ルンルン気分な悪役令嬢、パンをくわえた騎士と曲がり角でぶつかる。

待鳥園子

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06 身の上

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「ええ。アンジェラ様とて、いずれは貴族や王族に嫁がれるでしょう。その相手は、僕でどうですか。いずれ侯爵となりますし、貴女に苦労はかけません」

 跡継ぎに何かあった時のために育てられた次男(スペア)の出番となる。次男は爵位を継げないけれど、嫡男と同じように育てられる。

 成人になれば家を出て、実業家や騎士として身を立てていくことが一般的だ。

 そういえば、以前フォーカード侯爵の話は私も耳にしたことがあった。病弱な嫡男は一時期体調を持ち直したものの、また体調を悪くしたらしいと。だから、次男に家督を譲る話になっていて……。

 それが、目の前のこの男……近衛騎士リアムだということね。

「そうね……確かに私もこれから、結婚相手を探さなければいけないわ」

 デニス殿下との婚約が破棄になり、正直に言えばせいせいしていた。彼らのあの真実の愛を盛り上げるための悪役令嬢なんて、本当に嫌だったから。

「ですから、それは僕で良いのでは? 身分も釣り合いますし、以前から僕はアンジェラ様の信奉者(ファン)だったんです。ここで勝負をかけるべきかと」

 顔を覗き込むように背をかがめたので、私は思わず一歩後ずさった。

「……リアムが私の信奉者ですって?」

「ええ。王家の集まりに良く来られていたでしょう。僕たちは警備をするために周囲を取り囲んでおりましたので、アンジェラ様を見る機会がございました。彼のことを男性として好きでないのなら、ここで申し込むことが最善かと」

 確かに王太子たるデニス殿下とは、様々な集まりに連れ立って参加したものだ。それはこれからはエリカ様の役目となる……。

 早く彼らと離れたかった。だから、今夜のことも待ちわびていた。

 けれど……やっぱり、心のどこかで寂しい思いは残った。生まれた時から、婚約者として暮らして来たのだ。

 ろくでもない婚約者だと思いながら、それなりに愛着だって湧いていたことは確かだった。

「貴方って、とっても上手いわね。リアム」

 私の気持ちがそうなるだろうとよくよく理解しているというのなら、彼はとても上手い。

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