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04 手遅れ
「……誰だ?」
私の隣には、水色の髪を持つ貴公子チェーザレ。ジェレミアは彼のことを知らなくて、不思議そうだった。
知らなくて当然だった。私も……彼の両親だって、ジェレミアには関係ないように伝えないようにしていたもの。
「こちらは、トリエヴァン帝国の皇帝チェーザレ・エラザスよ。私の母側の従兄弟なの。この前に即位したばかり」
「皇帝……トリエヴァン帝国の」
ジェレミアは息をのんだようだった。それもそのはず。ウィスタリア王国は大陸の半分を占めるトリエヴァン帝国に比べると、国力が違い過ぎる。
友好的な関係にあるとは言え、何が戦争の火種になるかなんてわからない。
即位式には彼の両親が出席して、ジェレミアは留守番をしたから、チェーザレの顔を見るのはこれが最初のはずだ。
「ええ。それは、ずっと伏せられていたのよ。実は私の母の出生は、先の皇帝の庶子だったの。そして、遠縁であるウィスタリア王国アレイスター公爵家に預けられ、そのまま父と結婚したのですわ。トリエヴァン帝国の継承権争いは激しいもので、私の出生が知られれば、利用されてしまうかもしれなかったのです。ですが、無事にチェーザレが皇帝になり、私の出生もこうして明らかにすることが出来ました」
私は周囲の貴族たちを見回し、過去に嘲ったり、後ろ暗いところのある者は目を伏せた。
そうでしょうね。私が単なる公爵家の娘であれば、王太子に嫌われた公爵令嬢として弱い立場にあったかもしれない。
けれど、大きな帝国の皇帝一族の血を持ち、現皇帝の可愛がっている従姉妹であれば?
そうであれば、話は違って来ることは知っていたし、大きな後ろ盾を持っている私に罪を被せて婚約破棄をするなんて、どれだけ自国の王太子が馬鹿なことを仕出かしたか、彼らだって良く理解することが出来るだろう。
まさに断罪と呼ぶに相応しいわ。
「ミレイユ。お前が望むならば、王太子の顔をすげ替えれば済むのではないか」
チェーザレのとても低い声が聞こえて、私は首を横に振った。
別に私は王太子と結婚したかった訳でもなくて、好きになったジェレミアと結婚したかっただけ……今はその夢もなくなってしまったけれど。
「いいえ。チェーザレ。始めて……私だって、言いたいこと……沢山あるんだから」
私は両脇を押さえられていたジェレミアを、キッと睨み付けた。
私と婚約していたくせに……色んなご令嬢と浮気して、信じられない! 自分の父親と、ここに集まった多くの貴族の前で恥をかけば良いんだわ!
「それでは、ミレイユの望みを叶えるようにしよう……それでは、ウィスタリア王国王太子ジェレミア・バートレット! 皇帝の名において、虚偽の証言は許さぬ。婚約者たるミレイユが居るのに、お前は彼女を蔑ろにし、多くの女性と関係したようだが、それは事実か? 真実のみを答えよ」
思わぬ王太子の断罪劇のはじまりに、周囲の貴族たちは好奇の視線を隠せないようだった。
私はというと完全に形勢逆転して始まった断罪劇に、胸がスッとする思いだった。ジェレミアを好きだったからこそ、浮気について許せない気持ちが強かったもの。
「……違う。誰とも関係はしていない」
しーんとした広間で、ジェレミアは真っ直ぐに私を見て言った。
「そんな訳ないでしょう。私以外のご令嬢と寄り添っているところを、これまでに数を数え切れないくらいに見たわ」
あれを関係していないと言うなんて、ふざけているのかしら。
「それは、ミレイユだって同じだ。俺は見たんだ。俺と婚約していたのに、同じ年代の異性と何度も密会していただろう! だから、俺だって同じことをしたんだ!」
その場に居る全員が、きょとんとした顔になった。私だって、そうだった。
婚約者の私が浮気したから、浮気をしたですって……?
私の隣には、水色の髪を持つ貴公子チェーザレ。ジェレミアは彼のことを知らなくて、不思議そうだった。
知らなくて当然だった。私も……彼の両親だって、ジェレミアには関係ないように伝えないようにしていたもの。
「こちらは、トリエヴァン帝国の皇帝チェーザレ・エラザスよ。私の母側の従兄弟なの。この前に即位したばかり」
「皇帝……トリエヴァン帝国の」
ジェレミアは息をのんだようだった。それもそのはず。ウィスタリア王国は大陸の半分を占めるトリエヴァン帝国に比べると、国力が違い過ぎる。
友好的な関係にあるとは言え、何が戦争の火種になるかなんてわからない。
即位式には彼の両親が出席して、ジェレミアは留守番をしたから、チェーザレの顔を見るのはこれが最初のはずだ。
「ええ。それは、ずっと伏せられていたのよ。実は私の母の出生は、先の皇帝の庶子だったの。そして、遠縁であるウィスタリア王国アレイスター公爵家に預けられ、そのまま父と結婚したのですわ。トリエヴァン帝国の継承権争いは激しいもので、私の出生が知られれば、利用されてしまうかもしれなかったのです。ですが、無事にチェーザレが皇帝になり、私の出生もこうして明らかにすることが出来ました」
私は周囲の貴族たちを見回し、過去に嘲ったり、後ろ暗いところのある者は目を伏せた。
そうでしょうね。私が単なる公爵家の娘であれば、王太子に嫌われた公爵令嬢として弱い立場にあったかもしれない。
けれど、大きな帝国の皇帝一族の血を持ち、現皇帝の可愛がっている従姉妹であれば?
そうであれば、話は違って来ることは知っていたし、大きな後ろ盾を持っている私に罪を被せて婚約破棄をするなんて、どれだけ自国の王太子が馬鹿なことを仕出かしたか、彼らだって良く理解することが出来るだろう。
まさに断罪と呼ぶに相応しいわ。
「ミレイユ。お前が望むならば、王太子の顔をすげ替えれば済むのではないか」
チェーザレのとても低い声が聞こえて、私は首を横に振った。
別に私は王太子と結婚したかった訳でもなくて、好きになったジェレミアと結婚したかっただけ……今はその夢もなくなってしまったけれど。
「いいえ。チェーザレ。始めて……私だって、言いたいこと……沢山あるんだから」
私は両脇を押さえられていたジェレミアを、キッと睨み付けた。
私と婚約していたくせに……色んなご令嬢と浮気して、信じられない! 自分の父親と、ここに集まった多くの貴族の前で恥をかけば良いんだわ!
「それでは、ミレイユの望みを叶えるようにしよう……それでは、ウィスタリア王国王太子ジェレミア・バートレット! 皇帝の名において、虚偽の証言は許さぬ。婚約者たるミレイユが居るのに、お前は彼女を蔑ろにし、多くの女性と関係したようだが、それは事実か? 真実のみを答えよ」
思わぬ王太子の断罪劇のはじまりに、周囲の貴族たちは好奇の視線を隠せないようだった。
私はというと完全に形勢逆転して始まった断罪劇に、胸がスッとする思いだった。ジェレミアを好きだったからこそ、浮気について許せない気持ちが強かったもの。
「……違う。誰とも関係はしていない」
しーんとした広間で、ジェレミアは真っ直ぐに私を見て言った。
「そんな訳ないでしょう。私以外のご令嬢と寄り添っているところを、これまでに数を数え切れないくらいに見たわ」
あれを関係していないと言うなんて、ふざけているのかしら。
「それは、ミレイユだって同じだ。俺は見たんだ。俺と婚約していたのに、同じ年代の異性と何度も密会していただろう! だから、俺だって同じことをしたんだ!」
その場に居る全員が、きょとんとした顔になった。私だって、そうだった。
婚約者の私が浮気したから、浮気をしたですって……?
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