23 / 45
12 精霊の棲む目①
しおりを挟む
ジョセフィンから話を聞いてから、私はイーサンと距離を取ろうと考えた。
だって、もし彼と恋に落ちたとしても、私はイーサンと結婚するわけにはいかない。けれど、彼らが三人が見事SSランクへ昇級すれば、もう会うこともないだろう。
夜毎、会いに来る彼に、二人の未来を考えればそうすべきと思っても、冷たく振る舞うことはできなかった。
……今の私はとても弱くて何の後ろ盾も持たなくて、同じ邸に住む叔父家族は私のことを自分たちのために利用することしか考えていない。
そんな中で唯一の味方だったクラウディアは、今はもう連絡を取ることも出来ない。
そんな中でのイーサンとの時間は、かけがえのないものだった。たとえ、未来がない関係だとしても、突き放して自ら手放すことは出来なかった。
自分勝手で褒められるようなことではないことは、自分が一番にわかっていた。
ただ、何かの偶然で出会っただけの彼に、私がこの身に受けるすべての不幸から救って欲しいだなんて、大それたことを……願えるはずもない。
目に映る、バルコニーへ続く扉。いつもはあまり開かれることもない扉。
壁掛け時計を見て時間を確認すれば、もうすぐ彼はやって来る。
これは、永遠に続く関係ではない。もうすぐ、こんな夜も終わりを告げる。
だから、もう少しだけ……。
扉を叩く音が二回して、イーサンがやって来た。
「……こんばんは」
「こんばんは。イーサン」
私は微笑んで、小雨に濡れた肩を手で払う彼を室内へ迎え入れた。
「レティシア様。何かありましたか?」
不意にイーサンから尋ねられて、私は彼と目を合わせた。自ら発光するかのような、不思議な緑色の瞳。
そうよ。初めて会った時から、その色は気になっていた。彼が特別な存在であると示すような、不思議な色だったから。
「……何でもないわ。あの……イーサン、貴方の目の色だけど」
「はい」
「なんだか、不思議な色のように思うの。何か理由があるの?」
私の質問を聞いて、イーサンは納得したと言わんばかりに頷いた。
「ああ……これは、森の精霊が棲んでいます。何代も前の先祖が気に入られたようでして、俺が回復魔法を使うことが出来るのも、この精霊のおかげなんです」
「あ。そうなのね。凄いわ……精霊が棲んでいるのね。なんだか、不思議に光っているのも納得したわ」
この綺麗で不思議な光を放つ緑色の瞳には、森の精霊が棲んでいるのだ。彼本人が言っているならば、きっとそうなのだろう。
精霊の加護を得られることは、とても珍しいことだ。それに、戦いを生業(なりわい)としているのであれば、神官の力を借りることなく自らの傷を癒すことが出来る。
それは、一人の騎士としては、その他よりもかなり優位性(アドバンテージ)を持っていると言えるのかもしれない。
……だから、きっと彼は仕える国王からあり得ないとも言える自由を勝ち取れるくらいの実績を上げることが出来たのだわ。
「その……レティシア様」
「はい?」
イーサンが軽く身を引いたので、私は彼に近づき過ぎていたことに気がついた。
「まあ……ごめんなさい。近かったわよね」
そうしようと思ってそうした訳ではないけれど、背の高い彼の瞳の中を覗き込むように見上げていて、彼への距離が近くなり過ぎていたのだ。
「いえいえ。大丈夫ですよ。この目は他の人と違っていることは、自分もわかっていますので……」
「ええ。とても綺麗な緑色だわ。イーサンに初めて会った時から、気になっていたの。けれど、精霊が棲んでいると聞いて、納得したわ」
「そのようにお褒めいただいて、恐縮です……そういえば、レティシア様。明日、国王陛下主催の夜会があるそうですね。俺も一緒に出席させていただいても?」
だって、もし彼と恋に落ちたとしても、私はイーサンと結婚するわけにはいかない。けれど、彼らが三人が見事SSランクへ昇級すれば、もう会うこともないだろう。
夜毎、会いに来る彼に、二人の未来を考えればそうすべきと思っても、冷たく振る舞うことはできなかった。
……今の私はとても弱くて何の後ろ盾も持たなくて、同じ邸に住む叔父家族は私のことを自分たちのために利用することしか考えていない。
そんな中で唯一の味方だったクラウディアは、今はもう連絡を取ることも出来ない。
そんな中でのイーサンとの時間は、かけがえのないものだった。たとえ、未来がない関係だとしても、突き放して自ら手放すことは出来なかった。
自分勝手で褒められるようなことではないことは、自分が一番にわかっていた。
ただ、何かの偶然で出会っただけの彼に、私がこの身に受けるすべての不幸から救って欲しいだなんて、大それたことを……願えるはずもない。
目に映る、バルコニーへ続く扉。いつもはあまり開かれることもない扉。
壁掛け時計を見て時間を確認すれば、もうすぐ彼はやって来る。
これは、永遠に続く関係ではない。もうすぐ、こんな夜も終わりを告げる。
だから、もう少しだけ……。
扉を叩く音が二回して、イーサンがやって来た。
「……こんばんは」
「こんばんは。イーサン」
私は微笑んで、小雨に濡れた肩を手で払う彼を室内へ迎え入れた。
「レティシア様。何かありましたか?」
不意にイーサンから尋ねられて、私は彼と目を合わせた。自ら発光するかのような、不思議な緑色の瞳。
そうよ。初めて会った時から、その色は気になっていた。彼が特別な存在であると示すような、不思議な色だったから。
「……何でもないわ。あの……イーサン、貴方の目の色だけど」
「はい」
「なんだか、不思議な色のように思うの。何か理由があるの?」
私の質問を聞いて、イーサンは納得したと言わんばかりに頷いた。
「ああ……これは、森の精霊が棲んでいます。何代も前の先祖が気に入られたようでして、俺が回復魔法を使うことが出来るのも、この精霊のおかげなんです」
「あ。そうなのね。凄いわ……精霊が棲んでいるのね。なんだか、不思議に光っているのも納得したわ」
この綺麗で不思議な光を放つ緑色の瞳には、森の精霊が棲んでいるのだ。彼本人が言っているならば、きっとそうなのだろう。
精霊の加護を得られることは、とても珍しいことだ。それに、戦いを生業(なりわい)としているのであれば、神官の力を借りることなく自らの傷を癒すことが出来る。
それは、一人の騎士としては、その他よりもかなり優位性(アドバンテージ)を持っていると言えるのかもしれない。
……だから、きっと彼は仕える国王からあり得ないとも言える自由を勝ち取れるくらいの実績を上げることが出来たのだわ。
「その……レティシア様」
「はい?」
イーサンが軽く身を引いたので、私は彼に近づき過ぎていたことに気がついた。
「まあ……ごめんなさい。近かったわよね」
そうしようと思ってそうした訳ではないけれど、背の高い彼の瞳の中を覗き込むように見上げていて、彼への距離が近くなり過ぎていたのだ。
「いえいえ。大丈夫ですよ。この目は他の人と違っていることは、自分もわかっていますので……」
「ええ。とても綺麗な緑色だわ。イーサンに初めて会った時から、気になっていたの。けれど、精霊が棲んでいると聞いて、納得したわ」
「そのようにお褒めいただいて、恐縮です……そういえば、レティシア様。明日、国王陛下主催の夜会があるそうですね。俺も一緒に出席させていただいても?」
77
あなたにおすすめの小説
追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
湊一桜
恋愛
王宮薬師のアンは、国王に毒を盛った罪を着せられて王宮を追放された。幼少期に両親を亡くして王宮に引き取られたアンは、頼れる兄弟や親戚もいなかった。
森を彷徨って数日、倒れている男性を見つける。男性は高熱と怪我で、意識が朦朧としていた。
オオカミの襲撃にも遭いながら、必死で男性を看病すること二日後、とうとう男性が目を覚ました。ジョーという名のこの男性はとても強く、軽々とオオカミを撃退した。そんなジョーの姿に、不覚にもときめいてしまうアン。
行くあてもないアンは、ジョーと彼の故郷オストワル辺境伯領を目指すことになった。
そして辿り着いたオストワル辺境伯領で待っていたのは、ジョーとの甘い甘い時間だった。
※『小説家になろう』様、『ベリーズカフェ』様でも公開中です。
独身皇帝は秘書を独占して溺愛したい
狭山雪菜
恋愛
ナンシー・ヤンは、ヤン侯爵家の令嬢で、行き遅れとして皇帝の専属秘書官として働いていた。
ある時、秘書長に独身の皇帝の花嫁候補を作るようにと言われ、直接令嬢と話すために舞踏会へと出ると、何故か皇帝の怒りを買ってしまい…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
チートな男装令嬢は婚約破棄されても気にしない
いちみやりょう
恋愛
第三王子と婚約をしていたものの、顔を合わせたこともなかったルーナスト。
けれど、初めて参加したお茶会に乱入してきた第三王子に婚約破棄を言い渡される。
剣術、体術、魔術どれをとっても才能があり女性らしい趣味などに興味が持てず戦うことばかり考えてしまうトレーニングバカのルーナストは、これ幸いと王国軍の入隊試験を受けることにした。
そこにいたのは、ルーナストも憧れる帝国の第二王子で帝国軍元帥のベルガリュード。
軍事訓練などで関わる機会もあり、次第にベルガリュードを好きになってしまうルーナスト。
そんな時、実家から呼び出しが……。
それはベルガリュードとの婚約の打診が来ていると言う内容だった。
ルーナストは困惑したまま受け入れ、女性の格好をしてドラスティールへと向かう。
だが、ベルガリュードはそんなルーナストを拒み、城へ入ることすら許してはくれなかった。
R -18になることがあるかもしれないのでつけてあります。
投票もエールもいつもありがとうございます🙇♂️
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜
束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。
家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。
「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。
皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。
今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。
ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……!
心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
風変わり公爵令嬢は、溺愛王子とほのぼの王宮ライフを楽しむようです 〜大好きなお兄さんは婚約者!?〜
長岡更紗
恋愛
公爵令嬢のフィオーナは、両親も持て余してしまうほどの一風変わった女の子。
ある日、魚釣りをしているフィオーナに声をかけたのは、この国の第二王子エリオスだった。
王子はフィオーナの奇行をすべて受け入れ、愛情を持って接し始める。
王宮でエリオスと共にほのぼのライフを満喫するフィオーナ。
しかしある日、彼の婚約者が現れるのだった。
ほのぼのハッピーエンド物語です。
小説家になろうにて重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる