定はしないわ。けど……もし、一度嫌いになったら、再度好きになるなんて稀だと思うわ」

 私は冷静に、そう思った。

 まだショーンがずっと近くに居て、心底反省した姿を見られたのなら別だけど……一年間離れていた今では、あの人を全く好きではないと言い切れる。

 私が心底思ったことを言えば、アメデオは眼鏡を外してため息をついた。

「あの馬鹿が、そこまでのことを考えられているとは思えないよ。婚約者だった姉さんが好きで居てくれることが、当たり前だと思い込んでいた末路がこれだ。信じられないし、婚約不履行なんて今更訴えてどうなるんだ」

 アメデオは今の状況を振り返り、困った顔になっていたけど、私もそう思う。

 婚約不履行って……私はもう既にジョサイアと結婚しているんだから、それを言ったところで、どうにもならないはずなのに。

「婚約不履行って……そうよ! あの慰謝料は? 私は農園を購入した資金の……」

 アストリッド叔母様が割と高額な慰謝料をぶん取ったんだけど、あれは一体なんのつもりだったの?

「あいつはそれは痴話喧嘩の慰謝料くらいに、思って居たんじゃないの。だって、別に姉さんのことを好きだし、姉さんがまだ好きでいてくれていると勘違いして居れば、なんでも許してくれると思ってしまうもんだしさ」

「何言っているのかしら……あんなことをされて、好きでいられる人は聖人だと思うわ」

「否定しないよ。けど、姉さんはその直前まで、辛い我慢を強いられても我慢していた訳だし」

「……ショーンはディレイニー家に、帰ったのかしら? 私……直接、話をしに行こうかしら?」

 私は立ち上がって、両手をぎゅっと握りしめた。

 一体何を考えているのかはわからないけど、父親のディレイニー侯爵は何をしているの?

 現在の私の夫、ジョサイアは陛下の側近で宰相補佐だ……もし、何かあればショーンだけの問題では、終わらなくなってしまうのに。

「ああ……それは、止めなよ。とにかく……動くのなら、義兄さんに相談してからだよ。忘れたの? 姉さんはもう既に、モーベット侯爵家の一員なんだから」

 アメデオはとにかくジョサイアの話を聞いてからだと宥めたので、私はとりあえず腰を落ち着けた。

「それもそうね。城ではジョサイアは、邸へ帰ったって言われたの? ……何処に行ったのかしら?」

 とにかく、このことを彼に相談しなければ……ジョサイアが待ち遠しい。

 その時に、折良く扉が叩かれて、執事がジョサイアの帰宅を伝えた。私は安心して、ほっと息をついた。解決した訳でもないけど、ジョサイアが居れば、この訳のわからない事態が動くかも知れないと思って。

 今すぐ玄関ホールへ行こうかと思ったけど、弟と言えど客人であるアメデオが居るので、ソファに座りまんじりとして待つしかなかった。

 扉が開いて暢気な笑顔を浮かべたジョサイアが入って来て、私は思わず吹き出してしまった。

「……ただいま。レニエラ。やあ、アメデオくん。いらっしゃい。失礼するよ。これは君のお姉さんへの贈り物だから、気にしないでくれ」

 数え切れないくらいのプレゼントの箱を持って、緊張感ある空気の私たちの前へと現れたからだ。
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