会えないままな軍神夫からの殺人的な溺愛

待鳥園子

文字の大きさ
14 / 60

14 勘当された弟②

しおりを挟む
「こちらの未亡人は、話が早い。それでは、俺が以前使っていた部屋へと戻ろう……何。喪が明ければ、結婚しても良いらしいからな。半年ほど時を待てば、この邸も美しい妻も、全て俺のものだ!」

 大声で笑いながら去っていくヒルデガードに、使用人たちは一様に怯えた様子を見せていた。

 無理もないわ。亡くなった旦那様の弟が、あんなにまで乱暴な人だったなんて。

「皆、大丈夫よ。いつも通り仕事に戻ってちょうだい。クウェンティン……大丈夫? 私を守ってくれて、ありがとう」

「奥様。ヒルデガードを殺しましょう。旦那様も、そう望まれるはずです」

 そうだ。夫のアーロンが死なずにここに居れば、きっと私を守ってくれただろうか。

 私は実家で母の亡くなった後だって、何度も何度もそう思った。

 ……母が生きていてさえくれれば、私はこんなことにはならなかったのではないかと。

 けれど、亡くなった人はどんなに強く望んでも、もう戻ってこないと、私は思い知っていた。

 どんな苦境に陥ったとしても、自分でなんとかするしかないのだと。

「とは言っても、アーロン様は今は居ないのよ。落ち着きなさい。ヒルデガード様は勘当されたとは言え、貴族の一員。そんなことをすれば、クウェンティンが罪に問われてしまうわ」

 静かに首を横に振った私に、クウェンティンは悔しそうに呟いた。

「奥様……」

「私を守るためとは言え、今後、ヒルデガード様に逆らっては駄目よ。クウェンティン。アーロン様の亡き今、彼は一番にキーブルグ侯爵家の血を濃く引いているお方。嫁いでから会いもしていない兄の妻の私などより、よっぽど爵位を継ぐのに相応しいわ」

 未亡人とは言え、私はアーロンと会ってさえもいない。

 たとえ、夫の遺言状があろうが、侯爵家を受け継ぐ正当な爵位後継者が帰って来たとなれば話は別だろう。

「ですが、奥様。それでは、アーロン様のご意向に逆らうことになります……」

 私に向け必死で言い募るクウェンティンは、亡くなった主人アーロンに変わらぬ忠義を捧げているようだ。

 きっと、亡くなったアーロンのことを尊敬し、人として愛してもいるのだろう。

 居ない今もそうしてしまう程に、夫は素敵な男性だったのだろう。

「クウェンティン……嫁いで来た私によくしてくれて、貴方にはとても、感謝しているわ。けれど、こうなってしまったからには、喪が明ければ私はキーブルグ侯爵家を出ていくわ。だから、ここに残ることになるクウェンティンはヒルデガード様には逆らわない方が良いと思うの」

「奥様……それは」

「さっきクウェンティンも言った通り、喪が明ければ、私は他の誰かと再婚することも出来る。そうした方が……良いと思うの」

 これは、今思いついたことでもなく、できればこうした方が良いだろうとこれまでも思っていた。

 ……白い結婚の未亡人など、生き馬の目を抜くような世知辛い貴族社会の中で、誰が認めてくれるだろうか。

 だから、キーブルグ侯爵家の正当な血筋を受け継ぐ弟、ヒルデガードが帰って来たのであれば、彼に全てを託すことが一番に丸く収まる方法なのだわ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

半世紀の契約

篠原皐月
恋愛
 それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。  一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

処理中です...