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:004 暗黒物質
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2217年、人類は歴史上初ブラックホールからエネルギーを取り出す方法を見つけ実行。地球から遠い場所にあった膨大なエネルギー資源によって科学技術も更に発展し宇宙開発の大いなる転換点を迎えた。
その一年後ブラックホールの中心部である特異点から、未知なる物質を新たに発見。科学者達は其れをCBMC:001(Coal black Material Core)と名付けた。採取したその物質はまるで生きているかの様に内部の物質を他の物質へと変化し続ける事が可能だと研究で直ぐに分かった。
2219年、CBMC:001の他にも同様な物質の採取に成功。後にCBMC:002とCBMC:003と名付け、未だに未解明な物質の総称を暗黒物質と定義付けた。ある日、研究員の偶然の失態により、物質が生物自身の感情や心理的要員の変化に影響され姿を変えていくのを新たに発見する。
2220年、暗黒物質の更なる研究を目的とした専門機関「Galactic Halo」通称Haloが結成。不足した資源の人工的補完やエネルギーの転換使用などを目標に、米国支部、アジア支部、ヨーロッパ支部の3カ所で同時研究が進められる事となった。
そして時は2225年、3年前に起きた暗黒物質核が引き起こした大規模な爆発、「Emotion Bigbang」で世界は暗澹な闇に飲まれていた。大気中には漆黒の粒子が舞い上がり、肉体も心も侵食された生物は黒く染まり、大陸中に有象無象な化け物達が巡回する。人々はそんないびつに奇変した物達を「Patient (患者)」と呼ぶ様になった。
────そんな何もかもが汚染された崩壊した世界にも、まだ一筋の希望は残されていた。
暗黒物質の解明と世界修復を目的とした天文組織「Sirius」そしてシリウスの元で構成された対ペイシェントの人員。其れが彼ら「Destroyer」破壊者と呼ばれる人達であった。
***
メアリー博士の呼び出しの後、再び医療室へと戻っていた黒髪の少年──スキアは身体的に異常がないか大型検査機でスキャンを実行中だった。
「暗黒物質、生物の感情や心理的変化を基に暗黒物質その物を別の物質へと変化させる未解明物質」
白紙で鶴を折りながらベッドに座り込む紫色頭髪の少年キイチは博士の言葉をもう一度説明してくれていた。
「まあ、なんだ。暗黒物質さえあればなんでも作れちゃうお伽話に出てくる魔法みたいな凄い物なんだって俺はそう覚えてるぜ。最初はびっくりしたし怖かったけど、今じゃすっかりそれに頼りっきりになってるところあるよな」
アフロヘアーのヴィルはその隣で頭に手を組みながら補足する。
「博士の説明通り、貴方が目覚めた世界は最悪と言える場所です。そして貴方もその“最悪“を秘めている。だからシリウスの正式メンバーに招かれたよりも、観測対象として機関の元に置かれたと言った方が分かりやすい」
綺麗に折られた鶴をスキアの方へと向け、一度微笑む。
「つまるところ、僕とヴィルは貴方の監視役と言うわけです。よろしくお願いしますよ、スキアさん」
「あ、はい......よろしくお願いします」
「俺は仲良くしたいぜ!ただでさえシリウスは人手不足なんだ、得体が知れないだろうが何だろうが、お前とはなんとなく仲良くなれる気がする!」
「仲良しごっこは勘弁です、二人でどうぞイチャイチャしてて下さい」
無関心に新しい白紙に視線を落とし、キイチは再び鶴を折り始めた。
「イチャイチャってなんだよ!俺は可愛い女の子にしか興味がないんだ。ったく、お前はもうちょっと他人と関わるって事を覚えた方がいいぜ。寂しくないのか」
唇を尖らせ不満を口にしながら、スキアのスキャンを終えた機材のホログラムに目を通す。膨大な情報に目を通し、異常が無いかを確認する。
「寂しくないですよ。今の世界に他人と関わりたいなんて思える人の方が希少種です。アフロなので絶滅危惧種ですかね」
「アフロ関係ねえだろ!......なあ、お前はどうなんだスキア」
降りかかる問い掛けにスキアは一瞬遅れて反応する。
無理もない、そう名付けられたのはつい先程の出来事。まだ馴染みのない名前に慣れるのには時間がいる。スキア、意味は影らしい。シリウスの人達は全員本名ではなくコードネームで互いを呼び合う。心の負担を軽減する為であり、感情の起伏による暗黒物質の影響を極力抑える為でもあるらしい。
「僕は......、分からない」
そう、目覚めたばかりの自分には何も分からない、人と関わるという意味がなんなのかさえ、今は理解するのも難しい。
「俺はな、どんなに世界が最悪になろうと、自分が最悪だろうと人と関わるのを辞めるのだけはごめんだな。誰かと出会えば、分からなかった事だって、出来なかった事だって何だって出来ると思うんだ。きっと何かが変わると信じてる」
一点の曇りも無くヴィルはそう言って、スキアへ向かってニッと笑った。
無気力にベッドへ倒れ込んでいたキイチは新しく折った鶴を天井に向けて、目を細めた。そして二人には聞こえない音量で呟く。
「......貴方は馬鹿ですよ」
***
「ただいま戻りました」
スキア達が立ち去った後、天体観測室の扉が再び開くと同時に、いつも通り冷静沈着で無愛想な声が響き渡る。
「あら、おかえりロネリーくん!帰って来たのに顔を出さないから心配しちゃったわ~」
「メンテナンスをしてたので遅くなりました。それと......」
博士の横に映るホログラム映像に目を向ける。
「.......色々説明を聞きたいのは山々だと思うけれど、先ずはこれを見てちょうだい」
メアリーはホログラムを指で操作しロネリーの目の前へと画面を映し出す。
「白樹の中にあった物質は確かに回収できたわ」
「俺にはただの光ってる石にしか見えませんが.......」
自ら回収して来た白く眩い光を放つ鉱石の様な物質は樹から採取したなんて到底思えなかった。採取する前はまだ柔らかさを保っていたが、ここまで硬質化するなんて。
「そうね.......これは所謂“魂”かしら。生きていた生命に宿っていた意識からできた集合体の実体化.......」
「言ってる意味が良く分からないです」
ロネリーは難しく困惑した顔で博士を見た。
「あそこで生きていた人間達の成れ果て.......肉体を失った魂だけの存在。私達人間の身体は物理的レベルであるけれど、意識自体はそうでもないの。観測できない程に小さく量子的レベルに存在する。つまり、行き場を失った魂の物質が暗黒物質と結びついて現存する姿なのよ」
「魂.......」
「ええ、繊維の一つ一つに数え切れない程の魂が宿ってる。...暗黒物質は生物の心因に基づいて変化するわ。もしそれが精神的理論では無く、ただ単純に宇宙によって創造された物質の融合だとすれば.......その量子をコントロールできれば救えない命もいつかは救えるかもしれないわね」
「.......死んだ者は何をしても戻って来ませんよ。暗黒物質に飲み込まれた人は死んでるのと変わらないですから」
目を閉じ悲しい記憶が蘇る。
────実験が失敗し、人としての形を失う親友を目の前で見ていた時の記憶。
寒くて冷たい機械になった自分と────
「ああ、それとスキアくんについてなんだけど.......ちょっといいかしら」
ロネリーはそっと目を開いた。
「はい」
***
これは人の心と宇宙を結ぶ滑稽なお話。
渦巻く人の感情と渦巻く黒い粒子が、冷たく変化して行く世界の中でどんな結末を迎えるのか。
────我々は観測する。
奇跡と軌跡を。
────心と宇宙は未知数だ。
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