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32 居場所②
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「悪い。もうひとつだけ、確認だけさせてくれ。それをしでかしたのは、先日追い出した、あの二人ではないよな?」
アーロンは、大きな勘違いをしていたようだ。私は苦笑して首を横に振った。
「ええ。これは、ヒルデガードとサマンサがしたことではありません」
浪費癖のある放蕩者ヒルデガードが、妻にしようとしていた私に手を挙げるなんてこれまでに一切なかったし、サマンサは自分が贅沢な生活さえ出来ていれば、何の文句もないようだった。
「そうか……それでは、お茶を飲もう」
アーロンはそれ以来、私の怪我には触れず、陛下より勝利を祝し多くの褒賞を賜った話などを話してくれた。
自らを死んだことにして危機感を抱いた他の貴族たちからも援軍を集め、三倍もの軍勢に打ち勝ったのだから、王家直轄地であった広い領地を褒美として与えられたり、莫大な報奨金なども受け取ったらしい。
国を守ったアーロンが今回の戦いで成し遂げたことを考えれば、それでも安いものなのかもしれない。
私の方だって彼に、どうしても聞きたいことがあった。けれど、お茶を飲んでいる間、ずっと勇気は出なかった。
……どうして、私を妻に望んでくれたの? と。
母が亡くなって義母が来たら、私はほぼ外出せずに、使用人のような暮らしをしていた。
アーロンから見初められる可能性なんて、ほぼないと言って良い。
何を期待しているのだろう……一目惚れ? 私のことが好きだから?
そんなことが、あるはずもない。だって、私たちは会ったこともないのに。
こんなにも優しく見えるアーロンだって、私を利用したいと考えていると知るのが怖いから?
……わからない。心の中を渦巻くモヤモヤを解決するには、彼に直接聞くしかない。
私は夫とのお茶を終えて部屋に戻ろうとしたけれど、やっぱり彼に聞こうと思い直し、部屋へ戻る廊下を引き返した。
「……奥様に全て、お話しするべきでは?」
「ブランシュからの希望でなければ、俺は動けない」
テラスにはアーロンとクウェンティンの二人が残り、何か話しているようだ。クウェンティン以外人払いをしているのか、その他の使用人たちの姿は見えない。
「我が邸の来客リスト、ブランシュの先ほどの不自然な沈黙、俺には知られてはいけないと強く思うならば、十中八九あんな大怪我になるほどに手を鞭で打ったのはエタンセル伯爵夫人だろう」
「何故ですか。キーブルグ侯爵家として、厳重に抗議すべき事案です。我が家の奥様が他の貴族に鞭で打たれるなど、あってはならないことではないですか」
「お前はそういう……心の機微がわかっていない。ブランシュと俺との縁談に対し、金銭を条件としたのもエタンセル伯爵夫人だろう。血の繋がらないブランシュを気に入らないとしても、そこまでするなどと思ってもみなかった」
「奥様はエタンセル伯爵邸で、エタンセル伯爵夫人より、虐待を受けていたと……?」
私は二人の会話をそこまで聞いて、部屋へと戻った。
アーロンは優秀な軍人だ。戦況を見て最善の策を練り、それを部下に指示し自軍を勝利へと導く。生涯不敗を誇る、血煙の軍神。
そんな彼にしてみれば、私が実家でどんな目に遭っていたかを推理することなんて、簡単なことだった。
けれど、私は家族に虐待されていたということを、彼に知られたことに大きな衝撃を感じていた。
自分が思っていた女と違っていたと、離婚されてしまうかもしれない。
アーロンに……離婚されてしまえば、どうしたら良いの。
私はもう何処にも行く場所なんて、ないのに。
アーロンは、大きな勘違いをしていたようだ。私は苦笑して首を横に振った。
「ええ。これは、ヒルデガードとサマンサがしたことではありません」
浪費癖のある放蕩者ヒルデガードが、妻にしようとしていた私に手を挙げるなんてこれまでに一切なかったし、サマンサは自分が贅沢な生活さえ出来ていれば、何の文句もないようだった。
「そうか……それでは、お茶を飲もう」
アーロンはそれ以来、私の怪我には触れず、陛下より勝利を祝し多くの褒賞を賜った話などを話してくれた。
自らを死んだことにして危機感を抱いた他の貴族たちからも援軍を集め、三倍もの軍勢に打ち勝ったのだから、王家直轄地であった広い領地を褒美として与えられたり、莫大な報奨金なども受け取ったらしい。
国を守ったアーロンが今回の戦いで成し遂げたことを考えれば、それでも安いものなのかもしれない。
私の方だって彼に、どうしても聞きたいことがあった。けれど、お茶を飲んでいる間、ずっと勇気は出なかった。
……どうして、私を妻に望んでくれたの? と。
母が亡くなって義母が来たら、私はほぼ外出せずに、使用人のような暮らしをしていた。
アーロンから見初められる可能性なんて、ほぼないと言って良い。
何を期待しているのだろう……一目惚れ? 私のことが好きだから?
そんなことが、あるはずもない。だって、私たちは会ったこともないのに。
こんなにも優しく見えるアーロンだって、私を利用したいと考えていると知るのが怖いから?
……わからない。心の中を渦巻くモヤモヤを解決するには、彼に直接聞くしかない。
私は夫とのお茶を終えて部屋に戻ろうとしたけれど、やっぱり彼に聞こうと思い直し、部屋へ戻る廊下を引き返した。
「……奥様に全て、お話しするべきでは?」
「ブランシュからの希望でなければ、俺は動けない」
テラスにはアーロンとクウェンティンの二人が残り、何か話しているようだ。クウェンティン以外人払いをしているのか、その他の使用人たちの姿は見えない。
「我が邸の来客リスト、ブランシュの先ほどの不自然な沈黙、俺には知られてはいけないと強く思うならば、十中八九あんな大怪我になるほどに手を鞭で打ったのはエタンセル伯爵夫人だろう」
「何故ですか。キーブルグ侯爵家として、厳重に抗議すべき事案です。我が家の奥様が他の貴族に鞭で打たれるなど、あってはならないことではないですか」
「お前はそういう……心の機微がわかっていない。ブランシュと俺との縁談に対し、金銭を条件としたのもエタンセル伯爵夫人だろう。血の繋がらないブランシュを気に入らないとしても、そこまでするなどと思ってもみなかった」
「奥様はエタンセル伯爵邸で、エタンセル伯爵夫人より、虐待を受けていたと……?」
私は二人の会話をそこまで聞いて、部屋へと戻った。
アーロンは優秀な軍人だ。戦況を見て最善の策を練り、それを部下に指示し自軍を勝利へと導く。生涯不敗を誇る、血煙の軍神。
そんな彼にしてみれば、私が実家でどんな目に遭っていたかを推理することなんて、簡単なことだった。
けれど、私は家族に虐待されていたということを、彼に知られたことに大きな衝撃を感じていた。
自分が思っていた女と違っていたと、離婚されてしまうかもしれない。
アーロンに……離婚されてしまえば、どうしたら良いの。
私はもう何処にも行く場所なんて、ないのに。
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