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第一部
秘密
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じっとその赤い目を見た。燃えるような赤い目。
どこか探るように私を見ていて、でも何も言わない。きっと私が何も言わなかったら、ずっとこのままのはずだ。
「あの……私、みんながせっかく気を使って行き先を黄花の里にしてくれたのわかっているんですけど……」
「うん」
「その、千里ちゃんにはあまり会いたくなくて……」
「もしかして……何かされたとか?」
剣呑な光がその目に宿って私は慌てて両手を振った。今にも何かしに行きそうに見えたから。
「……そのっ……私、このまま、この世界に居たくて……」
その言葉を聞いて子竜さんはちょっとぽかんとした表情になった。眉を寄せてちょっと考えてから、言葉を出した。
「……もちろん、それは居てもらわないと、俺も困るけど、その、人間の女の子がなんだって?」
「……この前に会った時に、手紙を渡されたんです。元の世界に帰る方法があると……もし教えて欲しかったら黄花の里に来るようにと……」
「は?」
子竜さんはさっきよりもっと驚いた顔になった。
「あの……私もこの世界に来た時に、飛鳥さんから聞きました。もう、戻る方法はないとそう聞きました。でも千里ちゃんに会って、そう聞いて……」
「透子ちゃんは、どう思った?」
「……帰りたくないです。ずっと皆の側に居たい。ずっと」
「迷いはないの……ここには人間はほとんどいない、人狼の世界だ。親も、友達だって残してきたんだろう?」
「私はみんなと一緒にいることを選びました。ずっと、一緒に居ます」
「死ぬまで?」
子竜さんはソファに体育座りしている私をそっと抱き上げながら、言った。
「死ぬまで、ずっと居ます。ここに居たいんです……」
子竜さんは何も言わずに抱きしめてくれた。何かを願うかのようにずっと。
「そろそろ、シャワーを浴びて夕食でも行こうか?」
空に夕焼けが混じり出した頃、静かに子竜さんは言った。その目の縁が赤いのも私は見えないフリをして頷いた。
「子竜は?」
広いリビングに顔を出した私にノートパソコンの前で仕事をしていた雄吾さんが振り向いた。
「えっと、プールで別れちゃったので」
そっと、隣に座り込む。雄吾さんは眼鏡を外して、目の間を揉んだ。ディスプレイには数字の羅列だ。いくつかのグラフもあるけど、私には全然理解できない。
「……楽しかったか?」
「はい、放ったらかしにしてごめんなさい」
私はそっと寄り添った。雄吾さんの匂いがして落ち着く。
「……透子は泳ぐの好きだからな……」
「得意ではないですけどね」
「俺よりはマシだろ」
雄吾さんは苦笑して私の髪の毛をくしゃっと混ぜた。
「ふふっ。水泳、教えましょうか?」
「結構だ。水の中で生きていく予定はないんでね」
「……いつか、洪水くるかもしれませんよ」
「その時は透子に助けてもらうから大丈夫だ」
「わかりました。雄吾さんを助けられるように泳ぎをもっと訓練しないといけませんね」
「嫌味か?」
「私はそんなこと言わないです」
雄吾さんは私の髪にキスをするとちょっと笑って言った。
「知ってる。俺の妻はいつも誠実で可愛くて、最高の妻だよ」
どこか探るように私を見ていて、でも何も言わない。きっと私が何も言わなかったら、ずっとこのままのはずだ。
「あの……私、みんながせっかく気を使って行き先を黄花の里にしてくれたのわかっているんですけど……」
「うん」
「その、千里ちゃんにはあまり会いたくなくて……」
「もしかして……何かされたとか?」
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「……そのっ……私、このまま、この世界に居たくて……」
その言葉を聞いて子竜さんはちょっとぽかんとした表情になった。眉を寄せてちょっと考えてから、言葉を出した。
「……もちろん、それは居てもらわないと、俺も困るけど、その、人間の女の子がなんだって?」
「……この前に会った時に、手紙を渡されたんです。元の世界に帰る方法があると……もし教えて欲しかったら黄花の里に来るようにと……」
「は?」
子竜さんはさっきよりもっと驚いた顔になった。
「あの……私もこの世界に来た時に、飛鳥さんから聞きました。もう、戻る方法はないとそう聞きました。でも千里ちゃんに会って、そう聞いて……」
「透子ちゃんは、どう思った?」
「……帰りたくないです。ずっと皆の側に居たい。ずっと」
「迷いはないの……ここには人間はほとんどいない、人狼の世界だ。親も、友達だって残してきたんだろう?」
「私はみんなと一緒にいることを選びました。ずっと、一緒に居ます」
「死ぬまで?」
子竜さんはソファに体育座りしている私をそっと抱き上げながら、言った。
「死ぬまで、ずっと居ます。ここに居たいんです……」
子竜さんは何も言わずに抱きしめてくれた。何かを願うかのようにずっと。
「そろそろ、シャワーを浴びて夕食でも行こうか?」
空に夕焼けが混じり出した頃、静かに子竜さんは言った。その目の縁が赤いのも私は見えないフリをして頷いた。
「子竜は?」
広いリビングに顔を出した私にノートパソコンの前で仕事をしていた雄吾さんが振り向いた。
「えっと、プールで別れちゃったので」
そっと、隣に座り込む。雄吾さんは眼鏡を外して、目の間を揉んだ。ディスプレイには数字の羅列だ。いくつかのグラフもあるけど、私には全然理解できない。
「……楽しかったか?」
「はい、放ったらかしにしてごめんなさい」
私はそっと寄り添った。雄吾さんの匂いがして落ち着く。
「……透子は泳ぐの好きだからな……」
「得意ではないですけどね」
「俺よりはマシだろ」
雄吾さんは苦笑して私の髪の毛をくしゃっと混ぜた。
「ふふっ。水泳、教えましょうか?」
「結構だ。水の中で生きていく予定はないんでね」
「……いつか、洪水くるかもしれませんよ」
「その時は透子に助けてもらうから大丈夫だ」
「わかりました。雄吾さんを助けられるように泳ぎをもっと訓練しないといけませんね」
「嫌味か?」
「私はそんなこと言わないです」
雄吾さんは私の髪にキスをするとちょっと笑って言った。
「知ってる。俺の妻はいつも誠実で可愛くて、最高の妻だよ」
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