特殊召喚士 スペシャリストサマナー

朝月 桜良

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才能

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 向かったのは東区画で最も大きな建物。
 召喚士特別育成学所。
 通称サマナーズ。
 名称通り、召喚士を育てるための学校である。

 制服の襟を正し、校舎内に足を踏み入れた。
 同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
 慌てて自分たちの教室に向かい、遅刻を回避した。

 午後の授業が始まった。
「召喚には召門石に魔力を注ぎ、召喚陣を開く必要があります」
 内容はあまりにも基礎的なものである。
 そのため、誰も板書されたものを書き写したりしない。もしもそんなことをすればバカにされるオチだ。
 チョークが黒板を叩く音だけが虚しく響いていた。
 幼子でも知ることを授業で話しているのには理由がある。ミオとレイヴァンによる昼休みの一悶着が表沙汰になり、罰として全クラスで基礎的な講義となったのだ。
 ミオとしては気まずさも含めて罰として受け入れているが、もう一人の当事者であるレイヴァンの姿は教室のどこにも見当たらない。授業が始まる前にどこかへ逃げてしまった。
「召喚出来るものは個人で異なります。皆さんも知る、系統適性と呼ばれるものですね。例えば僕なら、馬の系統に適性があります。だから馬──分かりやすいところで言うならユニコーンなどですが、彼の者たちを召喚することが可能です。他にも、もっと大まかな系統もあります。例えばドラゴン。ドラゴンそのものの系統適性を持っていなくとも、爬虫類の系統を持っていれば、力量次第ではドラゴンを召喚することも可能です。ドラゴンも爬虫類に分類されますから。他にも属性や姿などの系統も存在します。逆に言えば、一切適性が無い系統の種族を召喚することは不可能です。そしてこの系統適性ですが、これは後天的に得られるものではありません。生まれ持った運命──あまりこういう言い方は好きではありませんが、系統適性は召喚士としての才能の一つと言えるでしょう」
──才能。
 あまりに重い言葉だった。
「系統適性は多ければ多いほどに優れていると言われています。状況に合わせて召喚出来る、これは大きなアドバンテージだからです」
 ぼんやりと聞いていた生徒たちが、当たり前だと言わんばかりに頷く。俯いているミオを除いて。
 だが先生は「ですが──」と続ける。
「系統適性が少ない者にも長所があります」
 意外な言葉に生徒たちの関心がわずかに向いた。
 ミオも自然と顔が上がる。
 手応えを感じたのか、先生は小さな咳払いを一つ交えた。
「系統適性が少ない方が、系統を持つ種族の上位種を召喚しやすいとされています。つまり限定される分、その種族に対する知識、感性、才覚が鍛えられ、多くの系統適性を持つ召喚士よりも優れるのです」
 広く浅くか、狭く深くか。
 一方で先生はさらに話を広げようとする。
「特にですね──」
 だが、それを遮るようにチャイムの音が鳴り響く。
「……時間ですか。続きはまた次回」
 やや残念そうな先生の声で今日の授業が終わった。


 ミオはリリィナと一緒に帰り道、小川沿いを歩いていた。
 ミオはぼんやりと川の流れを見やる。
「みんなには悪いことしたな……」
 ぽつりと呟く。
 するとリリィナが顔を覗き込んできた。
「反省したぁ?」
「してるよ。いっつもね」
「それじゃあ、どうしてまた繰り返すかなぁ」
「いくら反省してても、許せないことは許せないからだよ」
「許せないことぉ?」
「せっかく才能があるのに、努力を蔑ろにしてる」
「それで注意して、また喧嘩になったのぉ?」
 遠慮がちに頷く。
 リリィナは分かりやすく肩をすくめた。
「……私には才能無いもの」
 分かっていることだ。
 分かり切っていることだ。
 それなのに、そう言葉にするだけで胸が締めつけられる。
「だけどミオ、才能が無いながらも努力してレッドまで上り詰めたじゃない」
 サマナーズでは、制服の色で召喚士としての熟練度を表している。男女でも色が違い、男子は紺色、青色、水色、女子は赤色、橙色、黄色と、色が濃いほどレベルが高い。
 ミオとリリィナは赤色、レイヴァンは紺色と、三人はサマナーズで最高位の召喚士だと認定されている。
 だが、それはあくまでサマナーズでの基準に過ぎない。ミオは偶然にも基準を満たしてしまっただけだ。
 その証拠に、リリィナはフォローしつつも『才能が無い』という言葉を一切否定せず、むしろ自らも口にした。
「相変わらず一言多いというか、可愛い顔してさらっと毒を吐くね。そんなあなたなら毒を持つ生き物と相性良いかもよ」
 などと皮肉を送る。
「えぇ、酷いなぁ。でもでも毒を持ってても猫なら可愛いかもぉ」
「それはどうかな……」
 どこかズレた発言に思わず苦笑した。
 こんな天然な子でも、召喚士としての才能は高い。少なくとも、ミオとは比べ物にならないほど。それはレイヴァンも同じこと。
「でもだからこそ、才能にかまけて努力しない彼に、そして努力をバカにする彼に、どうしようもなく腹が立つの」
「ミオ、レイヴァン君と正反対だもんねぇ。性格も、努力と才能なところも。相性が悪いから仲も悪いのかなぁ?」
「だとしたら私とあなたも大概だけどね」
「えぇ?もしかしてわたしのこと嫌い?」
 リリィナは立ち止まり、心底不安そうな表情を浮かべた。
 思わず笑ってしまう。
「嫌いな相手と談笑出来るほど、私は優しい人間じゃないよ」
「そっかぁ。そうだよねぇ」
「……すぐに納得されるのも釈然としないけど」
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