顔だけじゃあ駄目ですか?〜バックヤードの恋

ハル

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第二話

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医務室に着くと、ベッドに咲ちゃんを降ろした。咲ちゃんは眼を閉じたままだ。

夜中なので勤務医の先生も誰もいない。

道夫はベッドの横に立っているだけで"ドキドキ"してきた。

頭の中では、天使と悪魔が交互にささやきかける。

悪魔が、「チャンスだ、彼女の唇にキスをしろ!」道夫は首を横に振る。

天使が、「彼女は仕事中に倒れて落ち込んでるはずだ、優しく声をかけて励ましてやれ!」

道夫は、天使と悪魔のささやきにまた首を横に振り、中途半端に、咲ちゃんの手を握った。

今の道夫には、これが精一杯だった。

さもすると、走って来る足音が聞こえたので、道夫は慌てて手を引っ込めた。

ドアが開き、山Pが入って来た。

「先生も居ないので、今から夜間診療の病院に連れて行くから、後の作業、サンドにお願いしていいかな?」

「…あ、はい。」

山Pが通勤で使っている車で、咲ちゃんを病院へ連れて行った。 残った道夫は、最初心ここに在らずで、作業が止まっていたがバイトの後輩からの一言で俄然がぜんやる気が出た。

「青木さんの作業場所どうすんですか?」

「そ、それは…聞いてないなぁ?…俺がやるよ、山Pに頼まれてるから…」

道夫は、山Pに任されたのは本当だけど、そこまで考えて無かったが、今度咲ちゃんにあった時に、後の作業を代わりにやった事で好感度を上げる事を思い付いたのだ。

3時間後、山Pが一人戻ってきた。
診察後、咲ちゃんを家に送って帰って来たのである。

「サンド、ありがとうね。」

「青木さん、どうでした?」

「貧血みたいやね、乙女は食事をちゃんと取らないから」

道夫は、口を開けたまま、恋する乙女って?誰に恋してるんやろう。

山Pに、「青木さん、恋してるんですか?」と道夫は思わず聞いてしまった。

山Pは、笑いながら
「女子がご飯食べられへんいう時は、好きな男ができたか、振られた時やろ!」

道夫は複雑な気持ちになったが、「そうですよね、どちらかですよね…」と、その場を取り繕い自分の作業場所へ戻った。

作業終わりの終礼で山Pが、今日の事を皆んなに話し始めた。

「みんな、今日はありがとう。
青木は病院で診てもらって、問題無かったが、今日は大事を取って、休んでもらった。
みんなも、体調管理をしっかりして、食事もしっかりとって下さい。 以上!」

山Pの話も終わり、皆んな更衣室へと歩いて行った。

道夫はさっき聞いた山Pの言葉が気になっていたので山Pの方を見ると、山Pもこっちを見ていた。

「どうしたの?」

「……。」

「…こ…こ、恋する女の人の事を教えて欲しくて…」

すると道夫の耳元で「い…い…わ…よ」と山Pは、からかう様に言うと、手帳からシフト表を取り出して、明後日あさって休みが同じだから、ご飯でも行こうか?と誘われた。

道夫は結局、自分から誘われるような言葉を掛けた事に、"しまった"と思ったが後の祭りである。
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