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05 そろそろ
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「……シェーマス様?」
そこに居たのは、いつもの余裕ある表情はなくなり、顔を強ばらせたシェーマス様だった。彼は私の元まで早足で来ると手首を握り、無理に立ち上がらせた。
こんなに乱暴な振る舞いをされたこともない私は、目を白黒させるしかなかった。
「アデライン殿、これは申し訳ない。僕と婚約者との間に、誤解があったようだ……後で、こちらに代理で誰かを寄越しましょう」
「いいえ。僕はこの一杯で十分です。お誘いありがとう……アイリーン嬢。誤解はすぐに解いた方が、得策ですよ」
私たち二人はとても失礼なことをしてしまったはずなのに、アデライン様は余裕ある表情で微笑み、気にしてないと言わんばかりに肩を竦めた。
シェーマス様は私の手を引いて大股で歩き出し、私はそんな彼に着いて行くしかなく、小走りになってしまった。
近くにある王太子の宮にまで辿り着き、彼は乱暴に私を寝室へと連れ込んだ。
「……殿下? どうして。待ってください。私は」
ベッドの上に仰向けに倒された私は、まるで身体を覆うようにシェーマス様がその上から乗って来たことが信じられなかった。
今までこんな真似……いいえ。私に気のある素振りもなかったと言うのに、なんでこんなことになっているの?
「ああ。ゆっくり話をしよう。アイリーン。僕は君が今日、スーリエとお茶をすることしか聞いてなかった……あれは、なんだ? どうして、君がアデライン殿と会っている?」
シェーマス様は怒っている? ……どうして? 私がアデライン様と話をしていたから?
「あの、偶然です! その、スーリエは私たちがそろそろ、婚約解消をすることを知っています。だから……もし、アデライン様に会えるのなら、今日しかないと、ですから」
スーリエは彼とも従姉妹で、私が女避けの婚約者であることを知っている。シェーマス様だって、これで理解したはずだ。
「だから、まだ婚約しているにも関わらず、僕の代わりの婚約者を捕まえようと? 信じられないな」
シェーマス様は顔を息がかかるほどに近づけ、怒りの表情を隠さない。
「……何故、信じられないのですか?」
私は彼の行動が理解出来なくて、眉を寄せた。まるで、私が思い合っている彼に当てつけように、不貞を働いたかのよう。
「君は僕の婚約者なのに、次なる男性を見つけようとしたことについて、だ」
「あの……殿下。私って、確か女避けのための婚約者でしたよね?」
「そういうことにしている。君を守るために」
シェーマス様の言葉を聞いて、私は思考停止してしまった。
……わたしをまもるために? どういうこと?
「……私のこと、好きでもないくせに?」
「いいや、僕がこの生涯の中で愛しているのは、君一人だけだ。だが、父の……今の妻が、僕に愛する人が出来ることを、あまり良く思って居ない」
「王妃様が?」
「だが、もうそれは無関係になった。だから、女避けというのも、嘘だ。君は昔も今も、僕のれっきとした婚約者で、近い将来結婚する」
シェーマス様が言わんとしていることは、正直に言うと意味がわからなかった。現王妃様は感じの良い優しい人で、義理の息子であるシェーマスのことも愛していると思っていたからだ。
けど、今はそんな……詳しい事情なんて、もうどうでも良い。
「……あの」
「なんだ」
「ちゃんと好きだと……愛していると言ってください。私のことを」
今まで隣に居ても、ずっとつれない態度、気のない素振り。だから、ずっと寂しかった。
「ああ。君のことを愛している。僕には君だけだ。アイリーン」
シェーマス様は顔を近づけ、唇を重ねた。濡れた舌にこじ開けられ、互いに舌を絡ませた。時間を忘れてそれに没頭していると唾液がしたたり落ちて、喉にひんやりした感覚がした。
大きな手が胸を揉んでいる感覚に気がつき、私は今とんでもないことになっているのではないかと、ようやくこの時に気がついた。
「……シェーマスさまっ……あの、これは」
「僕たちは婚約者で、近い将来結婚する。何も心配は要らないよ。アイリーン」
そう言って微笑んだシェーマスは、私が着ていたデイドレスの腰に編み上げていたリボンをどこかから取り出した小さなナイフで切った。
そこに居たのは、いつもの余裕ある表情はなくなり、顔を強ばらせたシェーマス様だった。彼は私の元まで早足で来ると手首を握り、無理に立ち上がらせた。
こんなに乱暴な振る舞いをされたこともない私は、目を白黒させるしかなかった。
「アデライン殿、これは申し訳ない。僕と婚約者との間に、誤解があったようだ……後で、こちらに代理で誰かを寄越しましょう」
「いいえ。僕はこの一杯で十分です。お誘いありがとう……アイリーン嬢。誤解はすぐに解いた方が、得策ですよ」
私たち二人はとても失礼なことをしてしまったはずなのに、アデライン様は余裕ある表情で微笑み、気にしてないと言わんばかりに肩を竦めた。
シェーマス様は私の手を引いて大股で歩き出し、私はそんな彼に着いて行くしかなく、小走りになってしまった。
近くにある王太子の宮にまで辿り着き、彼は乱暴に私を寝室へと連れ込んだ。
「……殿下? どうして。待ってください。私は」
ベッドの上に仰向けに倒された私は、まるで身体を覆うようにシェーマス様がその上から乗って来たことが信じられなかった。
今までこんな真似……いいえ。私に気のある素振りもなかったと言うのに、なんでこんなことになっているの?
「ああ。ゆっくり話をしよう。アイリーン。僕は君が今日、スーリエとお茶をすることしか聞いてなかった……あれは、なんだ? どうして、君がアデライン殿と会っている?」
シェーマス様は怒っている? ……どうして? 私がアデライン様と話をしていたから?
「あの、偶然です! その、スーリエは私たちがそろそろ、婚約解消をすることを知っています。だから……もし、アデライン様に会えるのなら、今日しかないと、ですから」
スーリエは彼とも従姉妹で、私が女避けの婚約者であることを知っている。シェーマス様だって、これで理解したはずだ。
「だから、まだ婚約しているにも関わらず、僕の代わりの婚約者を捕まえようと? 信じられないな」
シェーマス様は顔を息がかかるほどに近づけ、怒りの表情を隠さない。
「……何故、信じられないのですか?」
私は彼の行動が理解出来なくて、眉を寄せた。まるで、私が思い合っている彼に当てつけように、不貞を働いたかのよう。
「君は僕の婚約者なのに、次なる男性を見つけようとしたことについて、だ」
「あの……殿下。私って、確か女避けのための婚約者でしたよね?」
「そういうことにしている。君を守るために」
シェーマス様の言葉を聞いて、私は思考停止してしまった。
……わたしをまもるために? どういうこと?
「……私のこと、好きでもないくせに?」
「いいや、僕がこの生涯の中で愛しているのは、君一人だけだ。だが、父の……今の妻が、僕に愛する人が出来ることを、あまり良く思って居ない」
「王妃様が?」
「だが、もうそれは無関係になった。だから、女避けというのも、嘘だ。君は昔も今も、僕のれっきとした婚約者で、近い将来結婚する」
シェーマス様が言わんとしていることは、正直に言うと意味がわからなかった。現王妃様は感じの良い優しい人で、義理の息子であるシェーマスのことも愛していると思っていたからだ。
けど、今はそんな……詳しい事情なんて、もうどうでも良い。
「……あの」
「なんだ」
「ちゃんと好きだと……愛していると言ってください。私のことを」
今まで隣に居ても、ずっとつれない態度、気のない素振り。だから、ずっと寂しかった。
「ああ。君のことを愛している。僕には君だけだ。アイリーン」
シェーマス様は顔を近づけ、唇を重ねた。濡れた舌にこじ開けられ、互いに舌を絡ませた。時間を忘れてそれに没頭していると唾液がしたたり落ちて、喉にひんやりした感覚がした。
大きな手が胸を揉んでいる感覚に気がつき、私は今とんでもないことになっているのではないかと、ようやくこの時に気がついた。
「……シェーマスさまっ……あの、これは」
「僕たちは婚約者で、近い将来結婚する。何も心配は要らないよ。アイリーン」
そう言って微笑んだシェーマスは、私が着ていたデイドレスの腰に編み上げていたリボンをどこかから取り出した小さなナイフで切った。
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