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08 内緒にしましょう
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「聖女様……大丈夫ですか」
パッと目を覚ました時に、キリッとした表情が印象的な美男……が顔を覗き込むようにしてすぐ傍に居た。
「えっ、わっ、ゆっ、ゆめじゃなかった……だんちょう、すごい……わかがえってる」
勝手に焦って走り何もない地面でこけて受け止めてくれようとした団長の唇を奪い、そのまま気絶してしまうというとんでもないやらかしをした私は、意識を失う前の自分の行いを思い出して呆然とした。なんてことしたの。
慌てて口早な片言になってしまった私の言葉を聞いて、困ったように微笑んだので、やっぱりこれは……あのイケオジ団長が若返った姿なのだ。
若返る前だって際立って容姿が良い人だったけど、こうして若返ってしまうと破壊力がとても凄い。
物憂げな雰囲気がある美男で、どう形容して良いか迷うくらい格好良い。きらめく金髪の前髪だけ少し長いのも、なんだか私得過ぎて。
「聖女様。身体などには、特に異常はありませんか?」
「ありません……本当にごめんなさい。団長。私とキスしてまさか、こんな風に若返ってしまうなんて……」
私は手を合わせて謝り、彼は顎に手を当てて頷いた。
「……おそらく、キスをすると若返りをする能力が聖女様に与えられた『祝福』のようですね。しかし、これは誰にも言わない方が良いように思います」
「え? けど、それでは団長は……」
団長の言葉を不思議に思った私のテントの幕が上げられて、馬鹿王子エセルバードが現れた!
しっ……信じられない。普通なら今は、絶対こいつとエンカウントしないはずなのに。
うら若き乙女のテントの幕を断りもなく上げるなんて……着替え中だったらどうするつもりなのよ!
「あれ? ジュリアスは、ここには居ないのか? こいつは誰だ……なんだ。ジュリアスにやけに良く似ているが……」
ずかずかと無遠慮に私のテントに入り眉間に皺を寄せつつ若返った団長をしげしげと見たエセルバードに、私は「どう説明したら良いんだろう」と冷や汗をかきつつ考えていた。
「父は急用で城へと。僕は彼の代理として参りました。ジュリアスの息子です」
団長がここで堂々と嘘をついたので、私はぽかんとしてしまった。え。だって、私の『聖女の祝福』の能力がこれでようやくわかったのだから、それをエセルバードに伝えれば良いだけなのに……。
「なんだと……俺は聞いてないぞ! あいつは今まで一度も結婚もしていないし、子どもの話だって聞いたことはない。だが……親子と言えるほどに似ているな。そっくりだ」
そりゃそうだよ! それって若返った本人なんだもん!
私は心の中でスリッパで頭を叩いてエセルバードにツッコミを入れたくなる衝動と戦っている中で、団長は素知らぬ顔をしてしれっと頷いた。
「母は僕を一人で産み育てました……僕の存在を父が知ったのは、最近のことです」
形の良い唇からよどみなくすらすらと出てくる嘘に、私の前では素敵で温厚な姿しか見せていない団長の持つ老獪さを感じた。
「ふんっ……人には偉そうな説教をしていた癖に、あいつもただの男だったということか。もう良いっ……いや、待て。そこのお前が、本当にジュリアスの代わりになるのか」
馬鹿王子も団長が居ないと、この旅が無事には済まないことは理解しているらしい。息子に代わりが出来るのかと確認するように聞いたので、団長は大きく頷いた。
「……僕は父と同等程度の能力は持っています。でなければ、あの人は殿下を残して城へは帰りません」
「それもそうか……それならば、別に良い」
いきなり現れたエセルバードは勝手なことを言い残し、来た時と同じように唐突に去っていった。
団長はエセルバードがテントの外に出て彼の荒い足音が聞こえなくなるのを確認してから、何も言えなかった私へと意味ありげに微笑んだ。
「女性のテントへ了承もなしに入ってくるとは……元の姿に戻れば長時間の説教ですね」
パッと目を覚ました時に、キリッとした表情が印象的な美男……が顔を覗き込むようにしてすぐ傍に居た。
「えっ、わっ、ゆっ、ゆめじゃなかった……だんちょう、すごい……わかがえってる」
勝手に焦って走り何もない地面でこけて受け止めてくれようとした団長の唇を奪い、そのまま気絶してしまうというとんでもないやらかしをした私は、意識を失う前の自分の行いを思い出して呆然とした。なんてことしたの。
慌てて口早な片言になってしまった私の言葉を聞いて、困ったように微笑んだので、やっぱりこれは……あのイケオジ団長が若返った姿なのだ。
若返る前だって際立って容姿が良い人だったけど、こうして若返ってしまうと破壊力がとても凄い。
物憂げな雰囲気がある美男で、どう形容して良いか迷うくらい格好良い。きらめく金髪の前髪だけ少し長いのも、なんだか私得過ぎて。
「聖女様。身体などには、特に異常はありませんか?」
「ありません……本当にごめんなさい。団長。私とキスしてまさか、こんな風に若返ってしまうなんて……」
私は手を合わせて謝り、彼は顎に手を当てて頷いた。
「……おそらく、キスをすると若返りをする能力が聖女様に与えられた『祝福』のようですね。しかし、これは誰にも言わない方が良いように思います」
「え? けど、それでは団長は……」
団長の言葉を不思議に思った私のテントの幕が上げられて、馬鹿王子エセルバードが現れた!
しっ……信じられない。普通なら今は、絶対こいつとエンカウントしないはずなのに。
うら若き乙女のテントの幕を断りもなく上げるなんて……着替え中だったらどうするつもりなのよ!
「あれ? ジュリアスは、ここには居ないのか? こいつは誰だ……なんだ。ジュリアスにやけに良く似ているが……」
ずかずかと無遠慮に私のテントに入り眉間に皺を寄せつつ若返った団長をしげしげと見たエセルバードに、私は「どう説明したら良いんだろう」と冷や汗をかきつつ考えていた。
「父は急用で城へと。僕は彼の代理として参りました。ジュリアスの息子です」
団長がここで堂々と嘘をついたので、私はぽかんとしてしまった。え。だって、私の『聖女の祝福』の能力がこれでようやくわかったのだから、それをエセルバードに伝えれば良いだけなのに……。
「なんだと……俺は聞いてないぞ! あいつは今まで一度も結婚もしていないし、子どもの話だって聞いたことはない。だが……親子と言えるほどに似ているな。そっくりだ」
そりゃそうだよ! それって若返った本人なんだもん!
私は心の中でスリッパで頭を叩いてエセルバードにツッコミを入れたくなる衝動と戦っている中で、団長は素知らぬ顔をしてしれっと頷いた。
「母は僕を一人で産み育てました……僕の存在を父が知ったのは、最近のことです」
形の良い唇からよどみなくすらすらと出てくる嘘に、私の前では素敵で温厚な姿しか見せていない団長の持つ老獪さを感じた。
「ふんっ……人には偉そうな説教をしていた癖に、あいつもただの男だったということか。もう良いっ……いや、待て。そこのお前が、本当にジュリアスの代わりになるのか」
馬鹿王子も団長が居ないと、この旅が無事には済まないことは理解しているらしい。息子に代わりが出来るのかと確認するように聞いたので、団長は大きく頷いた。
「……僕は父と同等程度の能力は持っています。でなければ、あの人は殿下を残して城へは帰りません」
「それもそうか……それならば、別に良い」
いきなり現れたエセルバードは勝手なことを言い残し、来た時と同じように唐突に去っていった。
団長はエセルバードがテントの外に出て彼の荒い足音が聞こえなくなるのを確認してから、何も言えなかった私へと意味ありげに微笑んだ。
「女性のテントへ了承もなしに入ってくるとは……元の姿に戻れば長時間の説教ですね」
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