花は風と共に散る【美醜逆転】

本編

その日の夜

寮にまで辿り着き、ミッキー君がある扉を開いて、私を招き寄せた。私は入った扉のすぐそばにいた人に飛びついた。
「ヴィンセントさんっ」
「ガードルート」
高い背を折るようにして、私をぎゅっと抱きしめてくれる。
「心配した。良かった」
「…うっううっ、ふうっ」
私は一度止まっていた涙が堰を切ったかのように流れ出てくるのを感じた。
私を一度抱き上げて、ソファに座り毛布で包むようにするとまた抱きしめてくれた。
「…ミッキー、報告を」
「…潜入はうまくいきました。部屋の外に居た見張り数名は眠らせて縛っています。第3王子レオンハルトはどうやら事には関わっていなかったようです。が…部屋にあった水差しには媚薬が仕込まれていました。無理にでも2人をくっつけようとする勢力があるのは間違いないかと」

「…大体は予想がつくが…王がこの企みに乗っていないことを祈るのみだな。…ガードルートはほとぼりが冷めるまで仕事を休ませよう。リプリも今回の件では何も言わないだろう…向こうに全面的に非があるからな。出来るだけ非番の者が傍に着くこと。良いな」
「イアンとノアさんにも伝えておきます」
フィースの声だ。私はヴィンセントさんの胸から顔を上げた。
「フィース…」
「ガードルート、イアンとノアさんは今は夜勤だけど、君のことを1番に考えているよ。下手に休んでも向こうに勘繰られるから今は我慢して仕事してもらっているんだ。僕もすごい心配した」
「フィース、ありがとう」
えぐえぐと嗚咽をこぼしながら、私は頷いた。どんなに心配をかけただろう？あんなに不安そうだったのに。
「とりあえず、今夜は私が預かろう。2人ともまた明日集まってくれ」
ミッキー君とフィースは代わる代わる私にキスすると部屋を出て行った。

「ガードルート、落ち着いたか？」
「はい、ごめんなさい」
涙を流し切ってしまうとなんだか恥ずかしさがこみ上げてきた。トントンと背中を叩いてくれていたそのままに眠りそうになる。
「ガードルート、おいで。寝巻きに着替えよう」
ヴィンセントさんは涙で濡れた私の顔をあったかい湯を絞った布巾で拭いたりワンピースを脱がせてくれたり甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
「あの、ありがとうございます」
「…礼は言わなくて良い。今日はもう寝よう。大変だったな」
「はい…あの、」
「なんだ？」
「大好きです。ヴィンセントさん、ありがとうございます」
「…急だな。どうした？」
「だって、不安にさせたかと思って」
「…確かに不安かもしれないが、私は君を信じてる」
「…ありがとうございます」
「愛してるよ、ガードルート。君がいる限りずっとだ」