49 / 60
49 町歩き①
しおりを挟む
翌日は少しだけ風邪気味だったけれど、私はすぐに体調を治すことが出来た。
アーロンが呼んでくれたという若い医者が朝から往診してくれていたし、高価な薬だって今は飲むことが出来た。
エタンセル伯爵家では、風邪をひいたとしも、私はただベッドで眠るしか出来なかった。それを思えば、今は夢のような生活を送れていた。
翌日、朝食を取りに来たアーロンと対面する際に、私は少しだけ緊張していた。
だって、私は大きな勘違いをしていた。アーロンは私を知っていたし、私と結婚するために将軍になったと聞いた。
既に誤解は解けていて……彼が私のことを曇りなく好きでいてくれることは、わかっていた。
「おはよう。ブランシュ。身体は、もう大丈夫なのか?」
いつもと変わらない様子でそう聞かれたので、先に席についていた私は彼の問いに慌てて頷いた。
「……ええ。ありがとう。アーロンの呼んでくれたお医者様が処方してくれたお薬が良かったのね」
風邪をひいた時に、こんなにも早く回復したのは初めてだった。
「あれは、キーブルグ家にゆかりのある家の医者なんだ。口は悪いけど、腕は確かだっただろう?」
なんでも、私を見てくれた医者の彼は、元々は先祖に仕えていた従軍医の家系らしい。アーロンとは旧知の仲でそんな関係だというのに、全く遠慮しないのだとか。
アーロンから話を聞きながら朝食を取っていると、私は彼が軍服を着ていないことに今更気がついた。
これまで夫は、戦後処理などが大変で、日中は城で仕事をすることが多かったのだ。
「あの……アーロン。もしかして、今日は休日ですか?」
私がそう聞くと、アーロンは苦笑して頷いた。私は彼が登城すると思い込んでいたし、それを彼も悟ったのだろう。
「そうだ。帰って来てからというもの、仕事が終わらずに留守がちになり、すまなかった。夫婦らしいことも出来ずに、誤解を生んでも仕方なかった」
「いえ。そんな……アーロンは、大事な役目があるもの。忙しかったというのも、仕方がないわ」
「それで、ブランシュ。今日は俺と町歩きしてくれないか」
少々緊張した様子でアーロンは切り出し、私は驚いた。
「まあ……町歩きを?」
そういえば、私たちは会えないままの結婚式から一年、夜会には一緒に出たことはあるけれど、町歩きなんて一度もしたことはなかった。
だからこそ、この提案を聞いて喜んだ。
「絶対に楽しませる。ブランシュは家で仕事ばかりをしていたそうだから、買い物だってなんだって楽しめば良いんだ」
「私は奥様の要求を最優先にするように、旦那様から事前にご命令を受けておりましたので」
その時に傍に居たクウェンティンをチラリと睨み付けたので、優秀な執事は肩を竦めた。
アーロンが呼んでくれたという若い医者が朝から往診してくれていたし、高価な薬だって今は飲むことが出来た。
エタンセル伯爵家では、風邪をひいたとしも、私はただベッドで眠るしか出来なかった。それを思えば、今は夢のような生活を送れていた。
翌日、朝食を取りに来たアーロンと対面する際に、私は少しだけ緊張していた。
だって、私は大きな勘違いをしていた。アーロンは私を知っていたし、私と結婚するために将軍になったと聞いた。
既に誤解は解けていて……彼が私のことを曇りなく好きでいてくれることは、わかっていた。
「おはよう。ブランシュ。身体は、もう大丈夫なのか?」
いつもと変わらない様子でそう聞かれたので、先に席についていた私は彼の問いに慌てて頷いた。
「……ええ。ありがとう。アーロンの呼んでくれたお医者様が処方してくれたお薬が良かったのね」
風邪をひいた時に、こんなにも早く回復したのは初めてだった。
「あれは、キーブルグ家にゆかりのある家の医者なんだ。口は悪いけど、腕は確かだっただろう?」
なんでも、私を見てくれた医者の彼は、元々は先祖に仕えていた従軍医の家系らしい。アーロンとは旧知の仲でそんな関係だというのに、全く遠慮しないのだとか。
アーロンから話を聞きながら朝食を取っていると、私は彼が軍服を着ていないことに今更気がついた。
これまで夫は、戦後処理などが大変で、日中は城で仕事をすることが多かったのだ。
「あの……アーロン。もしかして、今日は休日ですか?」
私がそう聞くと、アーロンは苦笑して頷いた。私は彼が登城すると思い込んでいたし、それを彼も悟ったのだろう。
「そうだ。帰って来てからというもの、仕事が終わらずに留守がちになり、すまなかった。夫婦らしいことも出来ずに、誤解を生んでも仕方なかった」
「いえ。そんな……アーロンは、大事な役目があるもの。忙しかったというのも、仕方がないわ」
「それで、ブランシュ。今日は俺と町歩きしてくれないか」
少々緊張した様子でアーロンは切り出し、私は驚いた。
「まあ……町歩きを?」
そういえば、私たちは会えないままの結婚式から一年、夜会には一緒に出たことはあるけれど、町歩きなんて一度もしたことはなかった。
だからこそ、この提案を聞いて喜んだ。
「絶対に楽しませる。ブランシュは家で仕事ばかりをしていたそうだから、買い物だってなんだって楽しめば良いんだ」
「私は奥様の要求を最優先にするように、旦那様から事前にご命令を受けておりましたので」
その時に傍に居たクウェンティンをチラリと睨み付けたので、優秀な執事は肩を竦めた。
230
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
半世紀の契約
篠原皐月
恋愛
それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。
一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる