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09 名もなき盾②
「緊張しています? ……ご友人の妙な誤解が解けるまで、こういった場には俺が一緒に出ますよ。レティシア様が、嫌でなければ」
「嫌だなんて……! けど、イーサンは忙しいでしょう?」
私の腰を持って彼は、くるりと身体を回した。私自身でもどうやったのかわからないくらい、鮮やかな身のこなしだった。
彼と踊ると一緒に踊っている私まで、ダンスが巧(うま)いように見えるだろう。
「俺たちは自由業みたいなものなので、明日の保証はない代わりに、時間や人には縛られないので……そのくらいはさせてください。レティシア様だって、毎晩夜会に出席されるわけでもないでしょう」
「けど、イーサン……」
優しい言葉に泣きそうになった私は、彼にここまでして貰っても返せる何かがない。
オブライエン侯爵家の財産は代理人として叔父にすべて握られてしまっているし、たとえ結婚して取り戻してもイーサンに金銭的な何かを返せるとしたら、かなり先になってしまうだろうから。
「いえ。レティシア様。セーブポイントは無作為に選ばれるにしても、俺たちもあり得ないことになってしまったという自覚はありますから。どうか、させてください」
イーサンの緑色の目は、とても優しい。それに、優しすぎる言葉に、胸がきゅうと締め付けられるような気持ちになった。
……今のような孤立無援状態にある私にとって、とても嬉しい言葉だったから。
「……ありがとう。イーサン」
「いえいえ。こうして美しいご令嬢と踊って貰えるのですから、俺も役得です。気にしないでください」
踊っていた時、彼の背中の向こう。そこに、私を憎々しげな形相で睨み付けるクラウディアの顔が見えた。
……驚いた。どうして。今、踊っているイーサンは、彼女の慕うオルランド様ではないのに。
「レティシア様。どうかなさいましたか?」
私の顔色が変わったことに気が付いたのか、イーサンは気遣わしげな声で聞いた。
「……ごめんなさい。なんでもないわ」
「そうですか」
イーサンは踊りながら周囲を気にしたようだけれど、クラウディアの顔を知っているわけではないので、私が何に驚いたかはわからないだろう。
……どうしてかしら。クラウディアとは、仲が良いと思っていた。
そう思っていたのは……もしかしたら、私だけだったのかもしれないけれど。
「そろそろ帰りますか?」
踊り終わってから近くの机に用意された飲み物で喉を潤していると、退場していく国王陛下の背中を見てイーサンは私に尋ねた。
「あ……そうね。そろそろ帰りましょう。イーサン。今日は本当に、ありがとう」
「いえいえ。これは俺たちの勝手な頼みを引き受けてくれたほんのお礼なので、どうか気にしないでくださいね」
イーサンは私の手を引いて、誰かの侮りなど寄せ付けぬような堂々とした足取りで、会場の出入り口へと向かった。
夜会は明け方まで付くけれど、まだ結婚していない貴族令嬢たちは、主催者がいなくなると帰る者も多い。
イーサンは優しい。
けれど、どんなに心惹かれても、彼に恋をしてしまう訳にはいかない。彼は初対面で泣いている私を見て、事情を聞きただ可哀想に思ってくれただけ。
私は侯爵家の法定相続人で、世界を旅する冒険者の彼と結婚する訳にはいかないのだから。
私は優しい彼に今ある窮地を救って貰って……けど、自分の幸せは、自分で掴むべきなのだわ。
「嫌だなんて……! けど、イーサンは忙しいでしょう?」
私の腰を持って彼は、くるりと身体を回した。私自身でもどうやったのかわからないくらい、鮮やかな身のこなしだった。
彼と踊ると一緒に踊っている私まで、ダンスが巧(うま)いように見えるだろう。
「俺たちは自由業みたいなものなので、明日の保証はない代わりに、時間や人には縛られないので……そのくらいはさせてください。レティシア様だって、毎晩夜会に出席されるわけでもないでしょう」
「けど、イーサン……」
優しい言葉に泣きそうになった私は、彼にここまでして貰っても返せる何かがない。
オブライエン侯爵家の財産は代理人として叔父にすべて握られてしまっているし、たとえ結婚して取り戻してもイーサンに金銭的な何かを返せるとしたら、かなり先になってしまうだろうから。
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イーサンの緑色の目は、とても優しい。それに、優しすぎる言葉に、胸がきゅうと締め付けられるような気持ちになった。
……今のような孤立無援状態にある私にとって、とても嬉しい言葉だったから。
「……ありがとう。イーサン」
「いえいえ。こうして美しいご令嬢と踊って貰えるのですから、俺も役得です。気にしないでください」
踊っていた時、彼の背中の向こう。そこに、私を憎々しげな形相で睨み付けるクラウディアの顔が見えた。
……驚いた。どうして。今、踊っているイーサンは、彼女の慕うオルランド様ではないのに。
「レティシア様。どうかなさいましたか?」
私の顔色が変わったことに気が付いたのか、イーサンは気遣わしげな声で聞いた。
「……ごめんなさい。なんでもないわ」
「そうですか」
イーサンは踊りながら周囲を気にしたようだけれど、クラウディアの顔を知っているわけではないので、私が何に驚いたかはわからないだろう。
……どうしてかしら。クラウディアとは、仲が良いと思っていた。
そう思っていたのは……もしかしたら、私だけだったのかもしれないけれど。
「そろそろ帰りますか?」
踊り終わってから近くの机に用意された飲み物で喉を潤していると、退場していく国王陛下の背中を見てイーサンは私に尋ねた。
「あ……そうね。そろそろ帰りましょう。イーサン。今日は本当に、ありがとう」
「いえいえ。これは俺たちの勝手な頼みを引き受けてくれたほんのお礼なので、どうか気にしないでくださいね」
イーサンは私の手を引いて、誰かの侮りなど寄せ付けぬような堂々とした足取りで、会場の出入り口へと向かった。
夜会は明け方まで付くけれど、まだ結婚していない貴族令嬢たちは、主催者がいなくなると帰る者も多い。
イーサンは優しい。
けれど、どんなに心惹かれても、彼に恋をしてしまう訳にはいかない。彼は初対面で泣いている私を見て、事情を聞きただ可哀想に思ってくれただけ。
私は侯爵家の法定相続人で、世界を旅する冒険者の彼と結婚する訳にはいかないのだから。
私は優しい彼に今ある窮地を救って貰って……けど、自分の幸せは、自分で掴むべきなのだわ。
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