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月光
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「ニーナ、お前にお客様だ」
集まった面々でいくつか打ち合わせもして、そろそろグランデ家の兄弟が帰ろうかという時に、使用人から何かを聞いたらしいシメオン兄さんが私に声を掛けて来た。
「あれっ、ジャンポールじゃん! 元気? また遊びに来てよ」
部屋を出たばかりのエヴァン様の明るい声が聞こえた。私はぎゅっと手を握り締めた。
家と家の間の事は、父様がなんとかしてくれたようだけど、彼個人には私が自分自身で説明しなければいけない。
「……ニーナ、僕も同席しようか?」
心配そうなマティアスの声に私は、首を振った。彼のことは、私自身が解決すべき問題だと、そう思った。
「大丈夫……でも、私の部屋で待っててくれる?」
私は近くに居たメイドに声をかけて、マティアスの案内を任せた。
「ジャンポール。お待たせしたみたいで、ごめんなさい……」
「いや、こちらが連絡せずに来てしまってすまない……邪魔したようだな」
「ううん。そういう訳ではないの」
「君と……話がしたくて、来た。時間は大丈夫か?」
頷いた私は、彼を別の応接室へと案内した。
「ジャンポール、本当にごめんなさい。すべて私の責任で……貴方には落ち度なんて、何一つないのに……」
「……君にも色々事情があると思う。それを聞いても?」
私は今日、何度目かの説明をジャンポールにもした。彼は鋭い黒い目を驚きで見開きながら、黙って私の話を聞いてくれた。
「……驚いたな……君は二度目のこの時間に居るということか」
時間をやり直したという私の話をすんなりと信じてくれる彼に、私は何だか複雑だった。
「以前の私は、マティアスに捨てられたと思い込んでいて、どこか自暴自棄になっていた……貴方の誘い立って断るべきだったのかもしれない。でも、貴方なら……絶対に私を裏切らないと、そう思った。でもマティアスの事情の真相を知った時から、どうしても、彼と居たくて……ごめんなさい」
ジャンポールはため息をついて、私の顔をじっと見た。
「……それは、あいつが君のために命を捨てる、と言ったからか?」
「そうかもしれない……でも、私はマティアスが好きな気持ちをどうしても忘れられなかった。正直に言ってしまえば貴方の事も好きになりかけてた……でも、どうしても……忘れられないの」
「俺だって、君のためなら命は要らない、と言ったら?」
「ジャンポール」
「……よく考えてくれ、君は今特殊な環境に居て、これから解決しなければいけないこともある。だがこの先一生誰かと過ごすなら、よく考えて結論を出すべきだと思うが」
ジャンポールの真摯な目は私をじっと見ている。なんだか、自分がすごく恥ずかしいことをしているようで顔を伏せた。
「……君はさっき、俺の事を好きになりかけていたと言った。どちらかを選ぶのならすべてが解決してからにしてくれないか」
「……ごめんなさい。けれど、私はもう、貴方と結婚出来ない……」
私の言葉を聞いて、彼は眉を上げた。言わんとしていることも分かってくれたんだと思う。
……もう私は選んだ後なんだと。
「それでも良いと言ったら? 家の事だって、ニーナに肩身の狭い思いは絶対させない。俺が責任を持とう」
「ジャンポール……どうして」
「……どうしてか……それは君にも覚えがあるんじゃないか。君がこの時間に来る前、失恋した直後に一縷の望みがあったらどうする? それに、縋りたくはならないか?」
私はもう何も言えなくて、じっとジャンポールの顔を見た。
「……君の前の恋が幸せも絶望も混じり合った紫色だったとして、それを幸せな恋にするのは俺だ。あいつにも譲りたくない。頼むから、結論を出すのを急がないで欲しい」
間をおいて頷いた私に、ジャンポールは嬉しそうに笑ってくれた。
「協力するよ。早く解決して、事態を好転させたいからな」
「ジャンポール、でも。……言った通り王妃やフェルディナンド様が関わっているかもしれない。それを知っていたら貴方の身も……」
「……俺だって命をかけると言ったはずだ。ニーナ。この身をもってその言葉を示すよ」
集まった面々でいくつか打ち合わせもして、そろそろグランデ家の兄弟が帰ろうかという時に、使用人から何かを聞いたらしいシメオン兄さんが私に声を掛けて来た。
「あれっ、ジャンポールじゃん! 元気? また遊びに来てよ」
部屋を出たばかりのエヴァン様の明るい声が聞こえた。私はぎゅっと手を握り締めた。
家と家の間の事は、父様がなんとかしてくれたようだけど、彼個人には私が自分自身で説明しなければいけない。
「……ニーナ、僕も同席しようか?」
心配そうなマティアスの声に私は、首を振った。彼のことは、私自身が解決すべき問題だと、そう思った。
「大丈夫……でも、私の部屋で待っててくれる?」
私は近くに居たメイドに声をかけて、マティアスの案内を任せた。
「ジャンポール。お待たせしたみたいで、ごめんなさい……」
「いや、こちらが連絡せずに来てしまってすまない……邪魔したようだな」
「ううん。そういう訳ではないの」
「君と……話がしたくて、来た。時間は大丈夫か?」
頷いた私は、彼を別の応接室へと案内した。
「ジャンポール、本当にごめんなさい。すべて私の責任で……貴方には落ち度なんて、何一つないのに……」
「……君にも色々事情があると思う。それを聞いても?」
私は今日、何度目かの説明をジャンポールにもした。彼は鋭い黒い目を驚きで見開きながら、黙って私の話を聞いてくれた。
「……驚いたな……君は二度目のこの時間に居るということか」
時間をやり直したという私の話をすんなりと信じてくれる彼に、私は何だか複雑だった。
「以前の私は、マティアスに捨てられたと思い込んでいて、どこか自暴自棄になっていた……貴方の誘い立って断るべきだったのかもしれない。でも、貴方なら……絶対に私を裏切らないと、そう思った。でもマティアスの事情の真相を知った時から、どうしても、彼と居たくて……ごめんなさい」
ジャンポールはため息をついて、私の顔をじっと見た。
「……それは、あいつが君のために命を捨てる、と言ったからか?」
「そうかもしれない……でも、私はマティアスが好きな気持ちをどうしても忘れられなかった。正直に言ってしまえば貴方の事も好きになりかけてた……でも、どうしても……忘れられないの」
「俺だって、君のためなら命は要らない、と言ったら?」
「ジャンポール」
「……よく考えてくれ、君は今特殊な環境に居て、これから解決しなければいけないこともある。だがこの先一生誰かと過ごすなら、よく考えて結論を出すべきだと思うが」
ジャンポールの真摯な目は私をじっと見ている。なんだか、自分がすごく恥ずかしいことをしているようで顔を伏せた。
「……君はさっき、俺の事を好きになりかけていたと言った。どちらかを選ぶのならすべてが解決してからにしてくれないか」
「……ごめんなさい。けれど、私はもう、貴方と結婚出来ない……」
私の言葉を聞いて、彼は眉を上げた。言わんとしていることも分かってくれたんだと思う。
……もう私は選んだ後なんだと。
「それでも良いと言ったら? 家の事だって、ニーナに肩身の狭い思いは絶対させない。俺が責任を持とう」
「ジャンポール……どうして」
「……どうしてか……それは君にも覚えがあるんじゃないか。君がこの時間に来る前、失恋した直後に一縷の望みがあったらどうする? それに、縋りたくはならないか?」
私はもう何も言えなくて、じっとジャンポールの顔を見た。
「……君の前の恋が幸せも絶望も混じり合った紫色だったとして、それを幸せな恋にするのは俺だ。あいつにも譲りたくない。頼むから、結論を出すのを急がないで欲しい」
間をおいて頷いた私に、ジャンポールは嬉しそうに笑ってくれた。
「協力するよ。早く解決して、事態を好転させたいからな」
「ジャンポール、でも。……言った通り王妃やフェルディナンド様が関わっているかもしれない。それを知っていたら貴方の身も……」
「……俺だって命をかけると言ったはずだ。ニーナ。この身をもってその言葉を示すよ」
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