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01 家出しました。
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私は大きな鞄を御者に馬車から降ろして貰い、チップを渡すと、彼はとても嬉しそうな顔になり「良い旅を!」と機嫌よく片目を瞑り去って行った。
平民は何かしてくれたお礼にこうすると以前に聞いていて、それを実践したんだけど……あれは少し、多過ぎたかもしれない。
私は財布の中にある家出のために出入りの商人に頼んで用意した、大小様々な硬貨を見て、まずは貨幣価値を掴むことから始めなければと思った。
……だって、そうしなければ、私が元々貴族であったとすぐにわかってしまう。
「ふーっ……ここまで長かったわ。まさか、三日も掛かると思わなかった。遠かったけど、ここまで来たら、見つからないでしょう」
ここは王都より遠く離れた、山奥にある小さな村。
目に優しい緑の中に華やかな色の屋根の小さな家が立ち並び、品良く調えられた庭も綺麗だ。ここは名物となる質の良い木材を出荷していて、その木材でとても有名だ。
だから、村をあげての林業に携わる村人たちは裕福で、貧困に喘いでいるという訳でもない。
このお伽噺の舞台になりそうな可愛い村の中で、私は人生をやり直す。再出発をするの。
きょろきょろと周囲を見渡していた私が、物知らずな子に思えたのか、すぐ近くに居た男性が声を掛けてきた。
「お嬢さん。もし何かお困り事なら、私にお手伝い出来ることはありますか?」
「いえ……! 大丈夫です」
いかにも怪しげな誘いに思える厳つい顔をした男性からの言葉を振り切り、私は大きな荷物を持って早足で歩き始めた。
私を騙して、売り払うつもりかしら……? 絶対に騙されたりしないんだから。
何故、こんな辺鄙な村に来て、私が人生をやり直そうとしているかというと、理由は簡単。
……婚約者が、病弱で可愛い妹に恋をしたから。
私の妹二歳年下のオレリーは、幼い頃から病弱で、これでは成人は出来ないだろうと医師に告げられた。両親はそれを聞き嘆き悲しみ、私だって悲しかった。
オレリーが両親の最優先になることだって、あの子の姉として、ちゃんと我慢した。
……だって、可哀想なオレリーは、大人になれずに亡くなると宣告されている。生きている間、あの子が常に幸せであるように願っていた。
姉の私は健康な身体を持ち、少々風邪をひいたとしても、あの子のように重篤な肺炎を併発してしまうこともない。
けど、妹オレリーは違う。大事に大事に育てなければ、すぐに危篤になってしまう。
我がサラクラン伯爵家が一丸となって、必死で病弱なあの子を見守り育てた。
だから、十五歳になりあの子の病に効くという薬草を飲むのようになって、だんだんと出来ることが増えていくのを私もほっと安心して喜ばしく思ったものだ。
平民は何かしてくれたお礼にこうすると以前に聞いていて、それを実践したんだけど……あれは少し、多過ぎたかもしれない。
私は財布の中にある家出のために出入りの商人に頼んで用意した、大小様々な硬貨を見て、まずは貨幣価値を掴むことから始めなければと思った。
……だって、そうしなければ、私が元々貴族であったとすぐにわかってしまう。
「ふーっ……ここまで長かったわ。まさか、三日も掛かると思わなかった。遠かったけど、ここまで来たら、見つからないでしょう」
ここは王都より遠く離れた、山奥にある小さな村。
目に優しい緑の中に華やかな色の屋根の小さな家が立ち並び、品良く調えられた庭も綺麗だ。ここは名物となる質の良い木材を出荷していて、その木材でとても有名だ。
だから、村をあげての林業に携わる村人たちは裕福で、貧困に喘いでいるという訳でもない。
このお伽噺の舞台になりそうな可愛い村の中で、私は人生をやり直す。再出発をするの。
きょろきょろと周囲を見渡していた私が、物知らずな子に思えたのか、すぐ近くに居た男性が声を掛けてきた。
「お嬢さん。もし何かお困り事なら、私にお手伝い出来ることはありますか?」
「いえ……! 大丈夫です」
いかにも怪しげな誘いに思える厳つい顔をした男性からの言葉を振り切り、私は大きな荷物を持って早足で歩き始めた。
私を騙して、売り払うつもりかしら……? 絶対に騙されたりしないんだから。
何故、こんな辺鄙な村に来て、私が人生をやり直そうとしているかというと、理由は簡単。
……婚約者が、病弱で可愛い妹に恋をしたから。
私の妹二歳年下のオレリーは、幼い頃から病弱で、これでは成人は出来ないだろうと医師に告げられた。両親はそれを聞き嘆き悲しみ、私だって悲しかった。
オレリーが両親の最優先になることだって、あの子の姉として、ちゃんと我慢した。
……だって、可哀想なオレリーは、大人になれずに亡くなると宣告されている。生きている間、あの子が常に幸せであるように願っていた。
姉の私は健康な身体を持ち、少々風邪をひいたとしても、あの子のように重篤な肺炎を併発してしまうこともない。
けど、妹オレリーは違う。大事に大事に育てなければ、すぐに危篤になってしまう。
我がサラクラン伯爵家が一丸となって、必死で病弱なあの子を見守り育てた。
だから、十五歳になりあの子の病に効くという薬草を飲むのようになって、だんだんと出来ることが増えていくのを私もほっと安心して喜ばしく思ったものだ。
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