嵯峨野逸海は筆を持つ

吉村巡

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幽霊部 1-1

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 幽霊部員が部活に存在するのかしないのか怪しい部員のことを指すのだとしたら、さしずめ嵯峨野さがの逸海いつみが部長を務める書道部は存在するのかすら怪しい幽霊部・・・であろう。

 昨年度で創立六十年となった峰寺高校には、あまり知られていないが六十年前の学校創立当初から連綿と続く部活がいくつかある。
 弓道部、剣道部、野球部、陸上部、華道部、茶道部、新聞部、そして書道部である。

 まさに一朝一夕では得られない六十年の伝統を誇る書道部の部員数は、嵯峨野ただ一人。
 必然的に、唯一の部員である嵯峨野が書道部の部長となる。

 伝統を備えていても、時代の流れには逆らえないということだろう。

 ただ、嵯峨野だとて入学当初から好んでこのような茨の道を歩いていたわけではない。
 入部した一年生のときには三年生の先輩が二人、二年生には一人いた。しかし、二年生の方は嵯峨野が入部してまもなく退部し、その後は受験を理由に三年生がいなくなる。
 そして必然的に一年生の夏休みからは書道部の実動者が嵯峨野だけになったのだ。

 三年生が卒業され学年もひとつ上がった五月の現在、冬休み前に一斉引継ぎを行うまで名目上は三年生が部長を務めるのが一般的な峰寺高校における数少ない二年生部長が嵯峨野である。

 たった一人で部として成り立つのか。
 同好会でしかないのではないか。
 そう疑問に思う輩がでてくるのが、限られた部費を奪い合う部長会議という名の戦場での一般的な洗礼であろう。
 けれど、そもそも書道部の存在が認識されているかも怪しいので、部として成立するかという疑問の端にすら上らない。
 そのくせ、創立から続いているという伝統の恩恵、書道教室という部室確保の容易さ、小規模ゆえに書道の授業用の備品を書道部が自由に使用できるという環境に恵まれている。

 結果、部員一名という弱小部に相応しい貰っても貰わなくても大して変わらないような予算割り当てであっても、半紙や墨の用意に苦心し極貧に泣くような活動とは無縁であった。

 長く峰寺高校書道部の顧問を務めてくださっていた先生が人事異動で他校に転属され、新しく顧問になっていただいた先生は書道のことは門外漢だと部活中に様子を見に来ることもない。

 書道部は、嵯峨野の天下であった。

 虚しい天下だが、嵯峨野はそもそも部員が自分一人であることも、入部の季節である四月が過ぎ、五月になっても新入部員が一人も入ってこないという廃部寸前の状況であることも、特に気にしてもいなかった。
 そもそも、勧誘活動すらまともにしていない。部長としての義務的に、新入生用の部活紹介のパンフレットの隅で書道部の存在を知らせるために、書道部という文字と活動日時、活動場所を書いた用紙を新しい顧問が挨拶のために顔を出したときに提出したくらいである。

 あれで書道部に興味を惹かれて入部しようという奇特な新入生がいるとすれば、それはもともと書道好きな人物であろう。
 しかし、そんな物好きな人物は入学式から今に至るまでいっこうに現れなかった。

 だから今日も一人で、嵯峨野逸海は筆を持つ。
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