顔だけじゃあ駄目ですか？〜バックヤードの恋

第五話

道夫はこの日も、＂恋する乙女＂の結末がどうなったのか？、悶々もんもんとする毎日が続いていて、頭が変になりそうだ。

山Ｐが言っていた、咲ちゃんの相手は誰なのか？　勿論自分でない事は確かだ、僕が振った覚えも、咲ちゃんから振られた覚えも無い。それ以前にまともに会話すらした事が無い。

咲ちゃんは社員なので、昼間の勤務が中心で、夜は月に数回しか入って無いので、昼間仲良くしている人の事を道夫は知らないでいた。それもあるので山Ｐから何か情報を得る事が出来ると思って、誘いに応じた。

その山Ｐが先日の約束の件で、一人で作業している所に話し掛けてきた。
今日の作業場所が、いつもしない端を担当させられたのも、この為かと後になってわかった。

「明日さぁ、リベンジする？　それかぁ、あんたんちで、家飲みでもいいよ。そしたら酔い潰れても送る心配無いし？」

「え、え～…」思わず声が出てしまった。

「話し聞くの、お茶とかじゃ駄目ですか？」

「ダメよ…、お酒が入らないと人の恋話なんか出来ないよぅ…、興味無いんだったらもういいけど」

「……。」

額から大粒の汗が出てきて、何も言えずにいると、駄目押しで、

「この間送って行ったから家知ってるし、食べるものも買っていくから大丈夫。部屋の掃除だけしといて」といって自分の持ち場に帰って行った。

道夫は、なんで肝心な時に何も言えないのかと自己嫌悪と同時に独り言を連発した。

「え～、僕の部屋に咲ちゃん以外の、女性を入れるなんて……」

「大丈夫、大丈夫、僕が理性を抑えられたらなんでもない事、なんでもない事…」

「友達、友達。」