もう我慢しなくて良いですか?

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第一部

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領主館にて、貴族としての作法や知識を学び、夫人から及第点を貰えた枢機卿フォーロスとメリシャは王都へ発つ日がやってきた。
見送りには領主館の使用人を含め、ほぼ全員が門前に集まった。
一部走ってくる者はいたが、領主の護衛に捕まったは踠きながら領主館に連れて行かれた。
領主夫妻はそれを苦笑しつつ、首を傾げるメリシャを促し、馬車は王都へ向けて出発した。
枢機卿とメリシャは義父と養女という体で、ルーとネリを抱えて馬車は進んでいく。
そして領主館に連れて行かれた彼は、とうとうメリシャに謝る機会を失った訳だが、彼が再会する日は意外と近いのかもしれない。


  聖女と王都

街を何度か泊まり掛けながら辿り着いた王都は、お世話になった領地よりも大勢の人々で賑わっていた。
馬車から降りた枢機卿とメリシャは正面に見える光景に歓喜していた。
入り口の門から屋台が並び、場所によっては商店が開き、そこへ集まる多くの人々が食べ物や道具を買っていく光景が遠目からもよく分かる。

「メリシャさ…。メリシャ、王都はどうだい?」

「うん、お養父とう様。人がいっぱい居るね。どんな所なのか、話には聞いていたけれど、実際に見ると皆笑ってるね。」

「それは良かったです。メリシャ様に喜んでいただけて私も来れて良かったと存じます。」

「お養父様。様は要らないよ?私達は家族、だよね?」

「ハッ。申し訳ない。まだ慣れなくてな。メリシャは慣れ…たかな?」

未だ親子という関係に慣れずにいる枢機卿は言葉に気を付けながらメリシャに尋ねる。
子犬のような見た目のルーはメリシャに抱えられた状態でそんな枢機卿を上目遣いで眺め、メリシャの側で眠るように目を瞑る小鳥ネリは会話を静かに耳を傾けていた。

「何とか。でも偶にフォーロス様って呼びそうになる。」

「そう、ですか。別に慣れる必要はありません。御家族が見つかり次第、御両親を呼んであげてください。私はメリシャ様の幸せを強く願っております故。」

女神に預けてから会う事のなかった両親の話が枢機卿から上がった事に、メリシャは枢機卿に黙っている罪悪感を感じ、それまで抱えていた感情に陰りが生じる。
ルーは落ち込むメリシャの手を舐めながら、心が晴れる事を願って普人に見えない程度に抑えた力でメリシャを覆う。
僅かに光るメリシャに目を見張る枢機卿を、ネリはそのつぶらな瞳を更に細めて睨んだ。
軽く会釈していた枢機卿は落ち込むメリシャに、自身が上げた主題のミスに気が付き、必ず見つけると言って誤魔化す事にした。
メリシャは話せない罪悪感を押し隠し、枢機卿に愛想笑いを送るのだった。
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