Sorry Baby

ぴあす

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3.注目

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「フェルナンド…!」

試合のあと、俺はすぐにフェルナンドのところに走った。

「あの、足大丈夫ですか?
結構激しくボール取り合ったし…うちのチームメイトもずっとマークしてたんで…。」

「気にするな。
もう完治したも同然だから。」

フェルナンドが俺の肩をぽんぽんと叩く。

「SCバルセロナは馬鹿だな。
こんないいボランチをセカンドチームに置いておくなんて。」

「いやいや…まだまだですよ。 
みんなとは体格差だってまだまだあるし、もっと鍛えないと。」

今日だって何回もタックルでふっ飛ばされた。
怪我しないためにも、もっと体作らないと。

「本当にストイックだな。
続きはまた今度。飯でも行こうか。」

「いいんですか!?」

フェルナンドがたまたま持っていたレシートを財布から取り出して電話番号を書いて渡してくれた。

「じゃあな、南沢。」

あまりにも急なお近づきにマドリードHのベンチで呆然と立ち尽くしてしまう。
相手はプロだぞ?
こんな半人前の俺が連絡先教えてもらえるなんて…。

『南沢ー!!!サインくれるっていう約束は!?』

「ご、ごめん!ルカ!今いくよ!」

客席からのルカの声にサインを書く約束をしていたのを思い出し俺は急いで客席に向かった。

「おまたせルカ。」

「南沢今日も大活躍じゃん!
来季はトップチームでプレーだね!!」

ルカのユニフォームは…いつ着替えたんだろう、俺のゼッケンのユニフォームだ。
背中にサインを書きながら思わず嬉しくて笑みが溢れる。

「期待に応えられるように頑張る。
応援いつもありがとう!」

「ありがとうございます。
頑張ってくださいね。」

ルカとルカのお母さんと握手を交して客席を後にしようとした時、スタジアムの外に出ようとしている未蘭乃を見かけた。

「未蘭乃!」

「ああ、ハルキ。
お疲れ様!大活躍だね。
…思ったよりハルキのファンが多くてちょっとびっくり。」

未蘭乃が客席をの方に目を向ける。

「ハルキがボールを持つたび歓声が上がるし、あの男の子はあたしに自慢気にユニフォーム見せてくれた。
おまけにエースだったなんて知らなかったよ?」

未蘭乃がルカの背中を指差す。
サインしたてのユニフォームだ。

「たった数時間だけど、ハルキのプレーする姿見れてよかった。
まぁ、いつもよりかっこよかったし。」

「いつもよりって…お前なぁ…。」

少し目を反らしながらいう未蘭乃の顔は夕日のせいか少し赤く見えた。

「…あのさ、今日この後って!」

そう言いかけたところで後ろから肩を叩かれる。

「紹介してくれるって言ったよな…?」

「げ。ジャン…。」

こいつ後つけてきてたのかよ…。

「おっす!ミラノちゃん!
俺こいつのチームメイトのジャン!
よろしくね!」

「あ、どうも。
…もしかしてフォトグラにコメントいつもしてくれてます…?」

ジャン…お前フォローだけじゃなくコメントもしてたのかよ。

「認知してくれてるの!?マジ!?
嬉しいなー!
この後って暇?
よかったら俺と飯でも行かない?
奢るから!」

「おいジャン…さすがにそれは…。」

未蘭乃が俺をチラ見て苦笑いした。

「ハルキと3人でなら…。」

おいおい未蘭乃。巻き込むなよ…。
まあいいか。ジャンが奢るって言ってるんだし。

「ジャン。わかってるよなぁ?」

ジャンはバツが悪そうに頭をかいた。

「わかった、ハルキのぶんも奢る…。
迎えに行くから19時でいいかな?」

…そうだったこいつ大した車じゃないけど車持ってるんだよ…。
住所教えるのか?未蘭乃…。

「ありがとう。
でも、ハルキとタクシーで行くからお迎えは大丈夫。」

俺とって言う部分にジャンは引っかかったらしくジャンの笑顔が引きつる。

「そ、そっか!
じゃあ店決まったらハルキに連絡しておく!」

ジャンが逃げるようにロッカールームに戻っていった。

「めんどくせーことになっちまったな。
めちゃくちゃお前のファンじゃねーか、あいつ。」

嘘くさ笑顔連発すぎるだろ。

「まあちょっとコメントの件は言わない方がよかったかも…。」

顔を見合わせて思わず吹き出してしまう。

「こうなっちまったから仕方ねぇよな。
じゃあ俺もシャワー浴びて着替えて早く合流できるようにするわ!」

未蘭乃に手を振り、スタジアムの階段を降りていくのを見送った。

自分の出る試合に誰かを呼ぶっていうのは父さん母さん以来だった。
最後に観に来てくれたのが、13の時だからもう7年近く経ってることにも驚く。

ましてや家族以外を自分から呼ぶなんて初めてだったし、誘うときはかなり勇気がいった。
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