花は風と共に散る【美醜逆転】

本編

秘訣

寮の図書室でこれから読む本を探していた時、高いところの本を取ろうとしてすぐ後ろの大きな手が取ってくれた。
「ヴィンセントさん」
「…こういうのが好きなのか」
じっと私の取ろうとした本の背表紙を見る。高潔な騎士と姫君の王道恋物語だ。私はちょっと顔が熱くなった。
「そ、そうです。騎士は憧れですから」
「…こういう騎士なら白龍にたくさん居ると思うが」
え、ぜんぜん違う。
「えっと、私は黒竜騎士団の方が」
想像がはかどります。

「…君はもしかして目が悪いのか」
視力はすごく良いです。本当に不思議そうに聞いてくるのやめてください。
「眼鏡屋なら良いところを紹介しよう」
「目はすごく良いので必要ありませんから」
ちょっと拗ねた顔をした。この人もこの前に言ったことをぜんぜん信じてくれてない。

「…眼鏡、取っても良いですか？」
私は思い付いて驚き顔のヴィンセントさんからパッと眼鏡を取った。眼鏡姿が見慣れているからちょっと物足りないけど涼やかな美形だ。
「もう、見えなかったりします？」
「…いや、でもぼやけているな」
「見えるまで近づいてもらって良いですか？」
握りこぶしくらいの距離までヴィンセントさんは近づいた。薄目をしているからかなり視力は悪いんだろう。

ちゅ、と近づいた唇にキスをした。
驚いてのけぞるヴィンセントさんにすこし満足する。
「ビックリしました？」
「…そうだな、だが…」
言いにくそうに口に手を当てる。顔が赤くなっている。
「どうかしました？」
「いや、嬉しかった。ありがとう」
「どうもいたしまして」

「この本は借りていくのか？」
「そうですね。部屋でゆっくり読もうと思います」
隣り合って歩きながら頷く。
ヴィンセントさんはすごく背が高い。長身のノアさんよりまだ高いんじゃないだろうか。体の厚みはノアさんの方がゴツいけどね。職務がぜんぜん違うものね。

「…読んだらその後に読ませてもらって良いか？」
「良いですよ？」
ヴィンセントさんが小脇に抱えている本はどうも私が5分で寝そうな難しそうな本ばかりだ。こんな恋愛小説読んだりするんだな。

「敵を知るのが勝利の秘訣だからな」
突然変なことを言ってクールな表情を崩して笑った。あ、すごく可愛くなるんだなぁ、と私は見惚れてしまった。