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29 現場

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「実は僕もその現場の近くに居たんです……止められなかった。ですが、あの司祭も王族に対しやり過ぎました。王族への不敬罪で斬られてしまっても仕方のない方法で、しかも城の中で殿下を糾弾したんです」

「けど……亡くなったのは、国民的に人気のある司祭様だったって」

 前にハミルトンさんにその事件のことを聞いた時に、彼はそう言っていたはずだ。

「そうです。ですから、彼とて自分が殺されるとまでは思って居なかったのでしょう。ですが、この事件を知った陛下も、この顛末を国内外へ知らせることを渋りました。王家の権威は失墜は免れず、亡くなった司祭とて勝手な正義感でした越権行為を責められることになるでしょう」

「けど、エセルバードのやったことは許されることではないと思います……いくら彼が幼い年齢でも」

「ええ。ですが、司祭が城に直接やって来て不道徳な行為を、直接殿下へ糾弾してしまうのは筋が違います。だから、陛下は司祭や神殿のためにもこの事を伏せるべきだと考えたんです」

「だからって、ジュリアスだけが犠牲になるなんて……」

 信じられない。納得がいかない……第三者の私だってそう思うんだよ?

「ええ。僕ならば、英雄と呼ばれなくなる程度です。過ちは正されるべきではありますが、幼い子にそうさせてしまった周囲の大人の一人は僕だったんです」

 責任感の強いジュリアスに私は何も言えなくて……そんな二人の間に、しんとした沈黙が落ちた。

「その……ジュリアスは……エセルバードのお母さんのことが、忘れられなかったんですか?」

 どうしてもそこが気になってしまった私がそう聞いた時に、悲しそうな表情をしていた彼は驚いてかぽかんとした顔になった。

 以前、エセルバードはジュリアスと母の二人が婚約者だったと聞いた。けど、父である王に望まれたから、ジュリアスは一人残されてたのだと。

「……いいえ?」

「……え?」

 私たち二人は同じような不思議そうな顔をして、見つめ合っているのかもしれない。

 頭の中に『?』があふれる私はジュリアスはエセルバードのお母さんが好きだったからこそ、貴重なイケオジ独身を貫いていたんだと思っていたんだけど……?

「あの……何故、そう思われたか、聞いても?」

「エセルバードが……この前、言っていたんです。父から乞われて是非にと結婚した王妃さまは、ジュリアスの婚約者だったのだと……だから、ジュリアスは色恋沙汰も聞いたことがないって」

 こんなにも素敵な人で独身だと言うことは、片っ端から誘いを断っているという事でしょ……?

「それは、誤解です。事実ではありません。僕の初回の救世を祝う宴会に、二人は意気投合して結婚することになったんですが、婚約というのも親の口約束だけでパメラは元々妹のような存在でお互いに恋愛感情はありませんでした」

 エセルバードから聞いた私の言葉も、ジュリアスは困った表情で否定した。

 もー!! エセルバードー!! あんたの情報、全然違うじゃん! 本当に信用ならないってば!

「えっと……じゃあ、なんでジュリアスは結婚しなかったんですか?」

 そうよ……そこなのよ。すごく疑問。

 なんで、ジュリアスは誰とも結婚していないの?
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