49 / 152
第一部
049 特攻
しおりを挟む
私は病院のベッド側の椅子に座ったまま、今は眠ってしまっている春くんを見つめていた。
彼の大きな手をそっと握ると、とても冷たい。いつもは熱いくらいに、温かいのに。
私を守るために自分の血を使い過ぎて、ひどい貧血を起こしてで倒れてしまっているんだから。それも……無理もないことだけれど。
あの後、会社へと電話を掛けた私は子竜さんの秘書さんに雄吾さんの名前を出して、必死で社長に繋いで欲しいと訴えた。そうしたら、あっさりと子竜さんの携帯に繋いでくれた。
偶然休暇だった子竜さんは近くに居て、私達が居た公園にまで慌てて来てくれた。
だけど、彼が来た時に公園のトイレの周辺は春くんに倒された襲撃者全員が横になっていた。
春くんは自分が限界になるまで戦い、私が凛太さんの警告通りに閉じこもっていた女子トイレの前で、一人力尽きていたらしい。
傍目から見ればそんな良くわからない状況下で、近くに居た人も集まって大騒ぎになっていたそうだ。
だから、子竜さんが来てくれた時には、もう既に春くんを運ぶための救急車と事件の取り調べのために警察は呼ばれていた。
そのまま、意識を失って倒れていた春くんは、病院へと連れて行かれてしまうところだった。出発寸前の救急車に子竜さんと連絡を貰った私は一緒に乗り込んで、春くんは医者の治療を受け今に至る。
「春くん……」
そっと小声で呼ぶけど、やはり意識を失ってしまった彼の反応はない。
子竜さんは理人さんか雄吾さんがどちらかが来るまで居ると言って、今も一緒に病室に居て離れて座っていた。
けれど、彼は必要なこと以外何も言わずに、ずっと黙ったままだ。
ガチャリとやけに大きく聞こえたノブの音がして、病室のドアが開いた。
「透子……!」
それは、慌てて駆け付けたらしい雄吾さんだった。
座っていた私は立ち上がって彼に駆け寄り、胸の中へと抱きついた。安心感が心の中に溢れ出て、今まで我慢していた涙がこぼれ落ちてしまった。
「雄吾さん、春くんが……っ」
「……透子、落ち着け。状況はもう俺も、聞いている。春は……大丈夫だ。すぐに意識を取り戻すから。子竜。今日はすまなかった。この埋め合わせは必ずするよ」
黙っていた子竜さんはゆっくりと私たちに近づくと、雄吾さんの左頬にゆっくりパンチした。
「お前。大事なものの優先順位間違っているんじゃないのか……奥さんはずっと泣くのを堪えて、我慢していたみたいだぞ。ゆっくりと泣かせてやれ」
彼はそう言い終わると、先ほど雄吾さんが入って来た扉から出て行こうとした。
私はその時に助けて貰ったお礼もろくに言っていないことに気がつくと、去っていく子竜さんの大きな背中に向かって言った。
「あのっ、ありがとうございました」
子竜さんはこちらを振り向かないまま、ひらひらと片手を振ってからドアが閉まった。
「透子。春の特殊能力。あいつの武器は、自分の血液であることは知っているな?」
雄吾さんは私をぎゅっと胸に抱きしめながら、そう言った。私は彼の言葉に、頷いた。
。
「今回は相手の数が多くて、限界の量まで血を使ったみたいだな。輸血してから、しばらく寝ていれば治る……こんなことを言うのも何だが。これは、いつものことなんだ。すぐに良くなるから。今日は俺たちはもう帰って、また明日迎えに来よう」
「……でも。春くんが目覚めた時に、出来たら傍に居たいです」
涙目で見上げた私に、ふうと大きく息をついてから雄吾さんは言った。
「入院の手続きもして、説明も聞いて来た。この病院は、付き添いが禁止されているんだ。夜はあいつの傍には、居られない。気持ちはわかるが、どうか聞き分けてくれ」
それを聞いても納得は出来ずにダメ元で何度もお願いしたけれど、ルールはルールと諭されて、結局は私たちは巣へと帰ることになった。
◇◆◇
雄吾さんが帰りにテイクアウトで買って来てくれたご飯は、とても喉を通らなかった。
私たちのリーダーである理人さんは、当事者の私と春くんの代わりの警察からの事情聴取を受けていてまだ帰って来ていない。
……結局、あれは小夜乃さんは、関わっているのだろうか。
私を守るために限界まで戦ってくれた春くんのことを想うと……辛くて、ベッドに横になると涙が流れて止まらなかった。
「透子」
結構な長い間、布団の中で蹲って泣いていたら。ふと気がつくと、雄吾さんが傍に居て、私の髪を撫でていてくれた。
「……雄吾さん……いつから?」
「一応はノックはしたんだが……やっぱり、気がつかなかったんだな」
彼は仕方ないと苦笑して、私の頬にキスを落とした。
「ん……ごめんなさい。雄吾さん」
彼から、甘やかすような空気を感じたものの。とてもそんな気分になれなくて、私は顔を俯かせた。
「……どうせ、眠れないんだろう? 何もかも忘れて、眠りたくなるまで。俺と良いことをしよう」
「雄吾さん……」
何を言い出すのかと口を尖らせた私の唇に、ちゅっと音を立ててキスをすると顎に指を掛けて顔を上に向かせると彼は言った。
「泣いている透子も可愛いが、俺は笑っていてくれる方が好きだ」
彼の大きな手をそっと握ると、とても冷たい。いつもは熱いくらいに、温かいのに。
私を守るために自分の血を使い過ぎて、ひどい貧血を起こしてで倒れてしまっているんだから。それも……無理もないことだけれど。
あの後、会社へと電話を掛けた私は子竜さんの秘書さんに雄吾さんの名前を出して、必死で社長に繋いで欲しいと訴えた。そうしたら、あっさりと子竜さんの携帯に繋いでくれた。
偶然休暇だった子竜さんは近くに居て、私達が居た公園にまで慌てて来てくれた。
だけど、彼が来た時に公園のトイレの周辺は春くんに倒された襲撃者全員が横になっていた。
春くんは自分が限界になるまで戦い、私が凛太さんの警告通りに閉じこもっていた女子トイレの前で、一人力尽きていたらしい。
傍目から見ればそんな良くわからない状況下で、近くに居た人も集まって大騒ぎになっていたそうだ。
だから、子竜さんが来てくれた時には、もう既に春くんを運ぶための救急車と事件の取り調べのために警察は呼ばれていた。
そのまま、意識を失って倒れていた春くんは、病院へと連れて行かれてしまうところだった。出発寸前の救急車に子竜さんと連絡を貰った私は一緒に乗り込んで、春くんは医者の治療を受け今に至る。
「春くん……」
そっと小声で呼ぶけど、やはり意識を失ってしまった彼の反応はない。
子竜さんは理人さんか雄吾さんがどちらかが来るまで居ると言って、今も一緒に病室に居て離れて座っていた。
けれど、彼は必要なこと以外何も言わずに、ずっと黙ったままだ。
ガチャリとやけに大きく聞こえたノブの音がして、病室のドアが開いた。
「透子……!」
それは、慌てて駆け付けたらしい雄吾さんだった。
座っていた私は立ち上がって彼に駆け寄り、胸の中へと抱きついた。安心感が心の中に溢れ出て、今まで我慢していた涙がこぼれ落ちてしまった。
「雄吾さん、春くんが……っ」
「……透子、落ち着け。状況はもう俺も、聞いている。春は……大丈夫だ。すぐに意識を取り戻すから。子竜。今日はすまなかった。この埋め合わせは必ずするよ」
黙っていた子竜さんはゆっくりと私たちに近づくと、雄吾さんの左頬にゆっくりパンチした。
「お前。大事なものの優先順位間違っているんじゃないのか……奥さんはずっと泣くのを堪えて、我慢していたみたいだぞ。ゆっくりと泣かせてやれ」
彼はそう言い終わると、先ほど雄吾さんが入って来た扉から出て行こうとした。
私はその時に助けて貰ったお礼もろくに言っていないことに気がつくと、去っていく子竜さんの大きな背中に向かって言った。
「あのっ、ありがとうございました」
子竜さんはこちらを振り向かないまま、ひらひらと片手を振ってからドアが閉まった。
「透子。春の特殊能力。あいつの武器は、自分の血液であることは知っているな?」
雄吾さんは私をぎゅっと胸に抱きしめながら、そう言った。私は彼の言葉に、頷いた。
。
「今回は相手の数が多くて、限界の量まで血を使ったみたいだな。輸血してから、しばらく寝ていれば治る……こんなことを言うのも何だが。これは、いつものことなんだ。すぐに良くなるから。今日は俺たちはもう帰って、また明日迎えに来よう」
「……でも。春くんが目覚めた時に、出来たら傍に居たいです」
涙目で見上げた私に、ふうと大きく息をついてから雄吾さんは言った。
「入院の手続きもして、説明も聞いて来た。この病院は、付き添いが禁止されているんだ。夜はあいつの傍には、居られない。気持ちはわかるが、どうか聞き分けてくれ」
それを聞いても納得は出来ずにダメ元で何度もお願いしたけれど、ルールはルールと諭されて、結局は私たちは巣へと帰ることになった。
◇◆◇
雄吾さんが帰りにテイクアウトで買って来てくれたご飯は、とても喉を通らなかった。
私たちのリーダーである理人さんは、当事者の私と春くんの代わりの警察からの事情聴取を受けていてまだ帰って来ていない。
……結局、あれは小夜乃さんは、関わっているのだろうか。
私を守るために限界まで戦ってくれた春くんのことを想うと……辛くて、ベッドに横になると涙が流れて止まらなかった。
「透子」
結構な長い間、布団の中で蹲って泣いていたら。ふと気がつくと、雄吾さんが傍に居て、私の髪を撫でていてくれた。
「……雄吾さん……いつから?」
「一応はノックはしたんだが……やっぱり、気がつかなかったんだな」
彼は仕方ないと苦笑して、私の頬にキスを落とした。
「ん……ごめんなさい。雄吾さん」
彼から、甘やかすような空気を感じたものの。とてもそんな気分になれなくて、私は顔を俯かせた。
「……どうせ、眠れないんだろう? 何もかも忘れて、眠りたくなるまで。俺と良いことをしよう」
「雄吾さん……」
何を言い出すのかと口を尖らせた私の唇に、ちゅっと音を立ててキスをすると顎に指を掛けて顔を上に向かせると彼は言った。
「泣いている透子も可愛いが、俺は笑っていてくれる方が好きだ」
71
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる