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翌朝。村の出入り口に人だかりができていた。十人二十人ではない、村人総出で、ユユノとリーシャンとデュラウを見送ろうとしている。クロットはドラゴンとの戦いから姿を見せていない。
子供たちは大きく手を振り、リーシャンが振り返している。
デュラウは、分けてもらった食料の入った荷袋を軽々と担いでいた。
いつも通り、メンバーの代表としてユユノが礼を言う。
「二泊もさせていただき、食料まで分けてもらって、ありがとうございました」
「いえいえ、感謝するのはこちらの方です。もしも皆様がいなければ大変なことになっていたことでしょう。本当にありがとうございました」
村長は振り返り、傷痕の残った村を見やった。
ディスクゥドの襲撃と考えれば、被害は比較的軽微である。死人が出なかったのがその証拠だ。デュラウがドラゴンを倒し、リーシャンとユユノが魔法で護ったからこその結果。村長の言う通り、彼らがいなければドラゴン――それ以前の大群で襲ってきた魔獣たちによって、村は壊滅していたことだろう。
村長のお礼の言葉に、三人は笑顔で返した。
ふと、ユユノが一つ尋ねようと口を開く。
「ところで村長さん、昨日の話なんですけど──」
そこまで言ったところで、何やら挙動不審になって辺りを見回し始める。
ひとしきり確認し終えると、改めて続きを口にした。
「以前、村に訪れたという男、どこへ行ったかわかりませんか?」
「おや? もしやお知り合いですか?」
「十中八九、わたしたちの仲間です」
後ろの二人はこれでもかというほど大きく頷いた。三人の表情はどこか苦々しさが見え隠れしている。含みのある様子に、村人たちは小首を傾げていた。
村長は南の方角を指差す。
「あの方なら、確かこの先を真っ直ぐ進みまれました」
辺境のさらに奥。道のない道。緑が生い茂る村の周囲とは違い、先に進むほど茶色が増える寂れた荒野が続いていた。
「それはいつのことですか?」
「皆様が村にお出でなさった五日ほど前です」
「五日……」
ユユノは、計算でもしているのか思案顔になった。
村長は心配を拭おうと、考え込むユユノに言う。
「急げば追い付けるかもしれません」
だがユユノは顔をしかめて唸った。
「うーん。五分五分ってところですかね」
「そ、そうなんですか?」
「……この先には何が?」
「申し訳ありませんが、わかりません。あの方にも同じことを尋ねられて、同じ答えをしたのですが……だったら余計に行ってみないとな、と……」
その言葉に三人は同時に大きな溜め息を漏らした。顔をしかめるユユノに、呆れ顔のデュラウ、笑みを引きつらせるリーシャンと、表情には少しばかりの差があった。
「まったく、何を考えているのか……」
ユユノの不満に、村長は何度か小さく頷く。
「確かに、変わった――あぁいえ、掴みどころのない人でしたね」
慌てて言い直した。
リーシャンはくすくすと笑っている。
対してデュラウは呆れ顔で溜め息を漏らす。
ユユノは苦笑しながらどこか遠い目をした。
「彼は、何と言いますか……破天荒というか、自由人というか、とてもハチャメチャな人で。剣を盾代わりにしたり、投擲したり……それだけなら用途範囲内なんですけど、彼はさらに料理の鉄板代わりや、眠るときの枕、果ては背中が痒いからと……などなど。正直、かなりアレな人でして。良く言えば、型にハマらないと言えるのでしょうけどね。掴みどころがないと感じたのは、そういったところからだと思います。まぁ恐らく、そこが彼の良いところでもあるのでしょうね」
リーシャンとデュラウが苦笑しながら肩をすくめる。
そしてユユノはこう続けた。
「曲がりなりにもわたしたちのリーダーで──主人公なので」
何を言っているのかわからず、村人たちは揃ってポカンとしていた。ただ子供たちだけが理解したのか、何やら内緒話をしたり、はしゃいだりしている。
三人は笑みを浮かべ、進む方向を定めて歩き出す。
村から離れた頃、今までどこかに消えていたクロットもいつの間にか加わっていた。
四人になった彼らは、いつも通り旅をする。
欠けた仲間を探す旅を。
──今日も主人公は不在である。
子供たちは大きく手を振り、リーシャンが振り返している。
デュラウは、分けてもらった食料の入った荷袋を軽々と担いでいた。
いつも通り、メンバーの代表としてユユノが礼を言う。
「二泊もさせていただき、食料まで分けてもらって、ありがとうございました」
「いえいえ、感謝するのはこちらの方です。もしも皆様がいなければ大変なことになっていたことでしょう。本当にありがとうございました」
村長は振り返り、傷痕の残った村を見やった。
ディスクゥドの襲撃と考えれば、被害は比較的軽微である。死人が出なかったのがその証拠だ。デュラウがドラゴンを倒し、リーシャンとユユノが魔法で護ったからこその結果。村長の言う通り、彼らがいなければドラゴン――それ以前の大群で襲ってきた魔獣たちによって、村は壊滅していたことだろう。
村長のお礼の言葉に、三人は笑顔で返した。
ふと、ユユノが一つ尋ねようと口を開く。
「ところで村長さん、昨日の話なんですけど──」
そこまで言ったところで、何やら挙動不審になって辺りを見回し始める。
ひとしきり確認し終えると、改めて続きを口にした。
「以前、村に訪れたという男、どこへ行ったかわかりませんか?」
「おや? もしやお知り合いですか?」
「十中八九、わたしたちの仲間です」
後ろの二人はこれでもかというほど大きく頷いた。三人の表情はどこか苦々しさが見え隠れしている。含みのある様子に、村人たちは小首を傾げていた。
村長は南の方角を指差す。
「あの方なら、確かこの先を真っ直ぐ進みまれました」
辺境のさらに奥。道のない道。緑が生い茂る村の周囲とは違い、先に進むほど茶色が増える寂れた荒野が続いていた。
「それはいつのことですか?」
「皆様が村にお出でなさった五日ほど前です」
「五日……」
ユユノは、計算でもしているのか思案顔になった。
村長は心配を拭おうと、考え込むユユノに言う。
「急げば追い付けるかもしれません」
だがユユノは顔をしかめて唸った。
「うーん。五分五分ってところですかね」
「そ、そうなんですか?」
「……この先には何が?」
「申し訳ありませんが、わかりません。あの方にも同じことを尋ねられて、同じ答えをしたのですが……だったら余計に行ってみないとな、と……」
その言葉に三人は同時に大きな溜め息を漏らした。顔をしかめるユユノに、呆れ顔のデュラウ、笑みを引きつらせるリーシャンと、表情には少しばかりの差があった。
「まったく、何を考えているのか……」
ユユノの不満に、村長は何度か小さく頷く。
「確かに、変わった――あぁいえ、掴みどころのない人でしたね」
慌てて言い直した。
リーシャンはくすくすと笑っている。
対してデュラウは呆れ顔で溜め息を漏らす。
ユユノは苦笑しながらどこか遠い目をした。
「彼は、何と言いますか……破天荒というか、自由人というか、とてもハチャメチャな人で。剣を盾代わりにしたり、投擲したり……それだけなら用途範囲内なんですけど、彼はさらに料理の鉄板代わりや、眠るときの枕、果ては背中が痒いからと……などなど。正直、かなりアレな人でして。良く言えば、型にハマらないと言えるのでしょうけどね。掴みどころがないと感じたのは、そういったところからだと思います。まぁ恐らく、そこが彼の良いところでもあるのでしょうね」
リーシャンとデュラウが苦笑しながら肩をすくめる。
そしてユユノはこう続けた。
「曲がりなりにもわたしたちのリーダーで──主人公なので」
何を言っているのかわからず、村人たちは揃ってポカンとしていた。ただ子供たちだけが理解したのか、何やら内緒話をしたり、はしゃいだりしている。
三人は笑みを浮かべ、進む方向を定めて歩き出す。
村から離れた頃、今までどこかに消えていたクロットもいつの間にか加わっていた。
四人になった彼らは、いつも通り旅をする。
欠けた仲間を探す旅を。
──今日も主人公は不在である。
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