病弱な私はVRMMOの世界で生きていく。

べちてん

文字の大きさ
114 / 193

113話目 最後の壁

しおりを挟む
ゲーム内の時間加速が入ることもあって、大会の開始時刻は21時から。

しかし、私は朝の6時に目を覚ました。

理由はこの世の終わりのような頭痛に腹痛、吐き気と眩暈に、まるで極寒の雪山の中にでも放り込まれたかのような寒気。

完全に忘れていた。

一番重い病気が治ったとはいっても、私の体は極めて弱かったのだ。

辛すぎる。

私は夏海に気付いてほしくて声を出そうとしたが、あまりの体調不良に声も出ず、体も思うように動かない。

だが、少しだけ動かせる腕を一生懸命に動かし、夏海の手をぎゅっと握る。

手を握ると少し症状が和らいだように感じた。

そのまま私は吸い込まれるかのように深い眠りについた。




何もないただ真っ暗な空間にうっすらと声が聞こえていた。

この声はなんだ?

耳を澄まして聞いてみると、それはなじみのある声であり、私のことを必死に呼んでいた。

ああ、早くこの暗闇から抜け出さないといけない。



気が付いたとき、私の上に跨がり、ひたすらに私の名前を呼んでいる夏海の姿があった。

その顔にはうっすらと涙を浮かべて。

「ちょっと夕日!大丈夫なの!?」

「……やばいかも。」

大丈夫と言おうとした。

先ほどよりはましにはなったと言え、まだ体調不良は続いている。

命の危険を感じるほどの体調不良で、正直にやばいと伝えた。

夏海は大急ぎで部屋を出たかと思うと、すぐさま体温計を握りしめて戻って来た。

「測って!」

私はされるがままにわきの下に体温計を差し込み、腕でぎゅっと挟み込んだ。



ピピっという音とともに体温計に示されたのは41,3度。

「は!?何この数字!ど、どうしようどうしよう!!救急車!」

救急車?

それはだめだ、絶対にダメ。

私はとっさに夏海の腕を掴んだ。

「だめ。」

「ど、どうして!?」

「私が病院に行ったら大会に出られなくなっちゃう。」

私がそういうと、驚いたような、悲しいような得も言われぬ顔を見せた夏海は、優しく私に声をかけてくれた。

「夕日。大会は今回だけではないんだよ。私たちのことなんて考えなくていいから。」

違う。

今私が欲しい言葉はそんな言葉ではない。

私は思わず黙り込んでしまった。

そんな私を見た夏海は、救急車ではないどこかに電話をかけたようだった。

おそらく何を言っても無駄だと感付いたのだろう。



しばらくして、大きな機材とともに複数人の医師がやって来た。

医師が来るまでの間に解熱剤を飲んでいたが、依然として40度を超える高熱だ。

体調だってまだ悪い。

医師たちは機材を使って私を診断した後、夏海と軽く会話をしてすぐに帰っていった。

夏海は一度家を出てどこかへ行ったと思ったら、薬の入った袋を握りしめて帰って来た。

どうやらマンションの下にある薬局へと行っていたようだ。

そして、私の元にやって来た夏海は、そっとベッドに腰を掛けた。

「どう?」

「変わらない。」

夏海が小さなため息をついた。

「医師は、大会に出るのはやめておいた方がいいと言っていた。」

「それでも――――――」

私の言葉を遮るかのように、夏海は言葉をつづけた。

「出たいんでしょ?夕日がそうしたいなら私は止めない。でも、開始直前までに落ち着かないようだったら私は止める。」

買って来たゼリーを口の中に入れ、食べ終わったことを見てもらってきた薬を渡してくる。

それを私はすべて飲んだ。

「起きた時、夕日は汗をかきながら魘されていた。……私の気持ちも考えてね?」

もし私が夏海の立場だったら、心配で心配で胸が締め付けられるような思いをするだろう。

私は今その思いを夏海にさせてしまっている。

「わかった。……でも心配させたくないから、音符ちゃんとアルミには黙ってくれる?」

「もちろん。」

今私のやることは大会に向けたゲーム内の最終調整をすることではない。

大会に出るための最後の壁を打ち破っていかなければ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

処理中です...