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幽霊部 1-2
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書道の基本は、とにかく臨書である。
臨書とは手本を見て、それを真似て書くことを言う。
高校で書道の授業を選択すれば楷書の基本として教えられる中国の書の大家、欧陽詢の『九成宮醴泉銘』を筆頭に、峰寺高校には古の偉人が残した手本が掲載された書本が何冊とある。
問題があるとすればただひとつ。
書きたいと思う文に手本が無いことである。
『九成宮醴泉銘』の中に『おはよう』という文字は無い。つまり『おはよう』という言葉の手本は探せばあるかもしれないが、少なくとも嵯峨野が書きたいと思ったとき、すぐには手に入らない。
去年までは顧問であった先生が現代詩や日本の古典といった、ひらがな混じりの手本であっても頼めば書いて用意してくれた。
今年からはそれが出来ない。
嵯峨野は自分の書いた字がどの程度のものかを驕ることなく理解していた。
誰が見ても読めはすれど、字が上手いかと聞かれると「ああ、うん。よく書けてるね」と取り繕った笑みと無難なお世辞を返される。その程度だ。
バランスが悪くて癖がある。手本をしっかり模倣できていないところに性格の粗雑さがあらわれている。そもそも、基本の筆運びからしてなっていない。
簡単な自己評価としては以上である。
だから、去年の書道展への出品で、嵯峨野の作品が堂々の銅賞だったのも理解できている。
ここでいう、銅賞とはオリンピックで言う銅メダルではなく、吹奏楽コンクールなどでいう銅賞と同じであり、3位ではなく参加賞という意味だ。
書道部なのだから字が上手い、書道部の部長は何だって書ける。
そんな妄想を嵯峨野に対して抱かれても迷惑なだけだった。
勝手に期待されて、その期待に応えなければ失望する。それは、期待する方が間違っていると嵯峨野は思う。
嵯峨野が書道部に入ったのは書道に高校生活を捧げたかったからではないし、部長になったのは他に部員がいなかったからだ。
だが、そもそも存在するかどうかも曖昧な書道部に期待がかけられることもないので、失望されることもないだろう。
嵯峨野は書道部員として、そして、書道部の部長として最低限の義務は果たしている。
毎週、決まった曜日にきちんと活動しているし、展覧会用に出品する作品も書く。その上で部長会という名の予算会議にも出席する。
それ以上の不必要な仕事を背負い込む気が、嵯峨野には無かった。
新入部員がいなければ書道部は自動的に活動停止で廃部になるとか、書道部の部長として展覧会では優秀な成績を残さないといけないとか、そういうのは嵯峨野が負う責任ではないと考えていた。
余計な仕事まで負ってしまえばきりがない。
ついでにいえば、嵯峨野のあとに書道部がどうなろうと嵯峨野には関係ない。
書道なんて、筆と墨と紙があれば出来るのだ。
高校に書道の授業がある限り、五分もかからず廃部になっても五分と経たずに復活する。
そんな気楽な部活の存廃に、なぜ苦心しなければいけないのかが、嵯峨野には分からなかった。
臨書とは手本を見て、それを真似て書くことを言う。
高校で書道の授業を選択すれば楷書の基本として教えられる中国の書の大家、欧陽詢の『九成宮醴泉銘』を筆頭に、峰寺高校には古の偉人が残した手本が掲載された書本が何冊とある。
問題があるとすればただひとつ。
書きたいと思う文に手本が無いことである。
『九成宮醴泉銘』の中に『おはよう』という文字は無い。つまり『おはよう』という言葉の手本は探せばあるかもしれないが、少なくとも嵯峨野が書きたいと思ったとき、すぐには手に入らない。
去年までは顧問であった先生が現代詩や日本の古典といった、ひらがな混じりの手本であっても頼めば書いて用意してくれた。
今年からはそれが出来ない。
嵯峨野は自分の書いた字がどの程度のものかを驕ることなく理解していた。
誰が見ても読めはすれど、字が上手いかと聞かれると「ああ、うん。よく書けてるね」と取り繕った笑みと無難なお世辞を返される。その程度だ。
バランスが悪くて癖がある。手本をしっかり模倣できていないところに性格の粗雑さがあらわれている。そもそも、基本の筆運びからしてなっていない。
簡単な自己評価としては以上である。
だから、去年の書道展への出品で、嵯峨野の作品が堂々の銅賞だったのも理解できている。
ここでいう、銅賞とはオリンピックで言う銅メダルではなく、吹奏楽コンクールなどでいう銅賞と同じであり、3位ではなく参加賞という意味だ。
書道部なのだから字が上手い、書道部の部長は何だって書ける。
そんな妄想を嵯峨野に対して抱かれても迷惑なだけだった。
勝手に期待されて、その期待に応えなければ失望する。それは、期待する方が間違っていると嵯峨野は思う。
嵯峨野が書道部に入ったのは書道に高校生活を捧げたかったからではないし、部長になったのは他に部員がいなかったからだ。
だが、そもそも存在するかどうかも曖昧な書道部に期待がかけられることもないので、失望されることもないだろう。
嵯峨野は書道部員として、そして、書道部の部長として最低限の義務は果たしている。
毎週、決まった曜日にきちんと活動しているし、展覧会用に出品する作品も書く。その上で部長会という名の予算会議にも出席する。
それ以上の不必要な仕事を背負い込む気が、嵯峨野には無かった。
新入部員がいなければ書道部は自動的に活動停止で廃部になるとか、書道部の部長として展覧会では優秀な成績を残さないといけないとか、そういうのは嵯峨野が負う責任ではないと考えていた。
余計な仕事まで負ってしまえばきりがない。
ついでにいえば、嵯峨野のあとに書道部がどうなろうと嵯峨野には関係ない。
書道なんて、筆と墨と紙があれば出来るのだ。
高校に書道の授業がある限り、五分もかからず廃部になっても五分と経たずに復活する。
そんな気楽な部活の存廃に、なぜ苦心しなければいけないのかが、嵯峨野には分からなかった。
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