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06 死んだはずの夫②
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とても楽しめるような事態ではないと楽団も気がついたのか、軽快な音楽は途絶え、ダンスを止めた周囲の貴族たちは息を殺したままだ。
それとも、これから何が起こるのだろうと、内心は期待してこちらを見ているのかもしれない。
……死んだはずの夫が、会ったこともない妻と、今ここで初めて会うのだから。
私へと着々と近付いて来る彼の一挙一投足に、周囲は注目していた。
それも、そのはず。だって、私の夫は……一年前に亡くなってしまったはずだったのに。
「なんだ。こんな……胸を出した下品な格好は……俺の妻なのに!」
すぐ傍にまで来た彼は自分が羽織っていた軍服の上着を歩きながら脱いで、私の肩へと掛けて、前をボタンできっちりと閉めた。
そんな時にも声すら出せず、ボタンを留めた時に、私は初めて自分の夫の顔をしっかりと見た。
切れ長の目は、涼しげな青。軍人というには気品あり、凜として整った容貌。戦場帰りらしく無造作に切られ、頭の後ろでひとつで括られた黒髪。
身嗜みを整えるような余裕などはなかったせいか、近付いた時にムッとするような汗の匂いもしたけれど……私は何故か、それに不快だと感じなかった。
夫アーロンは絵姿は嫌いらしく、家には一枚も残されていなかった。
けれど、アーロンは話に聞いていた通り、鍛えられた肉体を持つ美男子で、不機嫌な怒り表情を見せつつも、生粋の貴族であるせいか、粗野な荒々しさは感じさせない。
ああ。嘘でしょう……私の夫は、生きていたんだ。こうして、戻って来たんだ。
アーロンがこうして目の前に確かに存在しているのだから、わかってはいるけれど、とても信じられなかった。だって、亡くなったと思って一年間を過ごしてきたから、覆された事実がなかなか受け止められない。
アーロン・キーブルクがこの世にはもう居ないという前提で、妻である私は何もかもを進めて来たからだ。
激しい迫力を持つ夫アーロンは、自分の上着を着た私の手をひっつかみ、広い会場を大股で歩き出した。
歩く速度の速い彼に先導されて私はつんのめるようにして、早足で後に続いた。
二人が足早に歩いても、周囲の貴族たちが戸惑う騒めきの大きさは今も増すばかりで、彼の名前を呼び止める声だって、いくつか聞こえてきた。
けれど、アーロンは迷いなくまっすぐに前へ進み、足を止めない。やがて私たちは空気が篭もる会場を抜け、ひんやりとした外気が頬に触れた。
「……そのドレスは、もう二度と着ないでくれ。俺が別のものを用意するから、捨てるように。頼む」
振り返り心底苛立たしい様子で言ったアーロンの言葉に、私は何度も頷くしかなかった。それに何か返事をしようにも、あまりに驚き過ぎてしまって、どうしても声が出なかったのだ。
私はこれまでに、少し無理をしていたのかもしれない。数ヶ月間、深夜に及ぶ書類仕事、夫の弟からの執拗な誘惑、夫の愛人からの訳のわからない要求。
……そして、極め付きは死んだはずの夫の帰還。
「おい……っブランシュ!?」
ふっと意識が遠くなったのを感じ、先ほど会ったばかりの夫の胸に飛び込むことになってしまった。
それとも、これから何が起こるのだろうと、内心は期待してこちらを見ているのかもしれない。
……死んだはずの夫が、会ったこともない妻と、今ここで初めて会うのだから。
私へと着々と近付いて来る彼の一挙一投足に、周囲は注目していた。
それも、そのはず。だって、私の夫は……一年前に亡くなってしまったはずだったのに。
「なんだ。こんな……胸を出した下品な格好は……俺の妻なのに!」
すぐ傍にまで来た彼は自分が羽織っていた軍服の上着を歩きながら脱いで、私の肩へと掛けて、前をボタンできっちりと閉めた。
そんな時にも声すら出せず、ボタンを留めた時に、私は初めて自分の夫の顔をしっかりと見た。
切れ長の目は、涼しげな青。軍人というには気品あり、凜として整った容貌。戦場帰りらしく無造作に切られ、頭の後ろでひとつで括られた黒髪。
身嗜みを整えるような余裕などはなかったせいか、近付いた時にムッとするような汗の匂いもしたけれど……私は何故か、それに不快だと感じなかった。
夫アーロンは絵姿は嫌いらしく、家には一枚も残されていなかった。
けれど、アーロンは話に聞いていた通り、鍛えられた肉体を持つ美男子で、不機嫌な怒り表情を見せつつも、生粋の貴族であるせいか、粗野な荒々しさは感じさせない。
ああ。嘘でしょう……私の夫は、生きていたんだ。こうして、戻って来たんだ。
アーロンがこうして目の前に確かに存在しているのだから、わかってはいるけれど、とても信じられなかった。だって、亡くなったと思って一年間を過ごしてきたから、覆された事実がなかなか受け止められない。
アーロン・キーブルクがこの世にはもう居ないという前提で、妻である私は何もかもを進めて来たからだ。
激しい迫力を持つ夫アーロンは、自分の上着を着た私の手をひっつかみ、広い会場を大股で歩き出した。
歩く速度の速い彼に先導されて私はつんのめるようにして、早足で後に続いた。
二人が足早に歩いても、周囲の貴族たちが戸惑う騒めきの大きさは今も増すばかりで、彼の名前を呼び止める声だって、いくつか聞こえてきた。
けれど、アーロンは迷いなくまっすぐに前へ進み、足を止めない。やがて私たちは空気が篭もる会場を抜け、ひんやりとした外気が頬に触れた。
「……そのドレスは、もう二度と着ないでくれ。俺が別のものを用意するから、捨てるように。頼む」
振り返り心底苛立たしい様子で言ったアーロンの言葉に、私は何度も頷くしかなかった。それに何か返事をしようにも、あまりに驚き過ぎてしまって、どうしても声が出なかったのだ。
私はこれまでに、少し無理をしていたのかもしれない。数ヶ月間、深夜に及ぶ書類仕事、夫の弟からの執拗な誘惑、夫の愛人からの訳のわからない要求。
……そして、極め付きは死んだはずの夫の帰還。
「おい……っブランシュ!?」
ふっと意識が遠くなったのを感じ、先ほど会ったばかりの夫の胸に飛び込むことになってしまった。
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