47 / 152
第一部
047 プールサイド
しおりを挟む
雄吾さんは車に乗り込んでから、オーナーの子竜さんに直接予約の電話をしたみたいだった。
今日教えてすぐだったことに揶揄われたのか、雄吾さんは珍しく大きな手で自分の髪の毛を乱すと、彼の様子が微笑ましくて笑顔になった私に向かって言った。
「あいつが用意してくれたのは、プライベートプール付きの部屋だそうだ」
「……え?」
「俺たちの水着も、用意してくれるらしい……嫌なら使わないで、構わないらしいが」
「え? すごい……プール付きの部屋なんて、嬉しいです! 私。プール、すごく好きなんです」
「……そうか? それなら、良かった」
急に前のめりになった私に、雄吾さんは少し顔を赤くしてから頷いた。
そう。海にはあまり行ったことはないけれど、夏には元の世界でもプールには良く行ってた。もっとも、異性と行くのは産まれて初めてだけど。
心浮き立ちウキウキしている私を横目に、雄吾さんはなんだか浮かない顔だ。あまり見ないそんな様子に、私は不思議になって聞いた。
「え。雄吾さん。どうかしたんですか?」
「すぐにわかることだから、先に言っておくが……子どもの頃からなんだが、俺はあまり泳げないんだ」
そんな話をしつつ、恥ずかしそうにする雄吾さんに私はなんだか面白くなって言った。
「雄吾さんにも苦手なもの……あるんですね」
「……子竜。あいつ、プール付きの部屋は絶対に故意だな」
雄吾さんは、どこか悔しそうに言った。子竜さんは、きっと昔から知ってる幼馴染だからそんな弱点だって、心得てるんだ。
「ホテルのプールだと……泳ぐっていうより、遊ぶって感じになりそうですよね」
「……ああ」
「雄吾さん、大丈夫ですよ。私も本気で泳ごうとは、思っていませんから」
私がふふっと笑うと、雄吾さんは逆光で眩しいのか、サングラスをかけた。
春くんも昨日買い物に行くときに掛けていたオシャレなサングラスをかけると、同じサングラスなのに、ぜんぜん違う雰囲気の人になってしまった。
「海綺麗ですね。夕焼け見られるの、楽しみです」
「ああ」
◇◆◇
私がなんとなく想像していたよりも、かなり高級な海辺のホテルに到着した。
え。子竜さんって、実は物凄い人なんじゃ……だって、どう考えても高級ホテルだし、レストランのオーナーだし。こんな大きなホテルの、オーナーなんだ……。
「……子竜の会社には、俺も結構な額を出資しているんだ。だから、これからあいつと会う機会も、多くなると思う。レストランもこのホテルも、オーナーは子竜だ」
「すっ……すごいですね。驚きました。会うって、何かのパーティとかですか?」
雄吾さんは、振り返って車の鍵を閉めつつ私の疑問に頷いた。
「まぁな……ただお金を出すだけでは、ダメな世界なんだ。そういう社交なんかも、一応情報収集も兼ねているから」
バイトに明け暮れる一般庶民には理解出来ぬ上流階級というのはそんなところなんだと、思わず納得してしまった私の手を取って、彼と二人でホテルへと向かった。
◇◆◇
彼が言っていたように用意されていた水着へと着替えると、部屋から繋がっているガラス張りのドームへと急いだ。
ガラスの向こうに青い海は広がっていて、海面の波の模様も眩しいくらい。
「……透子」
私は自分の名前を呼ぶ声に振り返って、思わずふふっと微笑んだ。
「雄吾さん……これって、水着ですよ?」
そう、雄吾さんは顔が真っ赤になっているし、人狼が興奮すると出てしまう長くて黒い尻尾がお尻から伸びている。
確かに私が今着ているのは隠す部分が少ないビキニなんだけど、昨日えっちなお仕置きをした人の反応とはとても思えない。
「……俺は、視覚からが弱いんだよ」
手で鼻を押さえながら話すから、この前に遭った彼とのお風呂でのハプニングを思い出して私は吹き出した。
「もしかして、鼻血出ます?」
水着を着た私が近寄って顔を覗き込むと、雄吾さんはますます顔を赤くしてしまった。
ひとしきり、一人で水遊びした私は、プール際に用意されていた大きな防水ソファに寝そべったままの雄吾さんに声を掛けた。
「雄吾さん。せっかく水着を着てるのに、プールには入らないんですか?」
「……鼻血出るから、俺はプールには入らない」
どうも揶揄い過ぎて、拗ねてしまったようだ。雄吾さんはそっぽ向いて、私が居る方を向いてくれない。
「もう、日が沈み始めますよ、ここだと足だって付きますし、せっかくだから見やすいこっちで見ましょうよ」
「……透子が迎えに来てくれたら、行っても良い」
私は微笑んでからプールを上がると、差し出された雄吾さんの大きな右手を両手で引っ張った。彼はすぐにソファから立ち上がって私から顔は逸らしているけど、私がゆっくりと誘導する方に歩いて来てくれた。
「ほら……綺麗ですよ」
海側は、繋ぎ目のない大きなガラス張りだ。あまりに綺麗に出来ていて、どういった技術かはわからないけれど、徐々に赤くなっていく夕焼けが見えて美しい。
夕日を見てはしゃいだ私を愛おしそうに見つめると、雄吾さんは抱き上げて長いキスをくれた。陽が暮れて辺りが薄紫になってしまうまで、ずっと。
今日教えてすぐだったことに揶揄われたのか、雄吾さんは珍しく大きな手で自分の髪の毛を乱すと、彼の様子が微笑ましくて笑顔になった私に向かって言った。
「あいつが用意してくれたのは、プライベートプール付きの部屋だそうだ」
「……え?」
「俺たちの水着も、用意してくれるらしい……嫌なら使わないで、構わないらしいが」
「え? すごい……プール付きの部屋なんて、嬉しいです! 私。プール、すごく好きなんです」
「……そうか? それなら、良かった」
急に前のめりになった私に、雄吾さんは少し顔を赤くしてから頷いた。
そう。海にはあまり行ったことはないけれど、夏には元の世界でもプールには良く行ってた。もっとも、異性と行くのは産まれて初めてだけど。
心浮き立ちウキウキしている私を横目に、雄吾さんはなんだか浮かない顔だ。あまり見ないそんな様子に、私は不思議になって聞いた。
「え。雄吾さん。どうかしたんですか?」
「すぐにわかることだから、先に言っておくが……子どもの頃からなんだが、俺はあまり泳げないんだ」
そんな話をしつつ、恥ずかしそうにする雄吾さんに私はなんだか面白くなって言った。
「雄吾さんにも苦手なもの……あるんですね」
「……子竜。あいつ、プール付きの部屋は絶対に故意だな」
雄吾さんは、どこか悔しそうに言った。子竜さんは、きっと昔から知ってる幼馴染だからそんな弱点だって、心得てるんだ。
「ホテルのプールだと……泳ぐっていうより、遊ぶって感じになりそうですよね」
「……ああ」
「雄吾さん、大丈夫ですよ。私も本気で泳ごうとは、思っていませんから」
私がふふっと笑うと、雄吾さんは逆光で眩しいのか、サングラスをかけた。
春くんも昨日買い物に行くときに掛けていたオシャレなサングラスをかけると、同じサングラスなのに、ぜんぜん違う雰囲気の人になってしまった。
「海綺麗ですね。夕焼け見られるの、楽しみです」
「ああ」
◇◆◇
私がなんとなく想像していたよりも、かなり高級な海辺のホテルに到着した。
え。子竜さんって、実は物凄い人なんじゃ……だって、どう考えても高級ホテルだし、レストランのオーナーだし。こんな大きなホテルの、オーナーなんだ……。
「……子竜の会社には、俺も結構な額を出資しているんだ。だから、これからあいつと会う機会も、多くなると思う。レストランもこのホテルも、オーナーは子竜だ」
「すっ……すごいですね。驚きました。会うって、何かのパーティとかですか?」
雄吾さんは、振り返って車の鍵を閉めつつ私の疑問に頷いた。
「まぁな……ただお金を出すだけでは、ダメな世界なんだ。そういう社交なんかも、一応情報収集も兼ねているから」
バイトに明け暮れる一般庶民には理解出来ぬ上流階級というのはそんなところなんだと、思わず納得してしまった私の手を取って、彼と二人でホテルへと向かった。
◇◆◇
彼が言っていたように用意されていた水着へと着替えると、部屋から繋がっているガラス張りのドームへと急いだ。
ガラスの向こうに青い海は広がっていて、海面の波の模様も眩しいくらい。
「……透子」
私は自分の名前を呼ぶ声に振り返って、思わずふふっと微笑んだ。
「雄吾さん……これって、水着ですよ?」
そう、雄吾さんは顔が真っ赤になっているし、人狼が興奮すると出てしまう長くて黒い尻尾がお尻から伸びている。
確かに私が今着ているのは隠す部分が少ないビキニなんだけど、昨日えっちなお仕置きをした人の反応とはとても思えない。
「……俺は、視覚からが弱いんだよ」
手で鼻を押さえながら話すから、この前に遭った彼とのお風呂でのハプニングを思い出して私は吹き出した。
「もしかして、鼻血出ます?」
水着を着た私が近寄って顔を覗き込むと、雄吾さんはますます顔を赤くしてしまった。
ひとしきり、一人で水遊びした私は、プール際に用意されていた大きな防水ソファに寝そべったままの雄吾さんに声を掛けた。
「雄吾さん。せっかく水着を着てるのに、プールには入らないんですか?」
「……鼻血出るから、俺はプールには入らない」
どうも揶揄い過ぎて、拗ねてしまったようだ。雄吾さんはそっぽ向いて、私が居る方を向いてくれない。
「もう、日が沈み始めますよ、ここだと足だって付きますし、せっかくだから見やすいこっちで見ましょうよ」
「……透子が迎えに来てくれたら、行っても良い」
私は微笑んでからプールを上がると、差し出された雄吾さんの大きな右手を両手で引っ張った。彼はすぐにソファから立ち上がって私から顔は逸らしているけど、私がゆっくりと誘導する方に歩いて来てくれた。
「ほら……綺麗ですよ」
海側は、繋ぎ目のない大きなガラス張りだ。あまりに綺麗に出来ていて、どういった技術かはわからないけれど、徐々に赤くなっていく夕焼けが見えて美しい。
夕日を見てはしゃいだ私を愛おしそうに見つめると、雄吾さんは抱き上げて長いキスをくれた。陽が暮れて辺りが薄紫になってしまうまで、ずっと。
71
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
残念女子高生、実は伝説の白猫族でした。
具なっしー
恋愛
高校2年生!葉山空が一妻多夫制の男女比が20:1の世界に召喚される話。そしてなんやかんやあって自分が伝説の存在だったことが判明して…て!そんなことしるかぁ!残念女子高生がイケメンに甘やかされながらマイペースにだらだら生きてついでに世界を救っちゃう話。シリアス嫌いです。
※表紙はAI画像です
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる