ルンルン気分な悪役令嬢、パンをくわえた騎士と曲がり角でぶつかる。

待鳥園子

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07 そうね

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「ええ。婚約者が居なくなった心の空白を埋めるのなら、すぐにここで申し出た方が良いと思いました。寂しいところにつけいる悪い男のように思われるかもしれませんが、陛下の近衛騎士であることが、僕の何よりの身分証明になると思いますが」

「そうね」

 国王陛下の近衛騎士であるということ。上級貴族の血筋でも選ばれし騎士にしか出来ない職業であるし、ここまで言うのならリアムはフォーカード侯爵となるのだろう。

「とは言え、貴女ほどの美しい女性であれば、どんな道でも選べます。無理強いするつもりはありませんが、出来れば今夜決めて頂きたいですね」

「良いわ」

 私は彼の青い目をまっすぐに見て、そう言った。そして、片手を挙げて彼を待った。これは、エスコートして欲しいという意味だ。

 私は公爵令嬢であるからには、貴族以上と結婚する必要がある。

 親に決められた婚約者がいなくなったなら、夜会などで出会いを求め求婚されることを待つことになるけれど……どうしてかしら。リアム以上の男性に出会えないと思ってしまうのは。

「……ありがとうございます」

 リアムはにっこりと微笑み、私の手を取った。

「これから、よろしくお願いします。リアム。もっとも、婚約についてはお父様に認めていただく必要があるけれど」

 娘である貴族令嬢の嫁ぎ先の権限を持っているのは、家長であるお父様だ。

「それは、大丈夫です。スカーレット侯爵との会話は、よく心得ておりますので」

 その時のリアムの真剣な表情を見て、なんだか違和感を覚えたけれど、私が知らないだけで彼とお父様は懇意かもしれない。

「……ねえ。リアム。私たち、今日が初対面よね?」

 振れている彼の大きな手もその熱も、なんだか覚えのあるように思えて、私はなんとなく言った。

「いえ。僕にとってはそうではないのですが、アンジェラ様にとっては……そうなのかもしれません」

 まるで謎かけのような言葉を口にして、リアムはにっこりと微笑んだ。

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