Sorry Baby

ぴあす

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2.つながり

キックオフ

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「あれってミラノだよな?」

「…ジャン。見てたの?」

まさか見られてるとは思わなかった。

「いつ?どこで?
頭をなでるくらい親密な仲になったんだよ!!」

ジャンがすごい剣幕で迫ってくる。
これはどう考えても言わなかった俺が悪い。

「待て待て、試合前だ。
ミラノさえいいって言えば今度会わせてやるし…。」

「マジ!?」

一緒に入場する子どもたちの前で言い争いなんてできないしチームメイトにもどう思われるか。
ジャンは周りを考えず突っ走るタイプだ。

ジャンをなんとか宥めることに成功したところでロッカールームに戻りユニフォームに着替える。

8年間このチームのユニフォームを着ているけど、試合前のピリッと尖った神経にフィットするような重みがあるなと何度着ても感じる。

「うっわー、南沢だ!本物だ!
日本人なのにデカイんだな、南沢!」

すでにスタンバイしていた子どもたちの列の横に並ぶと一人の男の子がそう言った。

「そう?きっと君が高校生にもなったら俺よりも背が高くなるよ。」

子どもからしたらそりゃ大人だからでかいだろうけど。
他の選手と並んでしまうとかなり貧弱に見えると思う。

「君、名前は?」

俺と一緒に入場する男の子に名前を聞くとぱあっと笑顔になった。

「ルカ!」

「ルカ。
いつか一緒にプレーしよう。
俺はまだまだ下手くそだけど先にトップチームで待ってるよ。」

ルカがにっこりと笑って俺の手を取った。

「今でも南沢はトップチームでも絶対に通用するよ。
足もめちゃくちゃ速いし毎試合得点決めてるじゃん。」

「そう言ってくれると嬉しいけど…。
プロはそれだけじゃ通用しないんだなぁ。」

褒められて天狗になってはいけない。
いつでも自分に言い聞かせて、気持ちを律する。

ピッチへと続くドアが開けられ、眩しい太陽光が目に刺さる。
これで音楽が流れば選手入場だ。

「ねえねえ、あとでサインしてよ。」

「え?俺でいいの?」

サインを求められたのはこれが初めてでびっりしたとともに嬉しい気持ちが込み上げてきた。

「入団したときからファンだったんだ!」

「嬉しいな。ルカは俺のファン一号だ。
試合終わったら必ずルカのところに行くよ。」

ルカがあっち!と指差した先は未蘭乃の席と近いように感じた。

「OK。」

ルカの頭をくしゃっとなでると同時に入場の音楽が流れた。

トップチームの試合とは違ってカメラは入ってても入場からは撮影されない。
撮影されるとしてもスタンドの撮影エリアからだからいつ撮られてるのかなんてわからないんだけど。

両チームの団歌が流れ終わり、笛が鳴れば試合開始だ。

「一点でも多く取りに行くぞ!」
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