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:000/始まり
:003 シリウス
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「...っ」
星空が見える。
朦朧とした意識の中、黒髪の少年は星空に手を伸ばした。
──此処は、夢なのか現実なのか
一つまた一つ、星が瞬いては消えてゆく。手の届かない遥か遠くに、明滅する命の光を見つめていた。
──あの光に、手が届くなら──
──……モジャり、と、金だわしかと思うような感触。
「あー起きた起きた。って引っ張んなって」
明るい声と同時に、星空を遮る大きな影。
少年が手にしていたのは星ではなく、サングラス男のソウルフルなグレーのアフロだった。
「よっ。気分はどうだ?」
少年は慌てて手を離した。
気分は?などと聞かれても、
(だ、台無し……)
「えっと...」
夢心地で綺麗な星を見ていたのにこのアフロヘアーで全部台無しだ。しかし現実の今も天井には星空が映し出されている。人工的な光だが、宇宙は感じられる。
「はじめましてだな。俺はヴィル!化学実験部門に所属で、医療関係も得意だろうと勘違いされてお前の面倒役に回された良い人だ」
自分で良い人と言うのかこの人は。
そうやって自己紹介を語りかけてくるのは、グレーのアフロに大きなサングラス、白衣に赤いマフラーの様なネクタイを着こなした軽そうな男性だった。初対面でありながら馴れ馴れしいが、不思議と嫌な気分にはさせない。敵意を感じなかった。
ヴィルは暗かった室内に明かりを点け、天井で明滅していた星も同時に消えた。
「ここは...僕は確か大きい施設で」
醒めたばかりの脳で記憶を整理する。
「そうそう、お前は確かロネリーに回収されてきたんだっけ、あいつ愛想悪いから大変だったろ?」
(ロネリー?あの白髪の人か……)
施設での出来事を思い出す。
その“ロネリー”とやらに突然襲われ、殺されかけた。愛想悪いから大変だというより、怖い人という印象の方が強い。
「身体の調子はどうだ?」
「えっ......ああ、なんだか身体が軽い......」
そういえば起きた瞬間、廃墟施設にいた時よりも身体が軽い。治療をしてくれたお陰だろうか。
「この医療室はプラネタリウムを搭載しているからな、フィーリング効果があるんだ。俺もよくサボりに使ってる」
ヴィルは散らかったサイドテーブルの上でコーヒーを淹れている。
あれもサボり道具なのだろうと、すぐに分かった。
「はぁ...」
返す言葉が見つからず、気の抜けた相槌を打つ。
「......?」
そんな時。
ヴィルの肩からにゅっと小人のような白いものが顔を出す。有無を言わずにヴィルの頰目掛けてビンタを炸裂させた。
バチンッ
「ッテ────!!!」
まるで破裂音――紙で叩いたとは思えない程に、ビンタは大きな音を立てた。
痛そうな悲鳴だ。
「ヴィルさん...起きたんなら博士に連絡って約束だったじゃないですか」
扉の向こうから一人の少年が語りかけてきた。
紫のおかっぱ頭に酷い目の隈、黒いマントを羽織った姿はヴァンパイアを想起させるが、所々和の装飾も組み合わさっている。
どこか気弱そうにも見えるが、口調にはそれを感じさせない。
「キイチてめー!いきなり式神で殴るのは反則だろ!」
式神と呼ばれていた紙のような人形は、ひらひらとキイチと呼ばれる少年の元へと飛んでいく。それを彼は指で挟み回収した。
「医務室でサボるどっかのモジャ頭には言われたくありませんね」
まあ、ごもっとも。キイチの言う通りだ。
「グズグズしないでさっさと行きましょう。僕まで博士の新作の餌食にはなりたくありませんからね」
博士の新作……その言葉で、陽気だったヴィルの表情は見る見る青褪めていく。何か悪い記憶でもあるかの様に、歯をガタガタ震わせている。そんなヴィルを捨て置いて、キイチは既にその場を去っていた。
最後の言葉にどんな意味があったのか、少年は今は知り得ないが、後程その恐ろしさが分かるだろう。
「よし、着替えは後だ!今すぐ俺についてこい!」
***
少年は患者服のままヴィルと一緒に観測室というこの基地の中心部、総合指揮を仕切っている場所に行く途中、一歩先に医務室から出て行ったキイチが観測室らしき扉の前で待っていた。
「おまたせ、待ったか~ごめんごめん」
心にもこもっていない陽気な声でキイチの肩を組む。
「そのアフロの命日が今日だと、僕が呪いでもかけておきますよ、南無...死ね」
「わ、わりぃ...それだけは勘弁だぜ」
「さぁ、中で博士がお待ちしています」
キイチの背後の扉がゆっくりと開いた。
“観測室”────天体観測室は大きなドーム状の空間だ。ドーム状のモニターに様々な天体が高解像度で映し出され、空中にはいくつもの天体のホログラム映像が浮いていた。何よりも中央でそびえ立つ超巨大な地球型ホログラム映像はついつい魅入ってしまうものがあった。
「いらっしゃい、私の天体観測室スターゲイジングは気に入った?」
ホログラムにすっかり見惚れていた少年の背後の頭上から声がした。
振り返ると、二階には黒いニットワンピースの上にふわふわのファー付きの白いロングダウンコート、髪はダークブラウンにピンクのインナーカラー、雰囲気も独特なお姉さんがコーヒーを啜っていた。
「やーん、かっわいい~~」
コーヒーを手放し高さはそれほどないとはいえ二階から少年めがけて飛びついてきた。
「へっ?!」
手放された無残なコーヒーは間一髪でキイチの式神に支えられ溢さずにいた。
少年はと言うと、すっかりお姉さんのペースに飲まれされるがままでいる。
「君~女の子男子どっちだっけ、綺麗な黒い髪をしているわね!暗黒物質の影響かしら」
おもちゃを手に入れた子供のように観察するお姉さん。
「博士......彼困ってますよ」
「あら、男の子だったのね!エクセレント!だわ!ナイスダウンジングよエリス、ロネリー、後でお礼を送らなきゃね」
この場にいないであろう二人に大感謝する。
「あの...」
一人で盛り上がっているところを邪魔するのはなかなか口を開きにくい。特にこのお姉さんの場合は狂気を感じてしまう。
「そうだったわ、ごめんなさいね、私可愛い子には目がないの。私の名前はメアリー。宇宙物理学者よ。そして、改めて歓迎するわ......
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ようこそ天文組織シリウスへ。
あなたも希望の一等星の一人よ────スキア」
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