まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え~もふもふ人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

待鳥園子

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第一部

049 特攻

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 私は病院のベッド側の椅子に座ったまま、今は眠ってしまっている春くんを見つめていた。

 彼の大きな手をそっと握ると、とても冷たい。いつもは熱いくらいに、温かいのに。

 私を守るために自分の血を使い過ぎて、ひどい貧血を起こしてで倒れてしまっているんだから。それも……無理もないことだけれど。

 あの後、会社へと電話を掛けた私は子竜さんの秘書さんに雄吾さんの名前を出して、必死で社長に繋いで欲しいと訴えた。そうしたら、あっさりと子竜さんの携帯に繋いでくれた。

 偶然休暇だった子竜さんは近くに居て、私達が居た公園にまで慌てて来てくれた。

 だけど、彼が来た時に公園のトイレの周辺は春くんに倒された襲撃者全員が横になっていた。

 春くんは自分が限界になるまで戦い、私が凛太さんの警告通りに閉じこもっていた女子トイレの前で、一人力尽きていたらしい。

 傍目から見ればそんな良くわからない状況下で、近くに居た人も集まって大騒ぎになっていたそうだ。

 だから、子竜さんが来てくれた時には、もう既に春くんを運ぶための救急車と事件の取り調べのために警察は呼ばれていた。

 そのまま、意識を失って倒れていた春くんは、病院へと連れて行かれてしまうところだった。出発寸前の救急車に子竜さんと連絡を貰った私は一緒に乗り込んで、春くんは医者の治療を受け今に至る。

「春くん……」

 そっと小声で呼ぶけど、やはり意識を失ってしまった彼の反応はない。

 子竜さんは理人さんか雄吾さんがどちらかが来るまで居ると言って、今も一緒に病室に居て離れて座っていた。

 けれど、彼は必要なこと以外何も言わずに、ずっと黙ったままだ。

 ガチャリとやけに大きく聞こえたノブの音がして、病室のドアが開いた。

「透子……!」

 それは、慌てて駆け付けたらしい雄吾さんだった。

 座っていた私は立ち上がって彼に駆け寄り、胸の中へと抱きついた。安心感が心の中に溢れ出て、今まで我慢していた涙がこぼれ落ちてしまった。

「雄吾さん、春くんが……っ」

「……透子、落ち着け。状況はもう俺も、聞いている。春は……大丈夫だ。すぐに意識を取り戻すから。子竜。今日はすまなかった。この埋め合わせは必ずするよ」

 黙っていた子竜さんはゆっくりと私たちに近づくと、雄吾さんの左頬にゆっくりパンチした。

「お前。大事なものの優先順位間違っているんじゃないのか……奥さんはずっと泣くのを堪えて、我慢していたみたいだぞ。ゆっくりと泣かせてやれ」

 彼はそう言い終わると、先ほど雄吾さんが入って来た扉から出て行こうとした。

 私はその時に助けて貰ったお礼もろくに言っていないことに気がつくと、去っていく子竜さんの大きな背中に向かって言った。

「あのっ、ありがとうございました」

 子竜さんはこちらを振り向かないまま、ひらひらと片手を振ってからドアが閉まった。

「透子。春の特殊能力。あいつの武器は、自分の血液であることは知っているな?」

 雄吾さんは私をぎゅっと胸に抱きしめながら、そう言った。私は彼の言葉に、頷いた。

「今回は相手の数が多くて、限界の量まで血を使ったみたいだな。輸血してから、しばらく寝ていれば治る……こんなことを言うのも何だが。これは、いつものことなんだ。すぐに良くなるから。今日は俺たちはもう帰って、また明日迎えに来よう」

「……でも。春くんが目覚めた時に、出来たら傍に居たいです」

 涙目で見上げた私に、ふうと大きく息をついてから雄吾さんは言った。

「入院の手続きもして、説明も聞いて来た。この病院は、付き添いが禁止されているんだ。夜はあいつの傍には、居られない。気持ちはわかるが、どうか聞き分けてくれ」

 それを聞いても納得は出来ずにダメ元で何度もお願いしたけれど、ルールはルールと諭されて、結局は私たちは巣へと帰ることになった。


◇◆◇


 雄吾さんが帰りにテイクアウトで買って来てくれたご飯は、とても喉を通らなかった。

 私たちのリーダーである理人さんは、当事者の私と春くんの代わりの警察からの事情聴取を受けていてまだ帰って来ていない。

 ……結局、あれは小夜乃さんは、関わっているのだろうか。

 私を守るために限界まで戦ってくれた春くんのことを想うと……辛くて、ベッドに横になると涙が流れて止まらなかった。

「透子」

 結構な長い間、布団の中で蹲って泣いていたら。ふと気がつくと、雄吾さんが傍に居て、私の髪を撫でていてくれた。

「……雄吾さん……いつから?」

「一応はノックはしたんだが……やっぱり、気がつかなかったんだな」

 彼は仕方ないと苦笑して、私の頬にキスを落とした。

「ん……ごめんなさい。雄吾さん」

 彼から、甘やかすような空気を感じたものの。とてもそんな気分になれなくて、私は顔を俯かせた。

「……どうせ、眠れないんだろう? 何もかも忘れて、眠りたくなるまで。俺と良いことをしよう」

「雄吾さん……」

 何を言い出すのかと口を尖らせた私の唇に、ちゅっと音を立ててキスをすると顎に指を掛けて顔を上に向かせると彼は言った。

「泣いている透子も可愛いが、俺は笑っていてくれる方が好きだ」
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