花は風と共に散る【美醜逆転】

本編

火花

「…私に何か御用ですか？」
「いやね、そんなに警戒しないで。悪い話じゃないのよ…あなたにとってね」
ぽってりとした唇が弧を描く。私はそれを見てなんだかぞっとした。
「フィースとイアンと別れて頂戴。お金だったら一生遊んで暮らせるくらい差し上げるわ」
「嫌です」
「あら、どこまでその強情さが貫けるかしら。楽しみね」

「フィースとイアンはこのことを知っているんですか？」
「いいえ？でも関係ないわ。だってあの子達は貴族の息子、家の駒となる存在なのよ。…たとえ顔があんなのでもね、貴方もお金が欲しいんでしょう？だったら沢山あげるから目的は達しているんじゃないかしら」
「お金目当てなんかじゃありません」
私はその顔を強く見つめた。冗談じゃない。なんでそんなもののためにあの2人を諦められるんだろう。こんなに、大好きなのに。
「そう、交渉は決裂ということね。とっても残念だわ」
言葉とは裏腹にさして残念でもなさそうにクレアさんは言った。この人は多分、私のことを同じ人間だと認識していない。

「…御用が済んだのならもう構いませんよね？失礼します」
私が立ち上がろうとするのをクレアさんは片手で止めた。
「話を蹴ったことを後悔することになるわ。ガードルートさん」
「それを決めるのは私ですよね？」
「いいえ、私よ」
獲物を見るような大きな緑色の目に身がすくみそうになる。絶対負けたくない。

「ノエルさんを交渉材料にしないんですね」
「あらあ、ノエルのことも知っているのね、そうよ、可哀想な娘、フィースとイアンに似てしまって可哀想に。上の2人はまともなのにね？」
ケタケタと笑いながらクレアさんは言った。
「どうしてですか。私がお金なんかで動くと思いましたか」
「平民だもの、お金を持ってないし、人間皆お金が好きでしょう？こんなに説得が難しいとは思わなかったわ」
「ノエルさんに何をしたんですか」
興が削がれたように黙り込む彼女の次の言葉を待った。
「…20歳上の公爵のところの後妻に入ってもらうことにしたわぁ。あんな顔でも若いって得よね？」
それをフィースは私に隠してたんだ。どうして。

「どうしてそんな、バーンスタイン家は十分な財力と権力を持っているんじゃないんでうか」
「知らないと思うから教えてあげるわ、ガードルードさん財力も権力も持ってしまうともっと欲しくなっちゃうの。…ノエルには悪いけど、公爵の持つ権力は魅力的だわ」
私は、力を入れて彼女から目を逸らさないようにした。こんな女の前で絶対に涙なんか見せるものか。