冷酷な処刑人に一目で恋をして、殺されたはずなのに何故か時戻りしたけど、どうしても彼にまた会いたいと願った私を待つ終幕。

待鳥園子

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03 王家の影

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 暦を確認すれば私は、実に二年ほどの時を巻き戻ってしまったようだった。

 現在は貴族学園の二年生で、リチャードが恋に落ちる男爵令嬢ルイーゼ様が入学するのは来年の春だった。

 入学式で運命的に出会い、彼らは恋に落ちるはずだ。

 未来、何が起こるかを知る私が、このまま何もしなければ。きっと、そうなることだろう。

 けど、私の関心はそこにはなかった。

 王家の影と呼ばれている存在が居ることは、近い将来に王太子妃になる予定だった私は教師から教えられていた。

 特定の王家の人間のためだけに存在し、死にゆく者。王家に近い血筋から、影として身代わりにもなれるように。容姿が良く似た者が、選ばれるらしい。

 そういえば、彼は髪の色を除けば王太子リチャードに似ていた。陽の光のような金髪と、闇を思わせる黒髪。まるで、彼ら二人の対照的な立ち位置を表すような。

 あの時に、怒りに我を忘れたリチャードが彼を呼んだ名前。ユーウェインという名前で、私は密かに調査を開始した。

 王家の影の正体を知るなど、通常であるなら政治的な力も持たない公爵令嬢に出来るはずもない。でも、私には彼が存在していることも知り、名前などのいくつかのヒントを得ていた。

 その上に、この頃の私はいずれ王族となる身分だった。

 限られた者にしか立ち入れない家系図のある資料室にも、入室は可能だ。

 リチャードの影であるためには、彼は近い年齢の縁戚である必要があった。けど、その産まれた系譜なんかは、今は公式には抹消されて秘されているはずで……。

「……前王弟の、庶子……今ではもう、死んでいるはずのユーウェイン。あの人は、リチャードの従兄弟だったのね……」

「仕方の無い人だ。せっかく、人生をやり直すために時を戻したのに。なぜ、こんなところで俺なんかのことを、調べているんですか?」

 暗く狭い資料室には、私一人しかいないはずだった。

 ここは、王家の者とそして極少数の限られた学者以外は入ることの出来ない場所のはずで……。

 声の方向を見れば、あの時の処刑人。私を殺した人だった。薄暗い影の中に居て、溶け込んでしまいそうな黒髪と黒衣。

 美しい、紺碧の瞳。

「貴方……ユーウェイン?」

 震える声で問い掛けた私に、彼は小さく溜め息をついた。
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