俺らが好きなのはキミだけっ!

コハク

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第1話:加速していく勘違い、妄想、そして恋心

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 今より少し前、幸人と怜央が校舎裏へ移動したばかりの時へ遡る。
 視点は再び、碧へと切り替わる。

________________

 ……うーん。友沢先輩と大神先輩の行く末を見守るために、2人を追って校舎裏まで来たのはいいけど……。

「何話してるか全然わからないなぁ……」

 ぼくは思わずため息をつく。
 先輩たちは、建物の影に隠れているぼくから少し離れたところで話している。かろうじて表情と雰囲気はわかるのだけど、声はほとんど聞こえない。

 もう少し近づいてみようか、いやいやそれだとバレるかもしれない、などと悶々としていたその時だった。

「俺だって好きなんだよ!!」

 ……大声で言ったものだったからか、今の声は僕の耳にまで届いた。
 けれど……今のは聞き間違い?それとも幻聴だろうか?大神先輩の声でというセリフが聞こえるなんて……。
 好きって……言ったとしたら誰に?大神先輩の視線の先には友沢先輩しかいない……。ということは……え?まさか……本当に?
 バクバクとぼくの心臓がうるさくなるのを感じる。

 いやいや……いやいやいや!!さすがにありえないでしょ!きっとあれだよ!好きなアイドルとか、好きな映画とか、そんな当たり障りのない話題に決まってる!
 そうじゃなかったら、ぼくが大神先輩と友沢先輩の妄想をし過ぎて幻聴聞いたとか……。

 ……真相を確かめるためにも、やっぱりもう少し近づいて話を聞いてみよう、うん。大神先輩と友沢先輩の近くかつ、ギリギリ2人の視線から死角になるような場所へ、ぼくは慎重にジリジリと移動していく。

「お前って…………将来………だわ~」

「きみのその…………かえって…………」

 ……うん。部分的にだけど、ここなら先輩たちの声が聞こえる。このままバレないようにじっとして、2人の会話に耳を傾けていれば……。
 と思ったその時、ぼくの心を揺さぶったのは、またもや大神先輩の声だった。

「言っておくけど、俺が好きだって気持ちは誰にも負けねえ。絶対に振り向かせてみせる。ほかのやつなんざ渡してたまるか!」

 __ドサッ。

 驚くあまりにカバンを手から離してしまった。

 ……彼のあの真剣な表情、熱い宣言……。あぁ、これで確信した。
 これはぼくが妄想しすぎた故に見えた幻覚でもなんでもなく、本物の告白の現場……。大神先輩は友沢先輩のことが好きなんだ!
 でも、友沢先輩はその告白への返事を渋り、大神先輩はあんな大胆なアプローチを……!

「…………くん……櫻木くん!?」

「ッ!!」

 推測に頭を働かせていたぼくは、呼びかけられてようやくハッと我に返る。いつのまにか友沢先輩と大神先輩が近くに来ており、焦ったような表情でこちらを見ていた。

「さ、櫻木ちゃん……もしかして今の、聞いてた……?」

「……は、はい……」

 普段の余裕そうな態度から想像できないほどオロオロしながら、大神先輩はぼくに問いかける。本当は『聞いてない』と言うべきだっただろうが、思考回路がまだ正常に動いていなかったせいか、ぼくはその問いに対して思わず肯定してしまった。

 ぼくの答えを聞き、更に気まずくなってしまった様子の先輩たちの表情が目に映る。告白の現場を後輩に見られてしまったのだから、当然だろう。
 これ以上邪魔をしないように、一刻も早くこの場を離れなければ……!!

「あ、あの、誰にも言いませんので!」

 それだけ言って、ぼくは落としたカバン片手に、その場から走り去ろうとした……が。

「ちょっ、待って!!」

 がしっ、と大きな手がぼくの肩をつかみ、逃げ出そうとした身体はピタッと止まる。
 恐る恐る振り向くと、大神先輩のつり上がった目が、ぼくを見下ろしている。ぼくはゴクリと唾を飲み、大神先輩が何かを言うのを待つことしかできなかった。

「……さっきの、俺、本気だから」

「……えっ?」

 静かに……だけど真剣にそう言い放つ大神先輩に、ぼくは目を瞬かせる。
 ……?一体どういうことだ?そうぼくが頭を悩ませていると、ふと先程の大神先輩の言葉が頭に過ぎった。

『ほかのやつなんざ渡してたまるか!』

 ……それってもしかして、ぼくも含まれてる!?そういえば大神先輩、ぼくが友沢先輩と話してると、いつも割って入ってきたような……。
 つまり、大神先輩はぼくのことを友沢先輩を狙うとして見ていて、今の『俺は本気だ』っていうのは、『俺は幸人を本気で愛してるからお前に渡さない!』という宣戦布告ってこと!?

 いやいや誤解です大神先輩!ぼくは友沢先輩を取るつもりはありません!!むしろぼくはお二人の関係の進展を応援したいんです!

 ……と、とにかく大神先輩の誤解を解かなければ。ぼくは彼と視線を合わせて口を開いた。

「……あの、ぼくは先輩方の邪魔をするつもりはないんです……。むしろぼくは、先輩方の応援をしていますから!」

「……えっ?」

 はっきりと自分の意思を伝えてしまうと、目を見開いたまま固まる先輩方に会釈をし、2人に背を向けて走り出した。

 先輩たちはまだ何か言いたげだったようだが、これ以上推したちの間に挟まっているのは、見守り側のマナーに反する……!
 ……決して、早く家に帰って、新作のBLの小説を書きたいわけじゃない!
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