特殊召喚士 スペシャリストサマナー

朝月 桜良

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召喚士

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 第三大陸にある都市ベルジャーシャ。
 昼刻を告げる鐘の音が鳴ってから少し経った頃、東区画の広場に人だかりが出来ていた。
 騒ぎの中心にいるミオとレイヴァンの間には剣呑とした空気が流れており、これでもかと睨み合っていた。
 レイヴァンは召門石ヴルゥドと呼ばれる首から下げた青い石を握り締め、雄叫びを上げる。
「うぉぉっ!召喚っ!来やがれ、フィープ!」
 レイヴァンの足元に青い光の文様が浮かぶ。召喚陣というものだ。
 続いてレイヴァンのすぐ目の前にも同じ文様の陣が出来た。すると、レイヴァンの眼前で光っている召喚陣から、彼の呼び声に応じて何かが現れ出でる。
 フィープ。鳥のような羽と、頭に鋭く伸びた角を持つ四足の獣だ。体毛は三メートルと、人間よりも大きな体躯をしている。
 フィープの姿を見て、周囲の人たちが歓声を上げた。
 広場内は一気に騒がしさが増す。
 この場にいる誰もが高揚し、盛り上がっている。
 ミオは心を喧騒の中でも心を落ち着け、自身もまた首に下げた召門石を握った。
「召喚!来て、カーリャ!」
 魔力を込め、召喚を発動させた。
 レイヴァンと同様、目の前に召喚陣が浮かび上がり、そこから長細い身体の生物が現れる。
 カーリャ。魚とドラゴンの血を受け継ぐと言われる種族である。水気をたっぷりと含んだ鱗を全身に纏い、水でつくられた羽を持つ。ドラゴン種の性質からか、長細い身体は宙に浮いている。
 カーリャの姿に、またしても大きな歓声が上がった。
 だが、色めき立った空気をフィープとカーリャの鳴き声が吹き飛ばす。
 一瞬にして空気は張り詰め、沈黙が幅を利かせた。

 雄々しいフィープと、美しいカーリャ。
 相反する二体が睨み合い、火花を散らす。
 フィープは牙を剥き、いつでも襲いかかれるようにしていた。
 カーリャも威嚇するように水の羽を広げ、その先をフィープに向けている。
 小さな音、わずかな動きにさえ反応し、戦いが始まりそうなほど緊迫感が漂う。
 総合的な能力ならばカーリャが勝っているはず。しかし、単純な戦闘力だけならフィープの方が上だろう。
 重い静寂が広場内に圧しかかる。
 だが不意に、雰囲気をぶち壊す声が聞こえてきた。

「もう、やめなよ二人ともぉ」

 少女の間延びした声が空気を軽くし、柔らかくする。
 警戒は召喚したカーリャに任せ、声がした方を見やった。レイヴァンも同じ動きをする。
 人の間をすり抜け、栗色の長い髪をおどらせながら同じクラスメートのリリィナが駆け寄ってくる。
「リリィナ……」
「ミオぉ。レイヴァン君もぉ。もうすぐ時間だよぉ」
 そう言いながら広場中央の時計台を指差した。
 彼女の言う通り、そろそろ学校に向かわないと遅刻する。
 ミオは誰にも気付かれぬように、ゆっくりと深い息を吐き出す。
 召喚したカーリャの尾を優しく撫でる。すると、カーリャの放っていた迫力がすぅっと消え失せた。
 敵意の消えたミオとカーリャを見て、
「……フィープ」
 興醒めだと言わんばかりに、レイヴァンが渋々フィープを下がらせる。

 レイヴァンはふんっと鼻を鳴らし、フィープを引き連れて広場から立ち去った。
 背中が見えなくなったのを確認し、
「ありがとうね、カーリャ」
 カーリャは光に包まれて消えた。
 見世物のような二人の争いが終わったことで、観戦していた野次馬たちも散っていき、やがてミオとリリィナの二人だけが残った。
 二人きりになるなり、リリィナが呆れた視線を向ける。
「また喧嘩ぁ?」
「ちょっと言い合いになって」
「いつもでしょう」
「……まぁね」
「ミオったら、いつもいつも……」
 まずい、不満が止まらなさそう。
「ほ、ほらリリィナ。もう時間なんでしょ?行こ」
 言葉を遮りながら、レイヴァンの立ち去った方に向かって走り出した。
「あ、待ってよぉ!」
 呼びに来てくれたはずのリリィナが後ろから追いかけてくる。
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