婚約破棄される令嬢の心は、断罪された王子様の手の中。

待鳥園子

文字の大きさ
6 / 6

06 ごめんなさい

しおりを挟む
 ジェレミアは私が嘘をついたと思って居たから、ずっと不安だったのだ。

 あの男の子は誰だと調べても、王太子である自分にも届かない機密情報だったから、より一層不安にさせてしまっていたに違いない。

「これも言って置くが、ご令嬢と共に居たのは、君が見て居る前だけだ。けど、ミレイユ。君は何も言わなかった。俺のことが好きだとしたなら、そんなことは止めてくれと、言ってくれて良かったのに」

「……ジェレミア。ごめんなさい。すごく……傷つけていたのね。ごめんなさい」

 私にはそんなつもりはなかった。彼がそう望むのなら、結婚前の火遊びくらい大目に見ようと、そういう気持ちでいた。

 だって、婚約しているのだから、私と結婚することは間違いないもの。

 けど、ジェレミアはそんな私の態度にも傷ついていたのだ。嫉妬してくれないことで、私の気持ちが自分にないと思ってしまっても仕方ない。

「俺は君が好きなんだ。どうして、何度も……嘘をついて……どうして、これまでに何も言ってくれなかったんだ。嘘をついても、浮気を咎めてくれたら、それで安心出来たのに……君は俺が何をしても、何も言わない。俺だけが、君のことを好きなんだと、ずっとそう思って居た」

 ぼろぼろと泣き崩れるジェレミアは、今まで違うご令嬢を伴いすましていた王太子の威厳などもなく、ただ私のことが好きなんだとそういう気持ちが溢れて来ていた。

「ごめんなさい。私……それを咎めたら、嫌われてしまうと思ったの。けど、それは違ったのね」

 私はジェレミアの気持ちを勝手に想像して、決めつけて……彼側から助けを求めている行動を、間違えて解釈していた。

「違う。君以外好きになったことなんて、ないよ。相手が皇帝でも、俺は関係ない」

 そう言って私の背後に居たチェーザレを睨み付けたので、私は彼の勘違いを察して両手を振った。

「ジェレミア! 何を勘違いしているのか知らないけれど、チェーザレは何の関係もないただの従兄弟よ! 貴方も知っての通り、トリエヴァン帝国は血で血を洗うような継承権争いで、チェーザレが心安まるのは私の母……つまり、叔母の家であるアレイスター公爵邸に居る時だけだったのです」

 チェーザレはとても苦しい立場で、母も大事にしてくれた兄の子である彼を心配していた。

 だから、ことある毎にこちらの国に来て静養するようにと伝えていたのだ。私にとってもチェーザレは家族だから、ジェレミアに向けるような気持ちは一切持っていない。

「そこまで言い切られると悲しいが、それは事実だ。ウィスタリアの王太子、俺とミレイユには君が疑うような過去はない」

 離れた位置で苦笑したチェーザレにようやく納得することが来たのか、ジェレミアは泣きながら微笑んだ。

「ミレイユが俺のことを好きで居てくれるなら、なんでも良いよ。もう……」

 そう言って私を久しぶりに抱きしめたので、私は彼の背中を叩いてあげた。

「ごめんなさい……誤解させて、苦しい思いをさせて……」

 今では二人とも大きな勘違いをしていたってわかるけれど、今までずっとジェレミアは辛かったと思うと、私だって辛い。

「それは、もう良いから……婚約破棄を言い出せば、流石に何か言ってくれるかなって思ったけど、ミレイユに断罪されるなんて、思わなかったよ」

「ごめんなさい」

 私たちはそのまましばし抱き合って、やがて周囲から聞こえて来た拍手で顔を上げることになるのでした。

Fin



しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ユウコフ
2024.11.07 ユウコフ
ネタバレ含む
2024.11.07 待鳥園子

感想ありがとうございます♡

若返っていただけて光栄ですw

解除

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

せめて、淑女らしく~お飾りの妻だと思っていました

藍田ひびき
恋愛
「最初に言っておく。俺の愛を求めるようなことはしないで欲しい」  リュシエンヌは婚約者のオーバン・ルヴェリエ伯爵からそう告げられる。不本意であっても傷物令嬢であるリュシエンヌには、もう後はない。 「お飾りの妻でも構わないわ。淑女らしく務めてみせましょう」  そうしてオーバンへ嫁いだリュシエンヌは正妻としての務めを精力的にこなし、徐々に夫の態度も軟化していく。しかしそこにオーバンと第三王女が恋仲であるという噂を聞かされて……? ※ なろうにも投稿しています。

【完結】婚約解消ですか?!分かりました!!

たまこ
恋愛
 大好きな婚約者ベンジャミンが、侯爵令嬢と想い合っていることを知った、猪突猛進系令嬢ルシルの婚約解消奮闘記。 2023.5.8 HOTランキング61位/24hランキング47位 ありがとうございました!

婚約破棄させてください!

佐崎咲
恋愛
「ユージーン=エスライト! あなたとは婚約破棄させてもらうわ!」 「断る」 「なんでよ! 婚約破棄させてよ! お願いだから!」 伯爵令嬢の私、メイシアはユージーンとの婚約破棄を願い出たものの、即座に却下され戸惑っていた。 どうして? 彼は他に好きな人がいるはずなのに。 だから身を引こうと思ったのに。 意地っ張りで、かわいくない私となんて、結婚したくなんかないだろうと思ったのに。 ============ 第1~4話 メイシア視点 第5~9話 ユージーン視点  エピローグ ユージーンが好きすぎていつも逃げてしまうメイシアと、 その裏のユージーンの葛藤(答え合わせ的な)です。 ※無断転載・複写はお断りいたします。

他人の婚約者を誘惑せずにはいられない令嬢に目をつけられましたが、私の婚約者を馬鹿にし過ぎだと思います

珠宮さくら
恋愛
ニヴェス・カスティリオーネは婚約者ができたのだが、あまり嬉しくない状況で婚約することになった。 最初は、ニヴェスの妹との婚約者にどうかと言う話だったのだ。その子息が、ニヴェスより年下で妹との方が歳が近いからだった。 それなのに妹はある理由で婚約したくないと言っていて、それをフォローしたニヴェスが、その子息に気に入られて婚約することになったのだが……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。