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特別SS
【リクエストSS】まんまるお月様で風邪をひいた透子ちゃんをみんなが看病する話
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他サイトでの一周年を記念して書いた特別SSです。
【おにくさん様リクエスト】まんまるお月様で風邪をひいた透子ちゃんをみんなが看病する話
リクエストありがとうございました。久しぶりに、この五人書きました。
「はい、あーんして。透子」
スプーンにおかゆを装って食べさせてくれるのは、なんとも機嫌の良さそうな春くんだ。柔らかくなっているお米の咀嚼感だけがあって、料理上手の春くん作なら、美味しいはずなのに、何の味もしない。
食べさせてもらっている私は昨日の夜から体調が悪かったんだけど、朝起きたら熱が出ていた。それに気がついたのは、一緒に寝ていた春くんで急いでお粥を作ってくれて、その後に飲ませてくれる薬も準備済だ。自分も会社に行かなきゃいけない日なのに、遅刻することより私のことを何よりも最優先する彼の事を考えると胸がきゅっとなる。
「春くん、遅刻しちゃうよ?」
喉が痛くてかすれた声でそう言った私に、春くんは素早く軽いキスをする。うつるからダメって言いかけて、その何より愛しそうなものを見るような栗色の瞳を見て何も言えなくなった。
「んー、俺がずっとついていてあげたいけど、今日はどうしても外せない会議があるんだ。雄吾にちゃんと言っておくから、良い子にして寝てて」
そう言って甲斐甲斐しく私に薬を飲ませて、ゆっくりと身体を横にしてくれると目を閉じた私の目の上に、温かくて大きな手を置いて額にキスをした。
「おやすみ、透子。今日はなるべく早く帰るよ」
◇◆◇
なんだか、カタカタとちいさなキーボードの音が聞こえる。きっと、在宅で仕事することの多い雄吾さんが私の部屋で仕事しているんだと思った。うっすらと目を開くと、ベッド脇に置かれたローテーブルにノートパソコンを置いて、大きな体を折り畳むようにして仕事をしている。
その真剣な顔を真正面から見ることは少ない。日中はいつも彼の部屋で読書しながら過ごすことが多いんだけど、家具が置いてある位置関係上、背中を向けて仕事しているからだ。
彼の仕事は一瞬の判断で大きな損失を出すことがわかっていたから、起きたことが気がつかれないように、そっと見つめた。
私の夫の一人である黒髪の彼は、いかにも荒っぽそうな野性味のある外見とは裏腹に、すごく繊細で優しい人だ。特に、私と結婚した後の溺愛振りは私自身も驚いてしまった。
「……透子? 起きていたのか」
ふと目を上げた彼に起きているのを気がつかれて、私は悪戯が見つかった子供のようにくすっと笑った。
「今日もたくさん儲けました?」
彼は私が多分想像もつかない程の金額を毎日動かしているんだろうけれど、私自身は今の生活には何の不満もなく、特に贅沢を好むような性格でもなかったから、何かを買ってもらうこともあまりない。というか、夫の誰かと買い物に行くと、信じられないくらいの量の紙袋を持って帰ってくることになるのだ。贅沢はかなりしていると思うんだけど。
「……まあな、気分はどうだ? りんごを擦ってるけど食べるか?」
横になりながらちいさく頷くと彼は微笑み、部屋にある小型の冷蔵庫から可愛い花柄のお皿を取り出すと、スプーンによそって食べさせてくれようとする。
「雄吾さん、自分で食べられますよ」
そう言った私に眉を上げて意地悪な顔をした。
「たまには良いだろう。透子の世話をするのも、楽しいんだよ」
口を尖らせたままの私にスプーンを向ける。そうして貰っているままには出来なくて私は口を開けるけど、端から蜜が溢れてしまった。何か声を発するよりも早く、雄吾さんは顎についた液体を舐め取り、ゆっくりとそのままキスをした。
「……熱いな。しんどいか?」
こくんと頷いた私を一度抱きしめると、何とも複雑そうな顔で言った。
「ずっと傍に居てやりたいけど、俺は昼から出るから。……もうすこしで凛太が帰ってくる」
そう言って擦ったりんごを最後まで食べさせてくれると、ゆっくり寝かせてくれた。お礼を言おうとしたんだけど、どうにも瞼が重くて、何も言えなくて頬に触れた柔らかな感触だけを感じた。
◇◆◇
目を開くと驚いた。凛太さんの端正な顔が間近にあって、私が目を開いたのを見てとると、嬉しそうに微笑む。
「透子さん、おはようございます。よく眠れましたか?」
その言葉に頷く私に応えるように頷いて、ベッド脇に座っていた彼はちゅっと音をさせてキスをくれた。
人気俳優である私の夫は本当に多忙だ。一度ロケに入ってしまうと、何日も帰らないこともある。それでもかなり無理をして、すこしでも空き時間があるとこの家に帰り、私の傍に居てくれているのは知っていた。短い時間だけでも良いからとそう言って、抱きしめてくれる彼に、無理しなくて良いよって言いたいようで言えない。
「凛太さん……お仕事は?」
彼はこの前クランクインしたばかりの映画の主役を務めていることもあり、最近は顔を見ることも少なくなっていた。それを素直にさみしいと思う。何人もの夫を持つ私だけど、絶対に一人一人を大事にしようと、結婚する時そう決めているから、彼の不在は精神的に堪えていたし、やっぱり恋しくなっていた。
「ちょっとだけ、今日はオフを勝ち取れたので。透子さんの寝顔を見て癒されていました」
そう言って嬉しそうに笑う。彼だってたまに帰ってきた時は、そういうことをしたいはずだ。でも、今体調を崩している私はしてあげられない。それが何だか辛かった。
「ごめんなさい。私風邪引くなんて。せっかく久しぶりに、一緒に居られるのに」
そう残念そうな声で言った私の髪を優しく撫でて触れるだけのキスをくれた。
「これから、ずっと一生一緒なんだから、一日くらいそんな日があっても、大したことじゃありませんよ。それよりも早く治して、今度のオフはいっぱいしましょうね」
いつも彼としていることを考えたら、何を、とも言えない。にっこり笑うその顔はいやらしさの欠片も見えなくて、何だか、それがまた恥ずかしくなってしまう。じっと見つめ合い、またゆっくりとやってきた睡魔に欠伸をしてしまった。
「凛太さん。寝るまで手を繋いでください」
甘えた私の言う通り彼は私の手をとり、手の甲にキスしてくれた。それを見ながら、本当にこの人は絵になると思ってしまう。どの瞬間も写真や映像に残したいと思ってしまう。
そうして、目を合わせて微笑み合う。
◇◆◇
次に目を開けた時、もう、部屋の中が暗い。そうして、近くにいる予想外の人を見て、驚いた。
「子竜さん? どうして?」
赤い髪を持つ私の夫は、このところ会社が多忙を極めているらしく、そしてこの家にまだ一緒に住んでいないので、最近あまり姿を見ることが出来なかった。それをさみしいと思ってしまうけれど、この世界では異端とも言える人間の私が何事もなく守られ、つつがなく日々を過ごすことが出来るのは夫達が働いてそれなりの地位を築いているからだ。それをちゃんと、理解はしていた。
「透子ちゃんが風邪って聞いてね、もう我慢の限界だったし、急ぎの仕事だけ片付けてここに来て、さっき凛太と交代したとこ。気分はどう?」
私が笑顔で大丈夫、と頷くと冷たい水が入ったコップを持ち、上半身を起こすと飲ませてくれた。その喉を通り抜けていく気持ちよさに、飲み終わって思わずはあっと息をついた。
「病床の妻って色っぽいな。襲っても良い?」
冗談めかしたその台詞にすこし本気が混じっていることもなんとなくわかるくらいには、彼のことがわかってきたつもり。
「風邪ってうつしたら治るって本当ですかね?」
疑問に疑問で返した私にふっと笑うと子竜さんはちゅっと音をさせてキスをする。久しぶりに間近で嗅いだ彼の独特な匂いになんだか、嬉しくて胸がいっぱいになる。
「そうか、残念。でも、思ったより元気そうで良かった。熱はもうほとんどなさそうだな」
じっと見つめる赤い目を見て、自分からその大きな体にぎゅっと抱きついた。仕事だから、もちろん仕方ないけど……寂しかった。
「ダメだよ。透子ちゃん。そんな可愛いことすると、狼に襲われるよ」
そう言って私の髪に何度もキスをして、もう一度、寝かしつけた。
「おやすみ、またすぐに君に会いに来るよ」
◇◆◇
カタンと音がして、私は目を開けた。真っ暗な視界の中、ドアの方から廊下の灯りが漏れて誰かが部屋に入ってきたと知れた。
「……透子さん?」
静かに問いかけたその言葉は答えを期待している様子ではないけれど、私は嬉しくなって体を起こす。
「理人さん。おかえりなさい」
私の言葉にすこし驚いた様子の彼はきっちりと着ていたスーツの上着を脱ぎ、片手でネクタイを外した。その何でもない仕草がいかにも色っぽくも見えてしまうのは、彼の顔が信じられないくらい美形なのももちろんあるけれど、幼い頃から注目され、見られ慣れているというのもあるだろう。
「起こしました?」
ベッドに腰掛けると静かに問いかけ、私の頬に右手を当てた。長い指は外気のせいか冷えていて、その手をすこしでも温めてあげたくて、私はその上から手を当てる。
「ううん。今日、ずっと寝てて。もう眠くないんですよ」
そう嘘を言った私に理人さんは何とも言えない顔をした。毎日忙しくしている彼が帰ってきているということは、きっと真夜中だから、かなりの時間を睡眠に費やしたことになるだろう。
「……でも、病み上がりだ。無理はしないで」
そう言いつつ、冷たい唇のキスをくれた彼に甘えるように抱きついた。理人さんはふっと笑うと抱き返してくれて、この温もりを手放したくない。
「もう、寝てるの飽きちゃいました……理人さんはちゃんと一緒にいてくれますよね?」
事情があるにせよ、短い時間で交代して行った他の夫達の顔を思い浮かべて、なんだか切なくなる。もちろん贅沢を言っていることはわかっていた。でもどうしても、皆が好きで、そんな自分の思いを止めることが出来ない。
「僕に甘えてくれるのは嬉しいですね。じゃあ、大丈夫そうなら、一緒に寝ましょうか」
そう言って、やさしく私の喉にキスをした。
【おにくさん様リクエスト】まんまるお月様で風邪をひいた透子ちゃんをみんなが看病する話
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「はい、あーんして。透子」
スプーンにおかゆを装って食べさせてくれるのは、なんとも機嫌の良さそうな春くんだ。柔らかくなっているお米の咀嚼感だけがあって、料理上手の春くん作なら、美味しいはずなのに、何の味もしない。
食べさせてもらっている私は昨日の夜から体調が悪かったんだけど、朝起きたら熱が出ていた。それに気がついたのは、一緒に寝ていた春くんで急いでお粥を作ってくれて、その後に飲ませてくれる薬も準備済だ。自分も会社に行かなきゃいけない日なのに、遅刻することより私のことを何よりも最優先する彼の事を考えると胸がきゅっとなる。
「春くん、遅刻しちゃうよ?」
喉が痛くてかすれた声でそう言った私に、春くんは素早く軽いキスをする。うつるからダメって言いかけて、その何より愛しそうなものを見るような栗色の瞳を見て何も言えなくなった。
「んー、俺がずっとついていてあげたいけど、今日はどうしても外せない会議があるんだ。雄吾にちゃんと言っておくから、良い子にして寝てて」
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「おやすみ、透子。今日はなるべく早く帰るよ」
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なんだか、カタカタとちいさなキーボードの音が聞こえる。きっと、在宅で仕事することの多い雄吾さんが私の部屋で仕事しているんだと思った。うっすらと目を開くと、ベッド脇に置かれたローテーブルにノートパソコンを置いて、大きな体を折り畳むようにして仕事をしている。
その真剣な顔を真正面から見ることは少ない。日中はいつも彼の部屋で読書しながら過ごすことが多いんだけど、家具が置いてある位置関係上、背中を向けて仕事しているからだ。
彼の仕事は一瞬の判断で大きな損失を出すことがわかっていたから、起きたことが気がつかれないように、そっと見つめた。
私の夫の一人である黒髪の彼は、いかにも荒っぽそうな野性味のある外見とは裏腹に、すごく繊細で優しい人だ。特に、私と結婚した後の溺愛振りは私自身も驚いてしまった。
「……透子? 起きていたのか」
ふと目を上げた彼に起きているのを気がつかれて、私は悪戯が見つかった子供のようにくすっと笑った。
「今日もたくさん儲けました?」
彼は私が多分想像もつかない程の金額を毎日動かしているんだろうけれど、私自身は今の生活には何の不満もなく、特に贅沢を好むような性格でもなかったから、何かを買ってもらうこともあまりない。というか、夫の誰かと買い物に行くと、信じられないくらいの量の紙袋を持って帰ってくることになるのだ。贅沢はかなりしていると思うんだけど。
「……まあな、気分はどうだ? りんごを擦ってるけど食べるか?」
横になりながらちいさく頷くと彼は微笑み、部屋にある小型の冷蔵庫から可愛い花柄のお皿を取り出すと、スプーンによそって食べさせてくれようとする。
「雄吾さん、自分で食べられますよ」
そう言った私に眉を上げて意地悪な顔をした。
「たまには良いだろう。透子の世話をするのも、楽しいんだよ」
口を尖らせたままの私にスプーンを向ける。そうして貰っているままには出来なくて私は口を開けるけど、端から蜜が溢れてしまった。何か声を発するよりも早く、雄吾さんは顎についた液体を舐め取り、ゆっくりとそのままキスをした。
「……熱いな。しんどいか?」
こくんと頷いた私を一度抱きしめると、何とも複雑そうな顔で言った。
「ずっと傍に居てやりたいけど、俺は昼から出るから。……もうすこしで凛太が帰ってくる」
そう言って擦ったりんごを最後まで食べさせてくれると、ゆっくり寝かせてくれた。お礼を言おうとしたんだけど、どうにも瞼が重くて、何も言えなくて頬に触れた柔らかな感触だけを感じた。
◇◆◇
目を開くと驚いた。凛太さんの端正な顔が間近にあって、私が目を開いたのを見てとると、嬉しそうに微笑む。
「透子さん、おはようございます。よく眠れましたか?」
その言葉に頷く私に応えるように頷いて、ベッド脇に座っていた彼はちゅっと音をさせてキスをくれた。
人気俳優である私の夫は本当に多忙だ。一度ロケに入ってしまうと、何日も帰らないこともある。それでもかなり無理をして、すこしでも空き時間があるとこの家に帰り、私の傍に居てくれているのは知っていた。短い時間だけでも良いからとそう言って、抱きしめてくれる彼に、無理しなくて良いよって言いたいようで言えない。
「凛太さん……お仕事は?」
彼はこの前クランクインしたばかりの映画の主役を務めていることもあり、最近は顔を見ることも少なくなっていた。それを素直にさみしいと思う。何人もの夫を持つ私だけど、絶対に一人一人を大事にしようと、結婚する時そう決めているから、彼の不在は精神的に堪えていたし、やっぱり恋しくなっていた。
「ちょっとだけ、今日はオフを勝ち取れたので。透子さんの寝顔を見て癒されていました」
そう言って嬉しそうに笑う。彼だってたまに帰ってきた時は、そういうことをしたいはずだ。でも、今体調を崩している私はしてあげられない。それが何だか辛かった。
「ごめんなさい。私風邪引くなんて。せっかく久しぶりに、一緒に居られるのに」
そう残念そうな声で言った私の髪を優しく撫でて触れるだけのキスをくれた。
「これから、ずっと一生一緒なんだから、一日くらいそんな日があっても、大したことじゃありませんよ。それよりも早く治して、今度のオフはいっぱいしましょうね」
いつも彼としていることを考えたら、何を、とも言えない。にっこり笑うその顔はいやらしさの欠片も見えなくて、何だか、それがまた恥ずかしくなってしまう。じっと見つめ合い、またゆっくりとやってきた睡魔に欠伸をしてしまった。
「凛太さん。寝るまで手を繋いでください」
甘えた私の言う通り彼は私の手をとり、手の甲にキスしてくれた。それを見ながら、本当にこの人は絵になると思ってしまう。どの瞬間も写真や映像に残したいと思ってしまう。
そうして、目を合わせて微笑み合う。
◇◆◇
次に目を開けた時、もう、部屋の中が暗い。そうして、近くにいる予想外の人を見て、驚いた。
「子竜さん? どうして?」
赤い髪を持つ私の夫は、このところ会社が多忙を極めているらしく、そしてこの家にまだ一緒に住んでいないので、最近あまり姿を見ることが出来なかった。それをさみしいと思ってしまうけれど、この世界では異端とも言える人間の私が何事もなく守られ、つつがなく日々を過ごすことが出来るのは夫達が働いてそれなりの地位を築いているからだ。それをちゃんと、理解はしていた。
「透子ちゃんが風邪って聞いてね、もう我慢の限界だったし、急ぎの仕事だけ片付けてここに来て、さっき凛太と交代したとこ。気分はどう?」
私が笑顔で大丈夫、と頷くと冷たい水が入ったコップを持ち、上半身を起こすと飲ませてくれた。その喉を通り抜けていく気持ちよさに、飲み終わって思わずはあっと息をついた。
「病床の妻って色っぽいな。襲っても良い?」
冗談めかしたその台詞にすこし本気が混じっていることもなんとなくわかるくらいには、彼のことがわかってきたつもり。
「風邪ってうつしたら治るって本当ですかね?」
疑問に疑問で返した私にふっと笑うと子竜さんはちゅっと音をさせてキスをする。久しぶりに間近で嗅いだ彼の独特な匂いになんだか、嬉しくて胸がいっぱいになる。
「そうか、残念。でも、思ったより元気そうで良かった。熱はもうほとんどなさそうだな」
じっと見つめる赤い目を見て、自分からその大きな体にぎゅっと抱きついた。仕事だから、もちろん仕方ないけど……寂しかった。
「ダメだよ。透子ちゃん。そんな可愛いことすると、狼に襲われるよ」
そう言って私の髪に何度もキスをして、もう一度、寝かしつけた。
「おやすみ、またすぐに君に会いに来るよ」
◇◆◇
カタンと音がして、私は目を開けた。真っ暗な視界の中、ドアの方から廊下の灯りが漏れて誰かが部屋に入ってきたと知れた。
「……透子さん?」
静かに問いかけたその言葉は答えを期待している様子ではないけれど、私は嬉しくなって体を起こす。
「理人さん。おかえりなさい」
私の言葉にすこし驚いた様子の彼はきっちりと着ていたスーツの上着を脱ぎ、片手でネクタイを外した。その何でもない仕草がいかにも色っぽくも見えてしまうのは、彼の顔が信じられないくらい美形なのももちろんあるけれど、幼い頃から注目され、見られ慣れているというのもあるだろう。
「起こしました?」
ベッドに腰掛けると静かに問いかけ、私の頬に右手を当てた。長い指は外気のせいか冷えていて、その手をすこしでも温めてあげたくて、私はその上から手を当てる。
「ううん。今日、ずっと寝てて。もう眠くないんですよ」
そう嘘を言った私に理人さんは何とも言えない顔をした。毎日忙しくしている彼が帰ってきているということは、きっと真夜中だから、かなりの時間を睡眠に費やしたことになるだろう。
「……でも、病み上がりだ。無理はしないで」
そう言いつつ、冷たい唇のキスをくれた彼に甘えるように抱きついた。理人さんはふっと笑うと抱き返してくれて、この温もりを手放したくない。
「もう、寝てるの飽きちゃいました……理人さんはちゃんと一緒にいてくれますよね?」
事情があるにせよ、短い時間で交代して行った他の夫達の顔を思い浮かべて、なんだか切なくなる。もちろん贅沢を言っていることはわかっていた。でもどうしても、皆が好きで、そんな自分の思いを止めることが出来ない。
「僕に甘えてくれるのは嬉しいですね。じゃあ、大丈夫そうなら、一緒に寝ましょうか」
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