まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え~もふもふ人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

待鳥園子

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第二部

001 喪服

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「持って来たはずの、俺の喪服が見つからないんだけど!! 誰か知らない!?」

「探すのは諦めて……急いで買って来いよ。礼服はその辺の店にでも行けばあるだろう」

「ああ。香典に包むための、現金がないな……今から銀行に行って来る」

「後で返すから、俺の分も下ろして来て」

「わかった。香典袋もないな。五人分?」

「ここで見た覚えがない。五つ買ってきてくれ」

「そういえば、透子さん。礼服って、持ってました?」

「わっ……私、持ってないです」

 着の身着のまま、この世界にやって来て、誰かが亡くなったからとお葬式に出席するのはこれで初めてだった。

 喪服なんて今までに一度も着る必要もなかったし、ましてや不謹慎だから、準備するものでもないと言われればそうだった。

 ああ。一人……人が亡くなったんだ。お祖母ちゃんが亡くなった時も、お葬式は大変だった。

 深青の里の長老が亡くなり、夫たちは慌ただしく動き出し通夜へと出席するための準備に忙しい。人狼たちは群れで生活するから、その中での立ち位置それに、目上の存在に対する礼儀作法なども厳格に決められているらしい。

「わかりました。春! お前、礼服買いに行くんだろう。一緒に行って買って来いよ」

「わかったー! 透子、早く行こう。この家には理人も居るのに通夜に遅れることになれば、全員|罰則(ペナルティ)を喰らうから」

 急な知らせが届いてから、ずっと探してたけど見つからなかった礼服を買いに行くことになった春くんは、車の鍵と財布を持って慌てて家を出た。

「わっ……うん! いってきます!」

 私も彼の後に続いて、家を出た。とにかく、五人の夫たちは急いで準備をしていたし、訳がわからないなりに、その勢いに呑まれて私も急がなきゃという思いだけは強かった。

 春くんは既に車に乗り、今にも道路へと出ようとしたところで停車していた。私は助手席に乗って、シートベルトを締めた。

「それじゃあ、行くよー! 透子。自分に合っているサイズだけを見て、店で喪服を買おう。もう悠長に選んでいる時間はないから」

 春くんはそう言ってアクセルを踏み込んだ。近くにある大きなデパートがあるから、そこに行くんだろうと思うけど……。

「わかった……あの、春くん。そんなにも大変な事なの? 長老の人狼が、亡くなってしまうって……」

 私にはこの事態が、いまいち理解出来ない。だって、元居た世界では、身内でもないのに通夜に葬式にと慌てて行く機会もなかった。

「あー……うん。そっか。透子はこういう事が、まだわからないもんな。俺らの世界で言う里という単位は、里長を頂点とするピラミッドなんだけど、今回亡くなった長老は、その上に位置している」

「……そうなの?」

 里長が一番上だと勝手に思っていたけれど、その上が居るなんて。

「そういう人が亡くなるなら、権力の勢力図も変わる。だから、理人もさっき色んな人に電話掛けまくっていただろう? あれって立場上、仕方ない事なんだよ。あいつは有力な深青の里長候補だから、望むと望まないとに関わらず派閥が出来るし……うん。俺らだって同じ妻を持つという事は、あいつを支持することになるからね」

「そうなんだ……」

 理人さんが里長候補とされていて、だからこそ複雑な立場にあるということは知っていたけれど、人狼の社会は色々と大変そうだ。

「んで、通夜と葬式に行って、ある程度どういう流れかを掴んでいる必要もあるし、今回亡くなった長老は深青の里を長い間、自分を盾として守って来てくれていた長老だ。あの人が亡くなれば、立場が苦しくなる面々だって居る。それに、まだ壮年でまさか亡くなるなんて思ってなかったから、予期していない事態だったんだ。理人だって焦っている様子だっただろう?」

 春くんの言う通り、常に沈着冷静な理人さんも珍しく慌てて居る様子だった。それに、会社を経営する子竜さんだって。俳優の凜太さんも春くんが知らせに来てから、すぐどこかへ電話をしていたようだし……スポンサーが関わるお仕事をしているから、当然のことなのかもしれない。

 あの場で一人だけ落ち着いていたのは、そういう権力図に影響されない投資家の雄吾さんだけ。

 市場に流通している株を買うか買わないかを決めるのは、雄吾さん本人だけだから、彼は誰にも影響を受けなくて済むんだ……。

「うん……確かに、そうだった。理人さんがあんな風に動揺しているの見るの初めてで、びっくりしちゃった」

「そう? 俺はついこの前、妹の事件で激怒している姿を見ているけどねー……理人って、普段怒らないから、怒ったらめちゃくちゃ怖いんだよ。もし怒らせたら、俺なんて敵前逃亡選んで、すぐに尻尾巻いちゃうね」

 近くにある店へと辿り着き、春くんはため息をついて車のドアを開けた。夕方から執り行われるという通夜には行かなければならないから、私たちはサイズの合う喪服を手にしてとんぼ返りすることになるだろう。

「ふふっ……けど、理人さんは頼りになるから、私たちは安心ですね」

「まあ、それはそうだけど……俺だって、頼りになるよ。多分だけど、今は親の会社を経営している程度だけどね」

 つい最近働き出した春くんは、これまでは父親の会社を継ぐことを拒否して逃げ回っていたらしい。けれど、私と結婚したことを機に働き始めた……とは、聞いていた。

 助手席にドアを開けて貰い、私は外へと出た。天気は快晴で気持ちの良い空気だった。

「……春くん。会社を経営しているの? すごいね。子竜さんみたいになるの?」

 親の会社に入ることになったと聞くと、まずは新人から仕事を学ぶことになりそうだけど、春くんは留学して飛び級して既に大学院卒の資格まで持っているらしいし……凡人の私なんかとは、頭の出来も違うのかもしれない。

 子竜さんはいくつかの会社を経営していて、大成功を手にしている超多忙な経営者なのだ。彼みたいになるなら、これまでみたいに家でゆっくりご飯を作ったりまったり出来ないかもしれない。

「子竜は成り上がりの経営者だけど、俺は由緒正しき御曹司だよ。父親は何代も続く財閥の後継者。そんな人の一人息子の俺は、現代の王子様みたいなもんだから。透子。育ちが違うんだよ。ほら。隠し切れない気品が滲み出てない?」

 春くんはふわふわの髪に、可愛らしく整った顔。育ちが良いと言えばそうだけど、高貴というより親しみやすさを感じる物腰なのだ。けど、王子様と言われればそうかもしれない。可愛い系だけど。

「……王子様っぽいかも。うん。育ちはすごく、良さそうかも」

「そうでしょうそうでしょう。そう思うと思ってたよ……あ。やばい。時間ないんだった。早く行こう!」

 車から降りて歩き話込んでいた私たちは、慌てて小走りに店内へと入った。
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