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34 青いドレス②
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◇◆◇
城の大広間は、光に満ちていて、眩しく美しい。色とりどりのドレスが会場を舞い、あちこちで楽しそうな会話の切れはしが聞こえていた。
馬車で共にやって来たアーロンは、戦勝を祝う夜会の主役となるので、壇上で王より紹介され集まった貴族たちに挨拶もしたりするらしい。
私はここで待つようにとアーロンに言われた場所で、一人シャンパングラスを片手に彼が戻るのを待っていた。
「……お義姉様?」
「ああ……ハンナ。今夜も、可愛らしいわね」
そこには義妹のハンナが居て、私を驚きの表情で見つめていた。
「……お義姉様……肌もすっかり良くなって、良かったですね」
義母が化粧品を取り上げ、私の肌を故意に荒れさせたことを、この子だって知っているだろうに……けれど、今更何の嫌味を言われても、特に響くこともない。
アーロンが生きて傍に居てくれるなら、ハンナも義母だって、彼の妻の私にはどうしたとしても手出し出来ないからだ。
「ええ。ハンナだって求婚者が列を成して、大変なのではない? 私に構わず、踊ってきたら良いわ」
彼女から早く解放されたい一心で私がそう言うとハンナは顔を青くして、不機嫌そうに眉を寄せた。
「お義姉様……私について、誰かに……何か言いませんでした?」
「ハンナのことを? ……いいえ。知っているでしょう。私はあまり交流する人も少ないから、貴女のことを話題にするなんて……」
「ですがっ……」
「ブランシュ。待たせたな……こちらは?」
そこには、壇上から戻って来た様子のアーロンだ。ハンナと話している間に、挨拶が終わってしまったらしい。
せっかくの夫の晴れ姿を、見逃してしまった。
「……ブランシュお義姉様の、夫ですって?」
信じられないと言わんばかりのハンナは、わなわなと唇を震わせていた。
「ああ……ブランシュに、血の繋がらない義理の妹が居ることは聞いていた。初めまして。俺はアーロン・キーブルクだ。敵を騙すための作戦で、妻のブランシュには苦労をかけてしまったが、これからは何の心配することもないので、よろしく頼む」
大きな手を差し出し堂々と挨拶をしたアーロンに、ハンナは眉を寄せて気に入らない表情を浮かべながら、スカートを摘んでカーテシーをした。
「ハンナ・エタンセルです。素晴らしい将軍閣下と縁続きになれて、嬉しいです。ご夫婦のお邪魔になるといけませんので、私はこれで失礼します」
そうすげなく言い放つと、ハンナはアーロンの反応を待つことなく、さっさと去って行った。
「……アーロン。ごめんなさい」
彼からの握手を拒否し、カーテシーのみで去っていった義妹は、アーロンが死ぬ気で国を守ってくれなければ、自分がどうなっていたのか、知っているのだろうか。
「それは、ブランシュが、謝ることではない。気にするな。この程度で気分を害する人間だと、良くない誤解をされても困る。しかし、あの性格では……いろいろと、難しそうだ」
大人の対応で苦笑したアーロンに、義理の妹の失礼な態度を擁護することも出来ず、私は曖昧に笑うしかなかった。
城の大広間は、光に満ちていて、眩しく美しい。色とりどりのドレスが会場を舞い、あちこちで楽しそうな会話の切れはしが聞こえていた。
馬車で共にやって来たアーロンは、戦勝を祝う夜会の主役となるので、壇上で王より紹介され集まった貴族たちに挨拶もしたりするらしい。
私はここで待つようにとアーロンに言われた場所で、一人シャンパングラスを片手に彼が戻るのを待っていた。
「……お義姉様?」
「ああ……ハンナ。今夜も、可愛らしいわね」
そこには義妹のハンナが居て、私を驚きの表情で見つめていた。
「……お義姉様……肌もすっかり良くなって、良かったですね」
義母が化粧品を取り上げ、私の肌を故意に荒れさせたことを、この子だって知っているだろうに……けれど、今更何の嫌味を言われても、特に響くこともない。
アーロンが生きて傍に居てくれるなら、ハンナも義母だって、彼の妻の私にはどうしたとしても手出し出来ないからだ。
「ええ。ハンナだって求婚者が列を成して、大変なのではない? 私に構わず、踊ってきたら良いわ」
彼女から早く解放されたい一心で私がそう言うとハンナは顔を青くして、不機嫌そうに眉を寄せた。
「お義姉様……私について、誰かに……何か言いませんでした?」
「ハンナのことを? ……いいえ。知っているでしょう。私はあまり交流する人も少ないから、貴女のことを話題にするなんて……」
「ですがっ……」
「ブランシュ。待たせたな……こちらは?」
そこには、壇上から戻って来た様子のアーロンだ。ハンナと話している間に、挨拶が終わってしまったらしい。
せっかくの夫の晴れ姿を、見逃してしまった。
「……ブランシュお義姉様の、夫ですって?」
信じられないと言わんばかりのハンナは、わなわなと唇を震わせていた。
「ああ……ブランシュに、血の繋がらない義理の妹が居ることは聞いていた。初めまして。俺はアーロン・キーブルクだ。敵を騙すための作戦で、妻のブランシュには苦労をかけてしまったが、これからは何の心配することもないので、よろしく頼む」
大きな手を差し出し堂々と挨拶をしたアーロンに、ハンナは眉を寄せて気に入らない表情を浮かべながら、スカートを摘んでカーテシーをした。
「ハンナ・エタンセルです。素晴らしい将軍閣下と縁続きになれて、嬉しいです。ご夫婦のお邪魔になるといけませんので、私はこれで失礼します」
そうすげなく言い放つと、ハンナはアーロンの反応を待つことなく、さっさと去って行った。
「……アーロン。ごめんなさい」
彼からの握手を拒否し、カーテシーのみで去っていった義妹は、アーロンが死ぬ気で国を守ってくれなければ、自分がどうなっていたのか、知っているのだろうか。
「それは、ブランシュが、謝ることではない。気にするな。この程度で気分を害する人間だと、良くない誤解をされても困る。しかし、あの性格では……いろいろと、難しそうだ」
大人の対応で苦笑したアーロンに、義理の妹の失礼な態度を擁護することも出来ず、私は曖昧に笑うしかなかった。
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